酒乱の宴

 獄鬼組にて。獄鬼組の鬼たちはそわそわと落ち着かない。そんな鬼たちに、雷鬼が声をかけた。

「おぉーう、みんな今日もお疲れだったなぁ! 今夜は無礼講! ぱぁーっと騒ごうぜぇ! かんぱぁーい!」

「「「かんぱぁーい!」」」

 我慢ができずに鬼たちは高々と盃をあげ、獄鬼の鬼たちは一気に飲み干す。雷鬼も酒瓶を飲み干し、ぷはぁっと息をついた。

「くぅーっ! やっぱうめぇわ! 突撃して正解だったわぁー!」

「オイオイオイ待て待て待てぇい!! ワイを差し置いて何組仕切っとんのじゃいこのあほんだらぁああ!!」

 助走をつけ、勢いよく戦斧でズドンと雷鬼の頭を叩いたのは、この獄鬼組をまとめあげる5代目酒呑童子ー烈火。そんな怒りを露にする烈火を、雷鬼は呑気にもへらへら笑い、ふらふらと立ち上がると肩を組む。

「へへへ、まあまあいいじゃねぇか烈火さんよぉ~。今日は無礼講なんだろぉ~? みんな酒飲みたがってたしよぉ~」

「肩を組んで来るなや、…て、お前まさかもう酔いが回っとんのか?」

 烈火はその手をべしんと払い除けても、雷鬼は気にせずけたけた笑う。

「だっはっは! まさかぁ! まだ三本開けただけだぜぇ~? まだまだ行けるってもんよぉ!」

「もうすでに開けとんのかいっ!! しかもそれワイの酒やないけお前ぇええ!!」

 烈火は笑い続ける雷鬼の肩をつかみ、がくがく揺さぶる。

「落ち着けってぇ~、せっかくの酒がこぼれるってぇ~」

「落ち着いていられるか! 表ぇ出ろ! その面叩き潰したるわっ!!」

「その前に飲めってばぁ~~。俺の酒飲めってぇのぉ~~??」

「いやだからそれワイの酒やあ言うてんねんっっ!!」

 そんな二人の様子を獄鬼の鬼たちは手を叩いて笑い、そしてそれを遠巻きに黄名子と憑喪が見ていた。

「あらら、さっそくじゃれあってるねぇ。派手に暴れないといいけどにゃあ」

「ゴメンネ、雷鬼クンガ勝手二…」

 憑喪が申し訳なさそうにうつむく。そんな憑喪に対して黄名子はのんびりと言った。

「いいんだよぉ。憑喪ちゃんも、もしよかったら、ジュースとか飲んでもいいんだよぉ?」

「ア、エット。ワ、ワタシハ二人ノ回収頼マレタカラ。アノ二人、オ酒弱イカラ」

「そっかぁ。ストッパー役ってことねぇ。憑喪ちゃんは偉いねぇ」

 黄名子が憑喪の頭を撫でる。最初はビクッと身体を縮こませた憑喪だが、温かい手の感触に、ずっと張っていた緊張を解く。

「…アリガトウ、黄名子チャン。…アトソノ、最初、疑ッチャッテ、ゴメンナサイ」

「大丈夫よぉ。…雷鬼くんに気持ち、伝わるといいねぇ」

「ア、ウ、ウン……」

 こそっと言った黄名子の言葉に、憑喪は顔を赤らめ、小さく頷いたのだった。

 一方で藍丸と蝋。しくしくと顔をふせてうずくまってる鬼を慰めていた。

「俺は弱虫うじ虫意気地無し腰抜け鬼だよぉお~~……うううう」

「そんなことないよー! 風鬼さんはめちゃめちゃ強くてかっこよくて教え方もよくて、誰よりも周りを見てる理性的な鬼だよー!」

「……風鬼、やさ、しい」

「そんなことないんだよぉおお~~。俺はあくまで物や妖怪や人をを飛ばせるそよ風程度しか知らなくて、その他は我を忘れないとうまく操れなくてぇえ……」

 えぐっ、えぐっと嗚咽をもらし、涙をだばーっと流すのは風鬼。雷鬼の相棒ではあるが、性格は正反対だ。雷鬼が笑い上戸であれば、風鬼は泣き上戸らしい。藍丸と蝋は泣き続ける風鬼の背を撫でて慰める。

「大丈夫だよ風鬼さん! 風鬼さんは雷鬼さんの相棒としてしっかりしてるよ! ボクが保証するよー!」

「蝋も……ほしょう……」

「でも二人もすごいじゃんかぁ。藍丸くんは獄鬼組の頭脳派とか言われてるし、蝋くんは用心棒でものすごく強いし…そんな俺が二人に妖術やら体術教えるとかやっぱりなんかちがう気が…」

「ちがわないよー! この前教えてもらった妖術のコツが的確で、この前すごくうまくいったんだよー!」

 なおも否定しようとする風鬼の言葉を、藍丸は遮るようにして言った。風鬼はボロボロと涙を流しつつ、不安げにたずねる。

「ほんとにぃ…うそじゃなくて…?」

「嘘なんかじゃないよ! ね、蝋お兄さん!」

「うん……風鬼、は、とても、教え上手」

「うぇえええ~~…俺なんかよりずっと、二人がやさしいよぉ~~……」

 再び机にふせ、おいおいと泣く風鬼。そんな風鬼の様子に藍丸は苦笑いを浮かべ、蝋も穏やかに微笑み、その背を撫で続けたのだった。
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