《26.予期せぬ偶然の再会》


（うわーっ....本間この街栄えてるな）


あの後マルコ達と別れてお姉さん方に事情を伝えれば、着せ替え人形にしたかったなどと恐ろしい単語が聞こえてきたので、足早に商店街へと赴いていた。

思った以上に楽しめるかもしれないと胸を踊らせながら歩いていると、ふとアンティーク調で施された看板が目に止まる。


（.....へぇ、店内もめっちゃお洒落やなぁ。...おし、まずはご飯でも食べてその後の事決めるか）


こちらの世界には見た事も無いものの方が多いが、骨董品などもその一つである。まるで絵本の中から飛び出してきたような高価な代物が普通に路面で売っていたりもするし、今見つけたお店だって、精巧に作られた模型のように外観から美しい。

これで食事も美味しいと最高やなと思いながらドアを開ければ心地の良い音色の鈴が出迎えてくれた。



「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか？」

「はい。今いけますか？」

「大丈夫ですよ。ではお好きなお席にどうぞ〜」



気持ちいいの良い笑顔を受けながら店内へと足を踏み入れれば、間接照明もあってかとてもシックで雰囲気が良い。これは当たりやなと少し気持ちが昂りながら窓際のソファー席へと腰掛けた。

どのタイミングでナース達から声がかかるか分からない為先に食事だけでもと思ったが、想像以上にどれも美味しそうで目移りをしてしまう。これは困ったと、こんな時の周り頼りで何気なしに聞き耳を立ててみれば、あちこちでアボカドを使ったライスが絶品だと聞こえてくる。

よしそれにしようと心に決めてメニューを閉じれば偶然拾った一言にドクンと心臓が音を立てた。



「〜っもうまた口周り汚れてるよ、サボくん！」

「ん？あぁ、悪ィ。あんまりうめェから忘れてた」



聞き間違い、だろうか。斜め後ろに座っている男女の一人がサボと言う名前のようで同じ名前も居るよなとは思いつつも何故だか凄く気になってしまう。


（まだ17歳なってへんから人違いの可能性のが高いけど、一応、念の為確認...）


一度気になってしまえば、確認するまでは落ち着かなくてとりあえずドリンクだけ頼んでお手洗いへと席を立つ。戻る時にそれとなく確認してみればサボが自分の思い描く人物なのか少しは見えると思ったからだ。

足早に事を済ませて席へと向かえば、斜め後ろの席には男女2人が変わらず座っているようで偶然にも少年の顔はこちらから確認しやすかった。

視線を気取られないようにさりげなく出立ちを流し見れば記憶にある姿とは少し違うもののどこかその顔つきには覚えがあった。


（....え。あれ......？この人確か）


恐らくあのサボだと言う事には気がつけたものの、何だかしっくりとこない。あれ、おかしい...何かがひっかかっていると頭を押さえながらテーブルに戻り先程とは違う向かいの席へと座った。

確かに見た事はある、ある...が、それだけじゃない気がしたのだ。変にドクドクと鳴り始めた心臓に手を当てて少しでも落ち着こうと深呼吸を繰り返す。

何かがひっかかっている、何かを忘れていると自分の心が叫んでいた。


（一体、何やねん....っ、）


そう思いながら視線を上げれば、タイミングを同じくしてサボかもしれない少年と目が合った。

その、瞬間だった。

脳裏に蘇ったのは記憶に懐かしいあの頃の姿のサボ。そして1人海を出て襲撃されている姿や目の前の少年がもっともっと成長して誰かと笑い合う姿。

...そして、エースの記事を見て様子を激変させ泣き叫んでいる姿がありありと目に浮かんだ。


（何でこんな大事な事忘れてっ....アホかうちはっ.....!!そっ....か、あの人は、サボやったのか）


....何故かこの数年記憶に鮮明に残っていた場面があった。

1人の青年が何かの記事を見た後様子を変えて涙を流して倒れる姿や。4年前は彼が一体誰なのか想像もつかへんかったけど、そうか、あれはエースのあの時の記事で、それを読んでいたのはサボやったのか...そうか。やからこんなにも鮮やかに記憶にあるのかと、思い至らなかった自分を自嘲気味に笑うしかなくて情けない。

気がつけばいつの間にか運ばれてきていたドリンクが視界に入り、とにかく一度気持ちを落ち着けなければと手を伸ばそうとしたその時聞き馴染みのない落ち着いた声色が響いた。



「あの、大丈夫ですか？」

「....へ...」



ゆっくりと視線をあげれば今の今まで頭の中を占めていた存在が目の前に映り一瞬時が止まったように感じてしまった。