《84.君だけが居ない現実》


「......まだや、まだ、やれる事はある」



最悪のシナリオを考えていなかった訳ではない。だからこそ、そうならないようにと精一杯自分なりに頑張ってきたつもりだった。

それでも結局は原作に無かった筋書きで原作通りに事が進んでしまった。



「うちは.....よわい。弱くて、ちっぽけや」



最後にエースが握りしめてくれた手のひらをそっと見やって静かにそれを握りしめる。そこにはもう、あの熱すぎるぐらいの落ち着く体温は無いけれど、確実な未来何て無いけれど、自分が今諦めたらそれこそ全てが終わってしまう気がした。



「.........大丈夫や、信じろ」



自分は1人じゃない。

こうなった以上親父達もルフィ達も動く未来が待っている。だったら今自分に出来る事はいつかの未来が来ても大丈夫なようにと編み出した技を完璧なまでに使いこなす事、自分のスキルを最大限にまで磨いて、もしもの時として考えていたものを必ず成功させる事。



「おれは、おれの生まれた存在意義を示すために海に出て...おれが生きた証を残すんだ」

「....そうやな、エース。絶対にあの事件を証に何てさせへんよ。...大丈夫や、大丈夫」



今度こそ、失敗は出来ない。
それでも、もしもの最悪を考えてこの数年準備だけは整えてきた。


（.........この世界に、悔い何て無いんや）


数日なのか数週間なのかどれだけ時間が経ってしまったのかは分からないが、今の自分が目指す場所は一つだけだった。

パンっと自分の両頬に喝を入れ電伝虫を取りに自室へと向かう。もう、後戻りはしない。


事をし終えて船を進めながらも、一切絶っていた食事をまずは軽くから整えていく。身体の資本は食事から、昔から両親に教わってきた事だ。



「.............おいしいっ...」



ぽたぽたと、甲板に染みを作っていく雫を今度はしっかりと拭ってゆっくりと胃の中へと生きる為の力を取り入れていく。いつもよりも時間をかけて食べ終われば不思議と気持ちも落ち着いてきて、食事の偉大さを改めて知った。



「これでもう、弱虫は最後や」



再度パンっと両頬に喝を入れれば、ずっと見ていたはずなのに久しぶりに思える青空が視界に飛び込んできてその壮大さに心が凪いでいく。

深呼吸を繰り返し、久しぶりに笑う事が出来たなと空を眺めながら思っているとタイミングを見計らったかのように鳴り響いた電伝虫。

さっきは目的の人物は不在だったので帰ってきたのかなと思い受話器を上げれば、予想に反した人物からの着信だった。



「プルプルプルプル、プルプル...ガチャ、はいよーもしも

「「「名無しさんっ！！！！」」」

「その声.....マルコっ？それに...サッチとイゾウか？」



何と電話をかけてきたのは白ひげにいるはずの3人からで、その焦った声色に何があったのかと不安になる。



「どうしたんそんな焦って。...もしかして親父に何かあったんか？！」

「オヤジは元気だよい、それよりも名無しさんお前

「名無しさんちゃーーーーんっ！！お前っ無事なのか？！怪我とかはしてねェーんだろうな？！なあ？！」

「うるせェぞサッチ。そんな大声で叫ばれたら名無しさんもビックリしちまうだろうが。悪かったな、名無しさん」

「あ、いや全然構わへんけど何や、何の話をしとるん皆」

「.....名無しさん、ニュース・クーの報道してた内容ってのは本当なのかよい」

「ぁ.......」



...そうか、そうだったとあれから日も経ってるのだとしたらマルコ達が驚いて連絡をしてくるのは当然かと思い当たって息を飲む。そして静かにそれを吐き出してからゆっくりと口を開いた。



「....ごめんな、皆。うち、エースの事守ってあげられへんかった」



はっきりとした声で伝えられたと思う。
電伝虫を見る限り、固まっているのか口を開けたままこちらを見上げてくる姿に少しだけ笑って、次の言葉を紡いでいく。