きんいろの奇跡
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「ーと、言うのが彼女の訴えです」
「そうか、ありがとうバラム君」
オペラを連れて入ってきたサリバンの圧倒的なオーラに先程まで笑顔だった彼女にも緊張が走る。
「そこで...今後の処遇についてだけど」
「...はい」
「君自身はどうしたいのかな?」
「私自身、ですか?」
「うん。これも何かの縁だろうしね、危険は無いようだし君の意見も聞いておこうと思ってさ」
「...........もし、私の我儘が通るのであれば私はここ魔界で生きて行きたいと思っております」
静かに、それでも力強く答えた彼女に一同は驚き口を閉ざす。そして少し経った後口元に笑みを浮かべたサリバンはゆっくりと問うた。
「理由を聞いても?」
「理由か.....うん、そうだなぁ。純粋に、私の知ってる皆さんが大好きだから、でしょうか」
「人間界と違ってここは危険いっぱいだよ?」
「承知しております。でもそれ以上に、出会えるはずのなかった人達に出会えたのであれば、私はこのご縁を逃したくはありません」
「...そうか。いい答えだ」
その言葉を最後にサリバンはゆっくりと彼女に近づいていく。
「君、名前は?」
「えっ...名前ですか」
「そう。名前を知らなきゃ君の事を呼べないでしょ?」
「私は...名無しさんです」
「名無しさんちゃんか。うんうんいい名前だね」
「っ、ありがとうございます!」
「よし決めた!オペラ」
「はい、サリバン様」
「今日から名無しさんちゃんも僕の家で住む事にしたから、そのつもりで」
「かしこまりました」
「.................へ...えぇっ?!」
「ふふふ、よろしくね名無しさんちゃん!」
あれよあれよという間に話が進んでいき名無しさんが呆気に取られている間に立ち去るサリバン。
放心していた名無しさんもバラムが頭を撫でた事によってハッと意識を取り戻した。
「良かったね」
「はい......、バラム先生もありがとうございます!」
「おや、随分と仲良くなられたんですねバラムくん」
「そう、ですかね。この子の言葉には嘘が無いので気が抜けちゃってるのかもしれません」
「そうですか。それは興味ありますね」
「いやそんな、オペラさんに興味持たれる程では」
「ほぅ。遠慮せずとも良いですよ、これから同じ屋根の下で暮らすんですからじっくりと仲を深め合いましょう」
真顔のまま詰め寄るオペラに困りながらも笑顔で握手した名無しさんは、カルエゴの気持ちが少し分かるかもしれないと心に思う。
入間の遠い親戚で、喧嘩に巻き込まれた際適当な場所に転移させられてしまった事にし、副作用として言語障害が生まれたという言い訳が完成したのだ。
香りに関しては転移時に被った薬液が悪周期を引き起こす粗悪品だったと言うことにすれば最早完璧である。
「す、すごいな...こうもスラスラ納得の行く設定が...」
「こう言う時オペラ先輩は頼りになるんだよ」
「本当ですね、これなら言葉が通じなかった諸々も納得がいきます」
「入間様には私からお伝えしておきますのでご安心を。とにかく名無しさんさんに至っては動かして大丈夫になるまでの間、
「承知しました。ご迷惑をおかけしますが、お世話になります皆さん」
「そんな畏まらないで。さっきみたいに気楽でいいよ」
「...へへっ、ありがとうございますバラム先生」
毒気ゼロの笑顔で笑う名無しさんにオペラもほんの少しだけ警戒を解く。すぐさま準備がありますのでと部屋を立ち去った後、張り詰めていた諸々が溶け出したのか名無しさんは静かに息を吐いた。
「ふー............良かった〜」
「ははっ緊張してたね」
「当たり前ですよ...優しい人達と知ってはいるものの、状況的にはかなりアウト寄りだろうなと思ってたので、優し過ぎて緊張しました...
「...そういう所だと思うよ、気に入られたのは」
「え?私、気に入られたんですか?いつ?」
「気づいてなかったの?これはカルエゴくん並に鈍感かもしれないな」
「いやいやいや、カルエゴ先生よりはびしびしに鋭いですよ私」
「怒られるよ〜〜〜?」
「大丈夫です、本人の前では言いませんので」
「本当かなぁ」
「本当、本当」
バラム自身が醸し出す柔らかい空気感のお陰か、軽口が叩けるぐらいには不思議と打ち解けた2人。
まだベッドから降りられない名無しさんは身の回りをお世話してくれる女性の保健医がくるまでバラムと楽しい時間を過ごした。
「本当にありがとうございました、バラム先生」
「どういたしまして」
「あ、そうだ。最後にこのハンカチの持ち主だけ心当たりがあれば教えて欲しいんですが」
「ハンカチ?ちょっと待ってね」
差し出されたのは血まみれになったまま名無しさんの両手に巻かれている薄紫のハンカチ。
裂けてボロボロになった二つをそっと外し重ねてみると、崩し文字でオズワールの文字がみてとれた。
「これはオリアス先生の物みたいだね」
「オリアス先生の...。それがどうして私の手にあったんだろ」
「うーん。理由は分からないけど、名無しさんちゃんの傷掌が一番酷かったみたいだから、見ていられなかったんじゃないかな」
「...........そっか」
「...とにかく今はゆっくり休みなね。色々考えるのはその後」
優しく嗜められ寝かしつけられた後、また同じように両手に巻いてくれたハンカチを見て名無しさんは大人しく頷いた。