きんいろの奇跡
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あの後締め付けられるような苦しさを味わった名無しさんだったがこれ以上この場所に居るのは心配をかけてしまうと軽く芝生を払って昇降口に向かっていた。
「どーーーん!!名無しさんお姉さんゲット〜〜!!」
「うわぁって、クララ?!」
とぼとぼと下を向いてしまいそうだった気持ちとは裏腹に、元気よくタックルされた後ろを見れば笑顔満開なクララが抱きついていて名無しさんの沈みそうだった気持ちが浮上していく。
「痛いよ〜クララ〜、今日は1人?」
「んーん、いるまちとアズアズも居るよー!あそこ!」
そう言って指を差したのはかなり後ろから走ってくる2人の姿。相変わらずだなと名無しさんは笑いながらクララを見ためれば、不思議そうな瞳と目がかちあった。
「うーん、名無しさんお姉さん元気ぺこぺこ?」
腕を組み少し考える仕草を見せたクララを見て、これじゃいけないなと名無しさんは大きな口を開いて笑う。
「お腹はペコペコ〜!!おりゃおりゃ」
「ひゃーっ!やったなぁ〜!!」
頭を豪快に撫でてあげると嬉しそうに声をあげて仕返しをしようとしてくるクララ。その余りの無邪気さに先程までの悲しみは吹き飛んでいた。
いつのまにか手に持っていた盾を駆使しながら攻防を続けていると、息絶え絶えになった2人が到着する。
「ウァラク!また貴様はご迷惑をっ!」
「迷惑なんてかけてないもーん!ただの遊びだもーん」
「はぁっ...はぁっ...名無しさんさんも今帰りなんだ」
「ヘトヘトだね入間くん。それにアズくんもお疲れ様」
「えーーっ私は私はー?」
「はいはいクララもお疲れ様」
「やったー!んじゃあ名無しさんお姉さんも一緒に帰ろーう!」
よく分からない歌を歌いながら帰るクララはいつも楽しそうで。
その元気に今は心から救われるなと名無しさんは思いながらも4人仲良く帰路へとついた。
「「ただいまー」」
「おや、お二人共ご一緒ですか。お帰りなさいませ」
「それにしても時間が被るなんて嬉しいなぁ。ね、名無しさんさん!」
「..........可愛い!」
「わぁっちょっやめてよーー」
ほんわかとした笑顔で言ってのけた入間に名無しさんは今日も癒される。恒例のごとく頭を撫でる光景はこの家ではよく見かけるもので。
「はいはい戯れるのはそこまでにして着替えが済んだらお食事ですよ」
「「はーい」」
オペラの声を合図に各々部屋へと別れていくが全身芝生だらけの服を見て問いただされたのは言うまでもない。
オリアスに好きな人が居ると知った日以降、名無しさんの行動は以前のように...それ以上に明るさを取り戻したかのように日常へと戻った。
自覚した気持ちが叶わなくとも、ただ変わらず楽しい日々を送る事が出来れば幸せだと一晩考えてその考えに至ったからだ。
「名無しさんちゃんおはよう〜!」
「オリアス先生、おはようございます」
「おはようございますっ名無しさんさん!」
「はははっ、はいおはようございます、ロビン先生」
相変わらず朝から元気だなと笑顔を返せば、嬉しそうに笑った2人を見て名無しさんもまた嬉しくなる。
「(うん、今のままで十分幸せだな)」
あの時感じた心臓の痛みが嘘だったかのように、名無しさんはいつも通りに笑い日々を過ごした。
朝のチェックや掃除を終えて、いつもの場所で一休みする。そんな何気ない毎日を送っていると、今日もまたふらりとその人物は現れた。
「お疲れ様〜!隣、いい?」
「今日も早かったんだ、オズくんもお疲れ様〜」
ふわりと笑った名無しさんを見て一瞬オリアスは固まるものの悟られないように帽子を目深に被り差し出された魔茶を受けとる。
そしてそっと横目で盗み見ればあまりにも幸せそうに桜を眺めている名無しさんが居て、その美しさに目を奪われながらバレないようにと上を見上げた。
「あ、そう言えば今度のお休みって空いてたりする?」
「今度....あ!駄目だ。今月はオペラさんとの特訓が...」
「...。そうなの?名無しさんちゃんも大変だねぇ〜」
「最近追加された修行もそうなんだけど、また新しくメニューを作るから味見して貰おうと思っててさ」
「へぇ〜え凄いじゃん。名無しさんちゃんのメニュー、俺らの中でも評判良いよ」
「俺らの....あぁ、他に食べてくれてる
「当然でしょ〜あんな旨いんだから」
「へへっありがとう」
何気なく言ったであろう言葉でも、今の名無しさんにとっては飛び跳ねるぐらい嬉しくて。
「オズくんは最近やけに楽しそうだけど何かあった?」
「んー?いやぁ〜あったような戻ったような?」
「どっちなんだろな、それは」
「さてねぇ〜。まぁでも日常が一番だよね〜って話だよ」
「...あぁ、それは何となく分かる」
目を伏せて幸せそうに笑ったオリアスを見て、名無しさんは少し切なげに目を細めるがすぐさま全開の笑顔になって、ベンチから立ち上がった。
「よし、今日も頑張るぞ〜」
「俺もそろそろ行こうかな」
他愛もない、何でもない日常。
それを好きな人と過ごせるのはどれだけ幸せな事か(名前)もオリアスも身に染みる程感じていた。
「名無しさんちゃん」
「おわぁっ!」
あれから時間は過ぎ、帰る身支度を済ませた名無しさんは中庭が見える廊下からぼーっと下を眺めていると突然後ろから声をかけられて飛び退いた。
「ごめんごめんそこまで驚かすつもりは無かったんだけど」
「いやいやいや、気配皆無だったからね?」
「準備室に戻る途中偶然見かけたからさ。...何してたの?」
「んー?そうだなぁ...景色を眺めてた」
「ふぅ〜ん僕に言えない事なんだ」
「そんなつもりは...って、え?!ちょ」
「はいはい大人しくしようね」
突如として現れたバラムに拉致されるかのごとく運ばれる名無しさん。彼女がどれだけ暴れようとお構い無しに準備室へと連れてこられた。
「はい、どうぞ。あったかいよ」
「...いや、いやいや何急にどうしたの?」
「それはこっちの台詞だよ。一体どうしたの?また何かあったのかい?」
まるで名無しさんの心を見透かしているかのようなバラムの言葉に名無しさんは少し目を見開いて魔茶を啜る。
そして少し時間を置いた後、何て事も無いように言葉を発した。
「実はさ、最近フラれちゃってね」
「...................................................へ?君が?え?」
「そんな驚かなくても。私も普通の人間なんだから失恋ぐらいするよ?」
「えっ、ちょっと待って。フラれた事は勿論なんだけど、え、君好きな
ちょっと待って、頭が追いつかないとアワアワするバラムを見て名無しさんは笑いながら彼が落ち着くのをそっと待つ。
「えっと、順を追って聞かせてね?まず君こないだまで恋愛話は大変とか何とか言ってなかったっけ?」
「それがさ、ある日突然自覚したんだけどそれと同時に失恋したもんだからまぁ、悲しくて」
「全っ然そんな風に見えなかったんだけど...それっていつの事?」
「先々週ぐらいかな?」
「そんな前なの?!どうして何も言ってくれなかったんだい!何か力になれたかもしれないのにっ」
「何というかさ、実感がないまま終わっちゃったからそう言う物かーって...」
ここにきてやっと少し悲しげに笑った名無しさんを見て、嘘では無いのだと改めてバラムは痛感していた。
そしてそれ以上に名無しさんが失恋したのだと言う悪魔の正体が気になって仕方がなかった。
「オリアス先生から相談に乗ってあげてくれとは言われたものの...まさかそんな前だったなんて」
「?!...え、オリアス先生が、何?」
バラムからまさかの人物の名前が出てきたからか名無しさんは少し心臓をドキドキとさせながらもバラムに問いかける。
「君の様子がおかしいから、空元気に見えるから様子を見てあげてくれないかってちょっと前に頼まれたんだよ」
「何でそれを.......バラム先生に」
「さぁ。自分じゃ相談相手になれないからとは言ってたけど...」
そこまで聞いて名無しさんはふと過去の記憶を掘り返す。
【今日はミスでもしちゃった?元気ないねぇ】
【最近大変そうだねぇ〜、何かあったの?】
【疲れてる時は早めに休むんだよ〜】
【はいこれ、元気が出る飴〜!食べてみな、旨いよ】
言われてみれば、やたらと気にかけてくれていた気はしたものの今の今まで気が付かなかった自分が恥ずかしくなり名無しさんは真っ赤に顔を染め上げる。
「いきなりどうしたの?!火傷しちゃった?風邪でも引いたのかい?」
「あ、いや、その.........うぁああ、はずかしっ」
「(名前)ちゃんっ?!」
へなへなとしゃがみ込み、体育座りになった名無しさんの顔は耳まで赤い。そんな状況をアワアワとバラムが見守っていると、数回ノックが聞こえた後まさかの人物が現れた。
「えっ何!どう言う状況?!」
それもそのはず、1人は体育座りで蹲っており、もう1人はその周りをアワアワしながらうろちょろしていたからだ。
「あのバラム先生これは一体...」
「いやそれが僕にも原因が...」
「オリアス先生っ、ちょっと今良いでしょうか!」
「へっ俺?うん、まぁ全然良いけど...ってどうしたの?顔真っ赤だよ。熱でも出てるんじゃ」
「これはっ....こういう顔です!!」
「どういう意味?!」
「バラム先生ありがとうございました!ちょっと出てきますね!」
「ちょっ名無しさんちゃん?!...って訳なのですみません少し失礼します!」
未だ真っ赤な顔のまま、しっかりとお礼を告げてから部屋を出る名無しさんの手は控えめながらにオリアスの袖を掴んでいて。
「なーんだ、失恋何てしてないじゃない。ふふっ」
何やら合点がいったかのように頷いたバラムは嬉しそうに笑った。
黙ったまま名無しさんが連れてきたのは、放課後で今は誰も居なくなった植物塔の屋上。
何が何だか分からないまま連れてこられたオリアスも名無しさん同様少し顔が赤くなっており言われるがままベンチに腰掛ける。