きんいろの奇跡
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ーコンコンコン
「どうぞ」
「失礼します」
「あぁ名無しさんちゃんか。待ってたよ」
「今ってお仕事大丈夫?」
「うん、今日の分はもう終わってるから入っておいで」
出迎えてくれたのは、準備室にて書類を書いていたバラム。名無しさんが来た瞬間チラリと時計を見て何も言わずに魔茶を入れてくれる紳士だ。
「バラム先生お疲れ様!差し入れ食べる?」
「わぁ〜ミートパイだ!小腹が空いてたから助かるよ、ありがとう名無しさんちゃん」
「こちらこそお疲れの中時間とってくれてありがとね」
「ふふっどういたしまして」
差し入れを受け取ってからそっと魔茶を差し出してくれるバラム先生の眼差しは柔らかい。
名無しさんにとっても、最初に良くしてくれた悪魔という事もあり穏やかなバラムの側は安心するのだ。
「は〜......美味しい〜沁みる〜」
「大変だったみたいだねぇ」
「うん、でも...想像以上に楽しかった」
「そっか、それは良かった」
「...悪魔ってあんなに種族が居るのに、食べる時は皆変わらず嬉しそうに食べてくれるのは何かこう...嬉しいもんだなーってさ」
むず痒そうにそれでも嬉しそうに頬を緩める名無しさんを見て、バラムは優しげに目元をゆるめる。
「初日はどう?何か困った事は無かったかい」
「思ったよりもバタバタだったけど、皆いい悪魔であっという間だった」
「うんうん充実した日になったみたいで安心したよ」
「やっぱりいい所だなぁ...悪魔学校は」
ここに来て良かった、と何の不安も無く嬉しそうに言い切った名無しさんを見てバラムは眉を下げながら笑ったが、軽く頭にポンと手をのせる。
「それでも油断は駄目だよ。何かあってからじゃ不味いんだから、すぐに僕達を頼る事、いいね?」
「うん、その時は全力で叫ぶ」
「いい子だ。あ...そう言えばケーキご馳走様、凄く美味しかったよ」
「わ、本当?良かった〜!オペラさんに習って練習はしたものの、やっぱり人に渡すとなると多少緊張がね」
「皆喜んで食べてたよ。最後はジャンケンしながら取り合ってたからねぇ。...そういえば、珍しく
と言い切った所で、ノックが聞こえたすぐ後に思いも寄らない声が響く。
「シチロウ、邪魔するぞ」
「!カルエゴ先生っ?」
「何故貴方がここに」
カルエゴが来た事により、座っていたソファーから飛び起きすぐさま頭を下げて挨拶をする名無しさんは、そういう訓練をしていたかのように俊敏だった。
「お仕事お疲れ様です、カルエゴ先生」
「あぁ。貴方も朝早くからご苦労でした」
カルエゴの手には書類やらファイルやらが握られており、状況を察した名無しさんはすぐに身支度を整えて湯呑みを片付けた。
「それじゃあバラム先生私はそろそろお暇しますね!美味しい魔茶もご馳走様でした」
そこのミートパイ、3つあるので良ければどうぞと笑って2人に頭を下げて出ていく名無しさん。その時間、カルエゴが入室して2分間での出来事で名無しさんが出ていってからしばしの間2人は放心していた。
「一瞬だったね...そんなに焦らなくてもいいのに」
「俺の書類にすぐ様気がついていたからな。気を遣わせたか」
「まぁでもちょうど良かったよ。今魔茶入れるから君の持ってるケーキも食べつつ一緒に休憩しよう」
「気づいていたのか」
「うん、君が珍しく甘味を手にしていたからね」
「...フン、これは侘びだと言って差し出された物を無碍にする訳にはいかんだろう」
そんな会話をしつつも、名無しさんが置いていった小さなミートパイを2人で摘んだ後、食べやすくスティック状になった黒いケーキを口にするカルエゴ。
珍しい光景にバラムは笑い、終始カルエゴは不機嫌そうな顔で食べ切っていた。
「(カルエゴ先生初めてちゃんと見たけど、思ったよりも怖くなかったな)」
予想に反して労いの言葉を貰えて嬉しかったからか、名無しさんはニコニコとしながら廊下を歩いている。
すると彼女の視界の先に、突如として現れたピンク色。
見た人全てを魅了するかのように名無しさんもまた自然とその場所へと歩き始めた。
「うっわぁ〜.......綺麗...」
想像以上に大きくそして美しく聳え立つ桜の木。視界いっぱいに広がるピンクの花に呆気に取られながら眺めていると、思考の外から声がした。
「口開いてるよ」
「!」
「はははっビックリした?」
「お、オリアス先生?」
声がした方を見上げると悪戯っぽく笑いながらこちらを見つめる金色の瞳。
金縁に縁取られたまつ毛を揺らしながら、ゆっくりとフェンスに腕をかける姿はとても綺麗で。
「綺麗だよねぇ〜この花。入間くんが出したらしいよ」
「みたいですね。でも想像以上でびっくりしました」
オリアスが上へと視線を移している様子を名無しさんは引き込まれるように見つめていた。
「名無しさんちゃんは今帰り?」
「はい。初日だからゆっくり休めって早めに上がらせて貰いました」
「ははっそれなのに寄り道してたんだ〜、勿体無い」
「これは目と心の癒しになったのでノーカンです」
「言うねぇ〜」
おかしそうに笑って、また桜を見上げるオリアスと名無しさん。そこには会話はなくとも穏やかな時間が流れていく。
「(落ち着くなぁ〜この景色。まるで人間界に戻ったみたいだ)」
ひらひらと舞う桜の花びらが手のひらに落ちてきて、それを嬉しそうに名無しさんが眺めているとぐーっと伸びをしたオリアス。
「さて、俺はそろそろ行こうかな。名無しさんちゃんは?」
「そうですね、私も帰ります」
「それじゃあ途中まで送るよ〜。職員室前通るでしょ?」
「はい」
桜を背にゆっくりと歩き出せば、自然と溢れる会話。以前オフで遊んだ影響か、気を張らずに居られる居心地の良さに今はまだお互い気がつくこともなく賑わい残る廊下を歩く。
「オリアス先生〜!ばいばーい!」
「はぁ〜いお疲れ〜」
「オリアス先生ー!また恋愛相談乗ってくださいね!!」
「次の小テストでいい点とれたらいいよ〜」
「「えーーーっ」」
生徒達に好かれているのだろう、すれ違う皆が挨拶をして好意的に接してくる様を横で見ていた名無しさんはニマニマと笑顔になっていく。
するとそれに気がついたオリアスは少し屈んで名無しさんの顔を覗き込む。
「どーしたの?嬉しそうだね」
「オリアス先生、人気なんだなーと」
「それが嬉しいの?」
「はい!この悪魔学校は私にとって来てみたかった場所の一つなので、こんな近くで生徒さん達とのやり取りを見られるのは嬉しいなって」
「............変わってるねぇ」
その言葉とは裏腹に眉を下げて笑ったオリアスは、いつもの自信に溢れた笑い方とは違って少し幼く名無しさんの目には映る。
「いつまで笑ってるの」
「笑ってません」
「笑ってるじゃない」
「笑ってないです」
「頑固だなぁーもう〜」
「笑いました」
「ははは!何の意地なのそれ」
おかしそうに肩を震わせて笑い声をあげるオリアスを見て、やっぱり笑ってないですと告げる名無しさん。その2人の後ろ姿は生徒達からしたら視線の的で、バラム先生に次いで新たな噂が生まれることになろうとは本人達は知る由もない。