《46. 清々しい程の 》


「何だお前ら、見てねェ間に一体何があった」

「あ、ゾロ。鍛錬お疲れさーん」

「ゾロ、聞いてくれよ！名無しさんはすげぇーんだぞ！」

「....で、こいつも何があったんだよ」



鍛錬を終えたゾロが見たものは、名無しさんの頭にチョッパーが抱きつきながら一緒になって本を読む名無しさんの姿。つい今朝まではあんなにチョッパーが警戒していたはずなのに、たった数時間で何があったのかと言うレベルで2人の仲は深まっていた。

その上名無しさんの背中には顔面を全力でぶつけて変形した顔のまま眠りこけるルフィの姿。確かに爽やかな鍛錬後に見る光景ではない。



「チョッパーが沢山医学書持っとったからどれにしよかなーって選んでる間にルフィが来てさ、多分遊んで欲しかったんやろな。ウダウダ言うてたから宥めてたらこの通り、寝てもてなあ....動けんねん（笑）」

「いやお人好しかテメェ！」



それもそのはず、はたから見た名無しさんのポーズは何とも激しい筋トレにしか見えないからだ。

胡座をかいた上に大量の分厚い医学書の山、首と頭にはチョッパーで、右手は後ろのルフィの帽子の上、左手は分厚い本を持ち、尚且つ顔面が潰れる勢いで乗せられたルフィの全体重を背中で支えているのである。



「お前本当...華奢に見えんのに体幹すげェな」

「ははっどうもー。てかさっきナミが何や言うてたけどそろそろ島に着くんか？」

「あぁ、そうみてェだな。名無しさんも買い出しに行くんだろ？」

「そうやな〜。保存食全部消えたから先の事考えて沢山仕入れときたいなと思って」

「ルフィもお前みたいに航海中の食料事情を分かってくれりゃァいいんだがな」

「難しいやろうなぁ、ルフィやし」

「ま、そうだろうな」



そう言って寝こけるルフィを見て笑うゾロは憎まれ口とは裏腹に優しくて、纏っている空気がいつも澱みが無いからかどこか落ち着く。多分チョッパーもそれを知っているからこそ、ゾロに懐くのだろうなとゾロの肩へと移動した姿を見て思った。

それからウソップが声をかけにきてルフィの顔面に驚くも、すぐさま身体を引きずりながら剥がしてくれる優しさは心に沁み入る。気にすんなよなと笑ってくれるその顔は少年らしさが滲み出ていてとても好感度が高かった。



「はい、じゃああんた達ここでは騒ぎは起こさずに物資の調達を最優先にしてちょうだいね。特にルフィ、あんたは

「メシィイ〜〜〜〜！！」

「まてコラーー！！あーーっ...もうあいつったらまた1人で勝手に」

「あー...ごめんなあナミ。ルフィがお世話かけます」

「名無しさんさんのせいじゃないわよ、ったくも〜いっつもあぁなんだから」



実際に目の当たりにするとルフィは本間自由なんやなと笑ってしまったが、呆れたように肩を落とした姿に何だか少しだけ申し訳ない気持ちになった。

その後変装用の庶民服を買ってくると言うサンジとチョッパー達に見送ってから自分も買い出しに行こうかなと思っていれば、その服では駄目だとビビに止められてしまったので大人しく岩へと腰掛ける。


（........なんやろう、何かこの場面知っとう気がする...）


どこか既視感のある景色に頭を捻りながら過ごしていると軽くお腹が満たせる食糧と変装用の服を何やらニヤニヤ顔で手渡してくるサンジ。

不思議に思いつつも、とりあえず笑顔で受け取れば今日程にさっきの笑顔を後悔する日がくるとは思いもしなかった。



「あー...っと？サンジ....これは、何や」

「んんん名無しさんちゃんにもきっと似合うと思うんだァァそれ〜！」

「いや.....いやいやいや、無理！こんな、こん、な....下着やん！！」

「何を言ってるのさ名無しさんちゃん、これは歴とした踊り子ちゃん達の衣装だから安心してくれよ」

「これで安心出来るなら世の中もっと破廉恥や」



それから何度うちとビビが抗議をしようとこれしか無かったと言い張るサンジ。

これ以上時間を無駄には出来ないと言う事で、自分も調達がかかっている為背に腹は変えられないと思い着替えてはみるものの何というか....うん。予想以上に予想通りで最早笑えてくるから人間は不思議だ。