きんいろの奇跡
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「オペラさん、よろしくお願いします!」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」
あの日から1ヶ月、名無しさんはこの世界での食べ物の知識や家事の一切、筋トレを含めた魔術についてを学んでいた。
「まだまだ脇が甘い!そんなのじゃ食器を持ってもひっくり返しますよ」
「頑張ります!」
「もっと両手に魔力を込めて、背筋は真っ直ぐに!」
「はい!」
「歩くスピードを緩めない!」
「はい!!」
...そう、言わずとも知れたスパルタ教育である。
名無しさんから言い出したものの、オペラの指導に甘さは微塵も無く名無しさんが過酷な魔界で生きられるようにとの思いがこもった指導なのだ。
「はい、では本日はここまで。午後はお休みにしていいですよ」
「ふぅ〜ありがとうございました、オペラさん」
「本日もバラムくんの所に行くんですか?」
「いや今日は、マジカルストリートの方に行ってみたくて」
「まさかお一人で?」
「ううん、入間くん達と」
「おや、いつの間に」
「こないだ入間くんに重量調整の復習を見てもらってた時に流れで仲良くなってさ...ほんっと可愛いんだ」
「それは良かったですね。入間様と一緒であればカルエゴくんも召喚出来ますし安心ですね」
「は、ははは」
オペラの言葉に苦笑いする名無しさんを見て、それではおめかししませんとねと、あれよあれよという間に着せ替え人形になったのは言うまでもない。
「うわぁーっ名無しさんお姉さん綺麗〜!!ストールキラキラだねぇ!」
「シンプルでいいと言ったんだけど、オペラさんが...ね」
「あははっ、女性の装いを準備するのは僕のとはまた違った楽しさがあるって意気込んでましたもんね」
「動きにくいからパンツでいいと言ったんだけどオペラさんにはな〜敵わない...」
「いやしかしよく似合っております名無しさんさん」
「うん!綺麗!」
「..........ほんっと君たちはいい子だな〜!」
「名無しさんお姉さん真っ赤ちゃんだ!」
「クララ〜こう言う時は見ないフリするのが淑女だぞ〜」
「「あはははは」」
クララに飛びつかれたのを受け入れつつも、真っ直ぐ褒められ慣れていないのか、赤面した顔でクララの頭をグリグリする名無しさんを見て笑い声をあげる入間達。
一向が向かう馬車の中ではいつも以上に楽しげな声が溢れていた。
「とうちゃーっく!楽しそうなものがいっぱーーい!」
「こらウァラク!勝手に1人で行くんじゃない!入間様が行き先を決めてからだと何度も言ったであろうが」
「えーっ全部周ればいいじゃーん」
「駄目だ!こんな広い町貴様が迷子にならずに周りきれる訳がなかろうっ」
「アズアズのけちんぼー」
ぎゃいぎゃいといつもの如く騒ぐ2人をよそに、入間と名無しさんはマップを見ながら相談を進める。
「名無しさんさんは今日何を買いにきたんですか?」
「そうだな〜、お菓子作りの材料と雑貨が売ってる場所があれば行きたいかな」
「わぁっ素敵ですね!じゃあ食材が集まる所と...後は...」
「入間くんたちはどこに行きたい?」
「そうだなぁ、僕はせっかくだしゲームコーナーとか皆で行ってみたいです!」
「お、いいね!んじゃそこから行こうか」
「それじゃあ皆で競争だー!イルマち行くよー!」
「わぁあっちょっ.......クララぁあああ」
クララに引きずられるかのように連れて行かれた入間を見て叫ぶアスモデウスに笑いながら走る名無しさん。賑わうストリートに負けないくらい元気な集団である。
「はぁっ、はぁっ、クララ...もう急に走ったら危ないよ」
「ごめんねイルマちー、でもほら私たちが一番だよっ」
嬉しそうに指差したのは凄い形相で駆けつけてくるアスモデウスと笑いながらやってくる名無しさんだ。
到着したアスモデウスにクララが叱られたのは言うまでもないが、入間の念願だったゲームコーナーに着いたからかその目はずっとキラキラしっぱなしで。
「はい入間くん、今日のお小遣い」
「えっ...こんなに...いいんですか?!」
「勿論。修行に付き合ってくれたお礼もあるし今日は好きなだけ2人と遊んでおいで」
「わぁっありがとうございます!名無しさんさん!」
「私はちょっと休憩してから行くからさ」
「〜〜〜っはい!行こうクララ!アズくん!」
2人の手を引っ張って駆け出す入間はとても可愛いくて、その嬉しそうな背中を見守る名無しさんは入り口付近にあったベンチに腰掛けると
「あれ、もしかして名無しさんちゃんじゃない?」
「!...オリアス先生...お久しぶりです」
「久しぶり〜!元気してた?」
「はい、お陰様で」
いつもの紫のタキシードは脱ぎ捨ててシンプルな装いで現れたオリアスに、名無しさんも驚きながらも笑顔で返す。
「オリアス先生はお休みですか?」
「今日は午前中だけ休出かなぁ〜。で、午後からは休みだから服だけ着替えてブラーっとね」
「うわ〜お疲れ様でした」
「ありがとねぇ〜。で、君1人なの?」
「いや、入間くん達と一緒です。ただ入り口からここまで競争だったのでちょっと休憩してまして」
「あら〜大変だったねぇ。んじゃあ俺もちょっとここで休んで行こうかな....隣、いい?」
「あ、どうぞどうぞ」
ゆったりと腰掛けただけなのに、どこか優雅さを感じさせるのは見間違えではないだろう。その様子をじっと名無しさんが見つめていると、持っていた袋をガサガサとし始めたオリアスは、何かを手にとり差し出した。
「良かったらこれ、飲む?俺の最近のオススメ〜。甘いの苦手じゃなかったら旨いと思うよ」
「わ、いいんですか?せっかく買ったものなのに」
「いーのいーの気にしないで。まだ家に沢山買い込んであるからさ」
「じゃ、お言葉に甘えて。いただきます」
「んじゃあ俺も、いただきます!ん、うま〜」
「!本当だ、え、なにこれめちゃくちゃ美味しいっ...」
「でっしょ?いや〜名無しさんちゃん分かってるな〜!果物の甘さが沁みるよねぇ」
初めて飲んだ搾りたてのフルーツジュースのような飲み物は、朝から過酷な修行だった名無しさんの身体に沁み渡るようでついついふわりと笑顔が溢れる。
「いい顔するなぁ〜。今日は入間くん達とだけで遊びに来たの?」
「そうですね、初めて来たので色々見たりして買い物も出来たらなと」
「初めてっ?!え、理事長達と来たりしなかったの?」
「いや〜それが、何度か誘われはしたんですけど何分所持品ゼロでここに飛ばされてしまったので、オペラさんのお手伝いをして給料が出るまでは、と思ってまして」
「偉いなぁ〜〜〜それでさっきそのお金でお小遣いもあげてたのか」
「えっ?何でそれを」
「あ!しまった〜」
わざとらしく口を塞いだオリアスを見て、一体どこから見られていたんだと聞いてみると、おかしそうに笑う。
「いやだってさ、何気な〜く買い物してたら聞き覚えのある騒ぎ声が聞こえた気がして店を出た途端君たちが居るんだもの」
「最初からか!...全然気が付かなかった」
「あぁそれは、このグラスをかけてたからだと思うよ」
そう言って胸ポケットから取り出したグラスを慣れた手つきでかけるオリアスは誰が見てもイケメンで、この世界の住人はずるいなと改めて思う名無しさんだった。