とぼとぼと反省しながら歩く廊下は、ほとんどの生徒が残っていないのかやけに静かで名無しさんの心に、より一層罪悪感を植え付ける。



「（明日また改めて謝りに行こう...申し訳ない事、したな....）」



小さな拳を握り彼女が一人決意を固めていると、前からイフリートと一緒にムルムルが歩いてきたので笑顔を作った名無しさんはお疲れ様ですと声をかける、が...



「だからさ〜今度のライブが倍率高すぎるんだって〜！助けてよエイト先生〜」

「はー...別にいいけどさ。あれ地味にアクセス大変なんだからピザぐらい奢ってくれよ？」

「勿論！何ならライブも一緒に行こうぜ！チケ代は奢るし！」

「いやそれは遠慮するわ」



2人に届く事は無く、まるで名無しさんが居ないかのように通り過ぎて行く。まるで、最初から名無しさんの存在が消されてしまったかのように、自然にそれは起こっていた。



「..............ん？今誰か居なかった？」

「...いんや？見てねぇーけど...怖い事言うなよ」



驚き立ち止まっていた名無しさんの横を通り過ぎた時、何か違和感を感じたムルムルは一瞬辺りを見渡すがそこにはやはりイフリートしかおらず気のせいだったかと笑い声をあげて歩いて行った。



「なんだ、これ.................」



ぎゅうぎゅうと締め付けられる心臓に、早くなる鼓動。理解が追いつかず出てくる冷や汗。震えが止まらない掌を握りしめながらも、名無しさんは気づけば走り出していた。

途中通り過ぎる生徒会員にも、自分の事は見えていないようで止められる事もしない名無しさんは、無我夢中で走り抜ける。



「（もしかして...............人間界に帰ってしまう前兆なんじゃ...）」



あんなにも充実していた魔界生活が一気に崩れ去る音がした。



「はぁっ、はぁっ..............っ、まだ、大丈夫か」



視界に映る掌を見つめて、透ける事無くそこにある事に安心したのか、誰もいない帰路をゆっくりと歩き始めた名無しさんは深呼吸を何度も繰り返した。



「何の歪みかは分からないけど、あの一瞬だけだったのかな」



迷わずにサリバン邸へと歩みを進める名無しさんだがその表情は暗い。



「...そうだ、こう言う時は甘いもの」



気分を変えようと瓶を取り出せば、中身は沢山残っていて一つ手にとり口に含めばあのホロホロとした甘い食感が少なからず名無しさんの気持ちを癒していく。

あの優しい人達に心配をかけないようにと、明るい気持ちに切り替えられるよう名無しさんは精一杯努めていたのだ。



「ただいまー」

「...おかえりなさいませ、名無しさん様」

「！！うん、ただいま！」



少しの間はあったもののしっかりと自分を認識してオペラが答えてくれた事に、名無しさんは満面の笑みで答えつつ安心したかのように自室へと向かう。



「あれは.................」



しかし、名無しさんの後ろ姿を見てオペラが少し思案していた事を彼女は知らない。



「ご馳走様でした。オペラさん、今日も美味しかった〜」

「それはありがとうございます」

「名無しさんちゃん今日は疲れてるっぽいし、無理しちゃ駄目だよ〜？」

「ありがとうおじいちゃん、ちょっと掃除頑張り過ぎたのかも」

「入間様も今試験に向けて勉学に励まれておりますし、名無しさん様もご無理のないようお気をつけ下さい」



2人に隠し事は出来ないなと温かい気持ちになりながらも、何も問われない優しさに救われて名無しさんはいつもよりかなり早めの就寝についた。