各々の距離感

ここは神社姫の守る異世界へ繋がる社の立つ場所。基本的にはあらゆる世界へ行けるが、迷いこんだ人間の応急措置としても機能しており、八百万の民に認められた神社姫が守る神聖な場所である。
 そんな神聖な場所にづかづかと侵入してきたのは、二人の鬼。鬼のなかで噂な問題児と臆病者である。

「ねぇ。帰ろうよ。また怒られちゃうよ」

「へーきへーき! おーい! 社姐(やしろねえ)ちゃーん!」

「……その名を呼ぶなと何度言えば、お分かりになられるのですか」

 社の近くの水面下からぬっと現れたのは、神社姫。社姐とは、この神社姫が鬼の里にいたときの名前である。雷鬼はぱん、と両手をあわせて懇願した。

「今日もあいつらの元に行きてぇんだ! 頼む!」

「お断りします。帰りなさい」

「妖怪ノ里にある獄鬼の元に行きたいんだ!」

 神社姫はまたか、とこめかみをおさえ、たずねる。

「…何か、行事でもあるとでも?」

「そうそう! 知ってるか? とうとうアイツに彼女ができたんだってさ! 多分オレでも予想できるやつだと思うんだ! それを確めに」

「そうですか。お帰りください」

「たーのーむっ! この通りだ! 友だちの元へ行くくらいいいだろぉ!?」

 雷鬼は拝み倒すのに対し、神社姫は呆れたように見下ろす。そんななか、おずおずと手を上げて声を上げたのは風鬼だった。

「や、社姐…じゃなかった、神社姫。俺からも、その。いいかな。交友関係を広げたいというか…」

「貴方、強引に連れてこられたのでは」

「あはは……と、とにかく、な、なんとかできないかな。俺、雷鬼の面倒見るから。時間内に戻ってこいって言ったら、戻ってくるし」

「えぇええ!! 時間制限は流石にひどくねぇか!?」

 雷鬼の嘆きを無視し、風鬼は言った。

「神社姫。お願い。約束は守るよ」

「…………貴方は鬼のなかで臆病者と聞きましたが、その目は誠にございますね」

「まさかの風鬼に信頼置いちゃうの?? オレ前回約束守ったよな??」

「貴方は強引がすぎるのです。自重するようにお願いします」

「えええええ~、そんなぁ」

 雷鬼が嘆いている間に、社は光を放ち、異世界への扉を開く。

「では、風鬼様。雷鬼様をよろしく頼みます」

「うん。わかった」

「よっしゃぁああ!! ありがとな社姐ちゃん!」

「だからその名を呼ぶなと」

「待ってろよ空乃、烈火ぁあああーー!!」

「わああすみません、いってきますーーー!」

 ビリビリと閃光が走り、そのまま異世界へ飛び込む雷鬼と、その後を追いかける風鬼。二人が去ったのを見送った後で、頭を抱えた。

「……次の言い訳は、どうすべき、か……」

 はあぁ、と神社姫は大きくため息をついたのだった。
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