隠された才能

「へへへ、今日は何しようかなー? …お! おーいお前ぇ! 元気そうじゃーん!」

 雷鬼は妖怪ノ里にて、見知った顔を見かけるやいなや、さっそく絡んでいた。絡まれた鬼は、この里を護る獄鬼の一人である。彼はあ、と声をあげた。

「雷鬼さんじゃないすか。また親分を絡みにいくんです?」

「おう! 烈火のやつがどこにいるかわかる? つうか迷ったんだわ、ここどこ?」

「ここは妖怪ノ里ですよ。そういえば普段は獄鬼組の前に現れては、まっすぐ親分に向かいますもんね」

「社姐……じゃねえや。神社姫が調子悪くってなぁ。にしても、えらい妖怪の多さだなぁ」

 雷鬼ははぇーっと辺りを見渡す。と、行き交う妖怪の中に、見知った赤髪と角を持つ後ろ姿を見つけた。雷鬼は姿勢を低くすると突然走りだし、人混みを避けながらも、まっすぐ彼に向かって突き進む。

「烈火ぁああーー! オレだぁあーー! 受け止めてくれぇえー!」

「あ? なんや誰や、……って、またお前かあああああああい!?」

 ドォオン、と音を立てて烈火は雷鬼に抱きつかれ、そのまま転げ回る。その勢いに驚いた妖怪たちがささっと道を開けたために、幸い怪我人は烈火と雷鬼のみであった。転げ回ったあとに二人は寝転がり、雷鬼がすぐさま飛び起きる。

「いやぁー! よかったー! 知ってるやついたわー! マジで助かったぜー!」

「…ぬぁにが助かった、だ、こんのボケがぁ…!!」

「なあなあ烈火、今暇ー? 暇なら妖怪ノ里案内してくんねー? よくわかんなくてさー」

 仰向けに倒れた烈火の顔を雷鬼は覗き込む。烈火は額に血管を浮かべ、ぴくぴくしていた。

「お前ほんとにワイを怒らせる天才か…? 暇に見えんのかこれが。ええ?」

「いやぁ、そもそも獄鬼って普段何してるかわかんねぇからよー。暇かなーって」

「警備しとんのじゃ、警備! つか、おま、今までわかってなかったんかいぃい!?」

 烈火の突っ込みに対して、雷鬼はのんきにも笑いとばし、烈火の腕をつかむと立ち上がらせる。

「まあまあ、用は仕事中ってやつだろ? ぱぱーっと終われるよな?」

「なわけあるかい!! ええか!? ワイら獄鬼組は妖怪ノ里を護る戦闘部隊や! これはわかるやろ!」

「……いや、初めて聞いた。マジかー」

「嘘やろお前!!? 物覚え悪ないか!?」

 烈火は頭を抱える。そんな烈火の気苦労を知って知らずか、雷鬼は烈火の肩をバシバシ叩き、励ます。

「まあまあ烈火! なんとなくだけど、お前がリーダーってことはわかってっからよ! 気にすんなって!」

「誰のせいでこんの……っ!!」

「はいはーい、ちょぉーっと失礼するよぉ」

 烈火が今にも殴りかかりそうになったとき、彼の幼馴染みである黄名子が人混みの中から現れ、烈火たちの間にはいった。

「はいはい、烈火、落ち着いてぇ。流石に人の目が多いから、ちょっと移動しようかぁ」

「おま、何やねん! 先にコイツが…あででで!」

「お! 黄名子の姐さんじゃん! 元気にしてたかー? …って、あでで」

「うんうん、雷鬼くんは元気だねぇ。はい。移動するよぉー。ご迷惑おかけしましたぁー」

 黄名子は二人の耳を引っ張りながら、妖怪ノ里をあとにする。妖怪たちは、なんだ、いつものことかとほっと安心して、それぞれの持ち場に戻っていくのだった。
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