《7.ワニと私》


きっとこの子は愛されて生まれてきたのだろうなと心優しい少年を抱きしめながら思う。



「急にごめんな」

「.........」

「ほな、行こっか」



自然と伸びた手のひらを驚いたように見つめながら少年は俯いた。

やっぱり、悲しいものを思い出させてしまったのかなと拭えない罪悪感を抱き始めた瞬間、ふと体が浮く感覚になり変な声がでる。



「うえっ？？ちょ、ま、え！」

「うるさい」

「待った待ったちょちょちょ歩けるよ」

「静かにしてろ」

「いやいやいやいやいや」

「うるさい」



突然体が浮いたと思ったら目の前の少年に持ち上げられていたのだ。



「待って君めちゃくちゃすごいな？！いやでも怪我！」

「ワニより軽いから平気だ」

「わ、ワニ？！」



恐ろしい単語が聞こえたが、今は何より自分より小さい、しかも怪我をした男の子に持ち上げられているという現実が信じられない。

下ろしてと焦るが変に動かれると傷が痛いと言われてしまえば大人しくするしかなく、何度か問いかけてもスルーされるのでされるがまま放心していたら何やら大きな家の前についていた。



「おい、帰ったぞ。誰かきてくれ」

「はいはい今日は早い帰りだ..えぇぇえ？？」

「いや、あの、初め、まして。どうも」



はははと抱えられたまま乾いた笑みで挨拶をしながらも、とりあえず下ろして貰えて安心するが

大口を開けて驚いたまま動かない目の前の男性は少年とうちを見比べながら固まっていた。.....まあ、そうなるよな。



「おい！早くしろ、こいつ怪我してんだよ」

「いってぇえええ」



痺れを切らしたのか出てきた男性を蹴り上げた少年とやっと意識が戻ってきたのか、バタバタとお頭ー！！と叫んで中に入っていく男性。



「面白い人やね」

「バカなだけだ」

「はははっ」



つい笑ってしまうほど力関係が逆転したそれに、良い場所そうでよかったと少年の頭を見ながら思う。