きんいろの奇跡
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ん〜何これめちゃくちゃ美味しい、オリアス先生も食べ...........え?!」
オリアスが最大に赤面をし固まっている事には気が付かず、料理を堪能していた名無しさん。
しかし視界に飛び込んできた真っ赤な顔を見た名無しさんは焦ったように声をあげる。
「大丈夫?!どうしたの顔真っ赤だよ?え、風邪引いた?!」
微動だにしないオリアスをみてこれは重症だと焦ったように名無しさんがス魔ホを取り出せば、無意識のうちにその腕をオリアスは掴む。
「っ、ごめん大丈夫。大丈夫だから、ちょっと待ってね」
「気がついた?!顔赤いし汗もかいてる...つらい?」
「ごめん、反動みたいなものだから...ちょっと顔洗ってくるね」
「...分かった。でも心配だから、10分経っても戻らなかったらノックしに行くからね」
「大丈夫、ありがとう名無しさんちゃん」
フラっと立ち上がり赤く染まった顔を抑えながらもお手洗いに消えていくオリアスを心配そうに見送る名無しさん。
その一方でオリアスは処理しきれない頭を抱えて洗面台にて頭を冷やしていた。
「あっぶねぇ〜....何これ、すげードキドキしてるんだけど」
心配そうな顔をして近づいてくる名無しさんを思い出しただけでも動機は増す上顔も熱い。
笑い声や言われた言葉を反芻するだけで、頭に血液が集まる感覚を覚えてオリアスは頭から水を被る。
「よく今まで、平気でいられたな...俺」
過去にこんな感情を抱いた事がないオリアスはそれなりに過ごした悪魔生の中で一番ドキドキしている自覚があった。
...それなりに過ごして、それなりに恋愛もしてきたと思っていたのだ今の今まで。
でもそれは全くの勘違いだったと全身全霊で身体が叫んでいて初めての感覚を持て余す。
「はぁあああ.................落ち着け、今は忘れろ。ドキドキすんな〜俺」
まるで呪文かのように自分に言い聞かせるオリアスはオフと言う事を差し置いても、誰も見た事がない状況になっていたのは明らかで。
このままでは埒が開かないと深呼吸を繰り返し少しオンにする事で何とか時間内に赤面を押さえ込み何も無かったかのように扉をあけた。
「!.....大丈夫?」
「あぁ、ごめんね。寝起きに辛いの食べ過ぎたみたいだね」
「...................焦った〜。風邪でも引かせちゃったのかと...」
「ほんっとごめんね!もう大丈夫だからさ」
両手を合わせて頭を下げれば安心したように名無しさんは息を吐き、先程まであった穏やかな空間に戻っていく。
「ふ〜食った〜.................」
「うん、デザートまで美味しかったな〜」
「分かる、案外種類もあって旨かったね」
一時はどうなる事かと思ったオリアスだったが、穏やかに笑う名無しさんが居るからなのかオンにしていたモードはまた無意識のうちに完全オフになっていた。
「.......そろそろ帰る?」
「んー.................だねぇ。帰るか〜」
「じゃあちょっと身なり整えてくるよ」
「りょーかい。ゆっくりしてきな」
名無しさんの姿が見えなくなって、ふーっと息を吐き出したオリアスは倒した身体のまま心臓を抑えて幸せそうに笑う。
「お待たせ。えーっと、あれ...レシート見てない?」
「もう済んでるよ」
「なっ...いやいやっ私も払うよ!」
「いーのいーの、今日は俺の我儘に付き合って貰ったようなもんだし気にしないで」
「いやでもここ...結構するんじゃ...」
「こう言う時は、男を立てるもんだよ名無しさんちゃん。ね」
「わ...かった。ご馳走様です!オリアス先生」
「ん。どういたしまして」
お店を出れば送ると言って譲らないオリアスに連れ添って貰いながら静かな夜を2人で歩く。
「......楽しかったな」
「俺も...楽しかった」
噛み締めるように漏れ出た言葉に、顔を見合わせて2人で笑う。
柔らかい風が吹きザク...ザクと歩く足跡だけが心地よく響き渡り怖いはずの暗がりにすら恐怖すら感じられない。
「名無しさんちゃんは、この後もちゃんと眠れそう?」
「全然いける。寧ろお風呂入ったら即寝落ちそう」
「ははっ俺も。何だかんだで結構遊び倒したしね」
「次こそ一勝は取ってみせる」
「出来るもんならいつでもどーぞ?」
「あ、言ったな?私伸び代だけはあるからね」
要注意悪魔だよ、と得意げに笑った名無しさんを見てオリアスの胸には言葉にならない感情が溢れてくる。
静かに息を吐き出してその高鳴りを誤魔化すかのように、オリアスは名無しさんに問いかけた。
「そう言えばさ、勝者の景品決めてなかったよね」
「...........あ。そう言えば」
「でしょ?俺も今気がついたんだけど、どうしようかなと思ってさ」
「何でもいいよ〜!私に出来る事ならご飯だって今ならご馳走様できる」
何でも言って!と笑った名無しさんにオリアスは待ってましたと言わんばかりに言葉を紡ぐ。
「んー...じゃあ、俺の事名前で呼んでよ」
「.......名前?」
「そう、名前。オリアス先生、でも悪くは無いんだけどね、一応ほら俺もオフだからさ」
「確かに。先生呼びだと仕事っぽくなっちゃうか」
「そういう事。俺の名前は覚えてる?」
「オズワールでしょ、忘れないよ」
「...うん、合ってる」
間髪入れずに呼ばれた名前。
オリアスは思わず息を飲み込んだ。それでも悟られないように努めて平静を装い話すのは、今日自覚したばかりの気持ちを上手く言葉に出来ないからで。
「ん〜............オズワール先生か...何か違和感」
「いや、先生はいらないでしょ」
「だとしたら呼び捨て?いやでもそれはなぁ...」
「好きに呼んでよ。略して呼んでもあだ名とかでも大丈夫だよ」
「略し............あ!オズくんとかどう?先生も無いし、オフ感ある!」
それはもう嬉しそうに声を弾ませて呼ばれた名前。たったそれだけの事なのに体中が幸せで満ちていくのは名無しさんの力なのか。
オリアスは少し耳を赤くしながら頬をかき嬉しそうに笑った。
「いいねぇオズくん!仲良しって感じがする」
「だよね?学校ではオリアス先生になるだろうけど、2人の時はオフモードの方にする」
「ちゃんと切り替えられるのかな〜」
「安心して、伸び代がある女は成長するからさ」
「ははっそれじゃあ期待しておこうかな」
どこまでも穏やかで、いつまでも笑顔で歩く2人の夜道。まるで切り取られた2人だけの空間のように月明かりだけがその姿を見守っていた。
「送ってくれてありがとう、本当今日は楽しかった!」
「お礼を言いたいのは俺の方だよ。付き合ってくれてありがとね名無しさんちゃん」
「次は私の好きな場所に案内するよ」
「お、楽しみにしてる」
「じゃあー....おやすみなさいだ、オズくん」
「うん、名無しさんちゃんもね。おやすみ」
お互い名残惜しく手を振り合ってから名無しさんが屋敷の中に消えるまで見守るオリアスは、静けさを増した月夜の中眉毛を下げてそれでも幸せそうに笑う。
「まさか今更、こんな恋をするだなんてなぁ」
それはまるで初恋のように甘酸っぱくて苦しくてそれ以上に幸せを感じられるキラキラとした思いの形だった。