《40.白ひげ探偵団③》


あの白ひげ海賊団が名無しさんの言葉に胸を打たれていると、名無しさんの痛いという単語に凄まじい程一気に意識が集中した一同。何があったのか各々観察していれば、青い服をきた少年が名無しさんにデコピンを仕掛けたようで、その2人のやり取りに数名眉毛がピクリと動いた。



「おいっ、おいおい何だよあの空気っ...！あのイケメンくんと名無しさんちゃんは恋仲なのか？！なあマルコっ！」

「静かにしろっ、名無しさんの話からしてそれはねェはずだよい」



小声でひそひそとサッチが叫ぶも静かにいなすマルコ。しかしそれはサッチだけの衝撃では無かったようで、奥の席にいるビスタ達にも同様の感想が繰り広げられた。



「.....あの野郎、さっきから名無しさんを口説くような事ばっかり言いやがって...俺達の妹にっ」

「聞いたかビスタ、あんにゃろ何が名無しさんだけだ...！キラキラしながら口説きやがって....!く〜さっきまでいい奴だと思ってたのにクソ野郎が」



掌を返したかのように一斉にサボへの避難が集中するも、一席だけは様子が違うように穏やかで



「あの少年をどう見る、ハルタ」

「中々に勇気があるね。言葉に嘘も無さそうだし何より名無しさんの事が凄い大事そうだ」

「だな。俺から見ても彼の目からは真っ直ぐな気概を感じるよ」



様々な感想を持ちつつも、話に区切りがついたようで笑い声を上げながらお店を出ていく名無しさん達一行。バレないようにと横目で見送りながら暫くしてから立ち上がり、また1人また1人と多少の時間差をつけて店を出た白ひげ探偵団。

じきに見えてくる港への道へ向かっていたようなので危険も無さそうだと判断した白ひげ探偵団は、モビーディックへと先回りを急ぐように走り出していた。

彼らが信用に値する人物達だとは分かったもののどこか腑に落ち無い部分を抱えながらも船にて待機する面々。



「....何か、感情の起伏が激しくて変に疲れちまったなァ」

「そう言うなよサッチ。今日は名無しさんの好物作ってやるって意気込んでただろい」

「それは当然だっての！あそこまで言われて何も返さずにはいられねェよ」

「俺は名無しさんが帰ってきたら先に風呂に入ってくる」

「あぁ、名無しさんに髪の毛を触らせてやるんだったか？俺が愛用してるヘアオイルがあるから後で部屋に渡しに行こう」

「イゾウの髪はいつも艶々サラサラだもんね」



口々に言葉にする思いは違うものの彼女の帰還を待ち侘びているのは確かで、遠目に見えてきた３人の姿にそろそろ会えそうだと思っていれば先程から話題の渦中にいた人物が名無しさんを抱きしめている姿が目に飛び込んできて、サッチとビスタ、ラクヨウの3人が各々のエモノに手をかけた。



「待てお前ら！ちゃんと見てたのかよい」

「名無しさんは自分から両手を広げていたぞ。恐らく、よくある別れの抱擁だろう」

「よくあんのか？！」

「あぁ〜....サッチはそんな経験無いかもだけど、割と男女でも多いとは思うよ」



イゾウの言うワノ国とは違って、俺達の文化はスキンシップが多いみたいだからねえと笑うハルタに、ピキピキと血管が浮き出ていた3人は大人しくなる。



「....それでも俺は、名無しさんが嫁に行くのはまだ早ェと思う」

「飛躍し過ぎだラクヨウ。それに名無しさんにそんな気はねェよい、顔見りゃ分かんだろ」

「どちらかと言うと母親のそれに近い気がするからな。あいつがいつも考えてる奴では無さそうだ」

「ま〜少年の方は無意識だろうけど思いっきり好意バリバリだったもんなぁ（笑）名無しさんも直球過ぎて照れてたし」

「なんだと....！！やっぱりあいつは俺が！」

「落ち着けビスタ！ハルタも、からかってやるな。っておいサッチまで....マルコ、この馬鹿達をどうにかしてくれ」



呆れたように紡がれた言葉に両手を上げて降参ポーズをするマルコ。そんなやり取りをしていれば、名無しさんがこちらに気がついたのか嬉しそうに走ってくるのが見えてきて先程までの雰囲気は一転として柔らかいものへと変わっていった。



「ただいま、皆っ」

「おかえり、名無しさん。楽しかったかよい」

「うん！本間に、ありがとうな」



名無しさんが満面の笑みで皆に言えば一同が嬉しそうに笑うものだから、今日も今日とてモビーディックには明るい笑い声が響いた。

その日の晩何かのお祝いなのかと思う程豪勢に作られた名無しさんの好物や差し入れに彼女自身も不思議に思うが、いつも以上に楽しそうな家族達に囲まれて嬉しそうに笑う名無しさんが居た。