きんいろの奇跡
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「(確か...この部屋だったよね)」
名無しさんは今自身の仕事を終えた後、私服に着替えた状態で何故か教室の隅に座っていた。
事の発端はこうだ。
バラムから告げられたのは、1週間後一斉に補修授業が開始されその間の参加は該当者以外は誰でも参加自由であるというもの。
勿論認識阻害グラスを用いてはいるものの名無しさん自身魔界に来て初めての授業だったので色んな意味でドキドキしながらその時を待っていたのだ。
「はぁーい、それじゃあ全員揃ったかな?授業始めるよぉ〜」
「「「はーい」」」
「よし、元気がいいなぁ〜。補習者は最後の小テストもその勢いで乗り切ってね」
笑顔で、それでいて確固たる自信を持って授業を始めていくオリアス。途中投げかけられた質問にも分かりやすく答え、途中笑いも交えながら生徒を置き去りにする事なく進んでいく占星術学は初参加の名無しさんからしても面白くて。
いつも何気なく会話していた人物とはまた全然違った一面が見えてきて、その余りにも楽しそうに授業をしている姿に名無しさんは無意識のうちに心臓を抑えていた。
「じゃあ次はー....君、ここの問い分かるかな?」
「!!」
意味不明にドキドキと高鳴る心臓を抑えながらも恐る恐る答えれば、何とか合っていたようでほっと一息つきつつ着席すれば
「よく復習してるねぇ〜偉いじゃん。今の問い、大事な所だから皆も忘れないようにね〜」
少し挑発的な笑顔で、それでもどこか嬉しそうに褒めたオリアスを見て名無しさんの心臓はうるさくなるばかりで、後半の授業内容に至ってはぼぼ覚えていなかった。
やっと授業が終わりちらほらと退出していく生徒達を見てハッと意識を取り戻した名無しさんが見たものは、教卓の周りに男女問わず集まって囲まれているオリアスの姿。
「ま〜たその話?何度も断ってるでしょ〜」
「えーっ一回ぐらいいいじゃーん!一緒にご飯食べようよー」
「駄〜目。君達は学生同士で仲を深めなさい」
「じゃあ先生俺たちとは?!女じゃなければいいんだろ?」
「そういう事じゃあ無いんだけどね」
軽くあしらいながらも適切な距離を保ち授業についての質問には的確に教え楽しそうに笑うオリアスを見て、名無しさんはまたギュッと心臓が鷲掴みにされた気がして気がつかれないようにそっと教室を後にした。
「何だろ.................これ」
嬉しいのか緊張なのか処理仕切れない感情を胸に一人昇降口をくぐったのだった。
あの授業の日から名無しさんは気持ちの整理がつかなくて、無意識のうちにオリアスとの時間を避けてしまってから10日目。
出勤時間は勿論屋上での休憩、帰ってからの通話に至っても「暫く忙しくなる」との言い訳で時間をずらしたりして誤魔化していた。
「はぁ〜〜〜どうしたんだろ」
普段は来ない中庭奥の静かな芝生の上でコロコロと転がりながら答えの出ない感情に悩まされていると、聞き馴染んだ声が聞こえてきて、名無しさんはいつの間にか動きを止めていた。
「で、で?どんな感じなの〜最近!何か進展あったりした?」
「ツムルお前直球すぎ。オリアス先生がドジ踏む訳ないだろ」
「そんな事もないよ〜。どーも最近避けられてるみたいでねぇ」
聞こえてきたのは、イポスやムルムルだけでなくあのオリアスの声も混ざっていて、まるで石化でもしたかのように名無しさんは転がったまま固まっている。
「えーっ?!でもこないだまでいい感じだったようにみえたけど」
「...はっ!まさかもう手を出してしまったとか」
「んな訳ないでしょう。これでも紳士だよ〜俺は」
「意外だよな〜!普段からじゃ全然分かんないっつーか」
「ツムルお前はまた...」
...一体何の話をしているのだろうか。
名無しさんはこの先を聞きたいような聞きたくないような気持ちにかられていた。
「告白はまだなんですか?」
「まぁね。俺の一方的な片思いだろうし、敵が多いの何のって」
「「あぁー..............」」
「でしょ?その中で少し仲が良いぐらいだから、まだ時期じゃあ無いんだよ」
「.........見かけによらず一途だもんなぁオリアス先生」
「ばっ...だからお前は!」
「いいよいいよ〜、よく言われるし今更気にもしてないからねぇ〜」
「あ〜、聞かせてやりたいなーあの子に。こーんなにも君の事思ってるんだよ!って」
「はははっその気持ちだけ受け取っとくよ、ありがとね」
そのまま笑い声をあげて小さくなっていく3人の声。
それが全く聞こえなくなったかと思うと名無しさんは芝生だらけになった全身を見て悲しげに笑う。
「そっか、オリアス先生...好きな人居たんだ」
先程の話を聞いていて、相手はよほどの人気な悪魔なのだと言う事は分かった名無しさんだったが、それと同時に自分が抱えていた感情にも気がついて小さくうずくまる。
「...そっか私、好きだったんだ.........そっかぁ」
震えそうな声に笑ってしばらく名無しさんはそのままの時間を過ごした。