《50.久しぶりの再会》


一方その頃、名無しさんは数日前にとある人物がフーシャ村に訪れていたとの情報をダダンから聞き出し急足で村への道を急いでいた。


（マキノさん達なら...番号知っとるかもやしな）


どこか覚悟を決めたような面影を宿しながら山を駆け下りる名無しさんは、幾許かして山の麓まで降り立った後息を整えながら帽子を目深に被り、ゆっくりと記憶にある家を探し始めた。


（頂上戦争での一件を、ダダンさん達は映像で観たと言っとった....それなら）


遠目だった為名乗らない限り自分だとは気が付かれないだろうが変な騒ぎを起こさないようにと念の為の処置である。



「....！あった...」



どこかいつもよりも早い鼓動をゆっくりと深呼吸を繰り返して整えてから、そっとお店の入り口を跨いだ。



「あらっ、いらっしゃいま..........ぇ、」

「......、お久しぶり、です」

「！！！っ名無しさんちゃっ.....」



ババッと咄嗟に出そうになる大声を両手で塞ぎながらも驚いた表情でこちらを見つめてくるマキノさん。

どこまでも優しい配慮に、少し身体のこわばりが解けていくのを感じながら促されるままにお店の奥の部屋へと通される。

静かに扉が閉まる音を確認してから振り向こうとした瞬間、身体に衝撃が走り背中越しにぎゅっとあたたかな温もりが宿った。



「もぅっ...！もう！心配したのよっ？！あんなっ...危険な場所に行くだなんて私っ...！」

「っ.....はは、ごめんなマキノさん。心配かけました」

「本当よっ！！...だって、あの場所にはっ....」



それ以降の言葉を紡げないのだろう思いに、引っ張られそうになりながらも痛む喉にグッと力を入れて静かに息を吐き出す。目の前で泣き崩れる優しい人が、何を一番嘆いているのかを自分は痛い程理解していたからだ。



「ありがとうな、マキノさん」

「.....ぇ、」

「うちはもう大丈夫やからさ」

「名無しさんちゃん、、、、」



目線を合わせながら笑った名無しさんに数秒呆気に取られたマキノだったが、みるみるうちに目元にはまた雫が溢れて名無しさんへと抱きつく。

お互い無言で静かに時だけが過ぎていき、次第に落ち着きを取り戻したマキノがごめんなさいねと断りを入れながらそっと埋めていた顔を上げる。



「......大きく、なったのね」

「へへっお陰様でな」

「綺麗になって....本当、びっくりしちゃったわ」



変わらぬ笑顔で迎え入れてくれる優しさにどこか救われながらも、手土産にと持ってきていた差し入れを渡せば、はにかむように笑ってからお茶を入れてくるわとお店の方へと戻っていった。



ーボフン

「は〜、、、喉が痛い（笑）」



ソファーにもたれながらも喉をさする。今回の件に関しては、自分が泣く訳にはいかなくて涙の我慢を重ねた喉が悲鳴をあげていたからだ。

暫くすれば村長を引き連れたマキノさんがやってきて、久しぶりの再会に心を躍らせながらも今までしてきた経験や沢山の事を全員で分かち合った。



「....そう、もう彼らの船を後にしたのね」

「うちの目的は叶えたからな。後は余生をゆったりと生きるよ」

「その年で何をババ臭い事を」

「村長が言うと説得力あるな〜笑」

「一言多いわいっ！」

「ははっごめんごめん（笑）....っと、そうやった！この為にも来たんやった」



分かりやすく頭にハテナを浮かべた2人にふふっと笑いながらもここに来た目的を2人へと伝える。



「ガープさんの番号って...名無しさんちゃんもしや」

「あ、そんな文句言うとかじゃないから安心してな」



怒られるのは寧ろうちの方やと眉を下げて笑った名無しさんに、何かを察したのかそっと番号を渡してくれた2人の優しさに頭を下げて店を後にする。

段々と早くなる足で海岸へと走り抜け人影が居ない事を確認してから忍ばせていた電伝虫のダイヤルを静かに回した。