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ポケットに詰め込んだ嘘

 
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 * * * 

「――これでよし、と!」

あらかじめ用意しておいた定型文を貼り付けて、完成した投稿を前に珈琲を一口。
つかの間の休息を持て余すように椅子をくるりと一回転させて、視線を遠くへ投げかけた。

「はぁ……こんな事して、なにやってるんだろうな〜俺」

趣味で小説を書いているといっても、所詮は鳴かず飛ばずの素人だ。友達もいない陰キャの大人に構う読者など居るはずもない。

「こんな文章書いた所で、どうせ見る人なんていないのに……」

 * * * 

そんな時だった。投稿完了のまま放置していたスマホがポコンと鳴って、俺はすぐに通知を確認するためにそれを手にとった。

「コメント通知? いったい誰から……」

『はじめまして!
先生の作品をいつも読んでます。
普段は見るだけですが、今日は思い切ってコメントしてみました。もしよかったら、先生の小説のお話をもっと聞きたいです』

 * * * 

俺はすぐに返事を書いた。
こんな風に感想をもらうのは何年ぶりだろう。

彼女は俺の話をなんでもよく聞いてくれた。
話の展開からこだわりのシーン、小説を作る時の姿勢や日々の出来事まで……
そして彼女も俺にたくさん話をしてくれた。

切っ掛けは些細な事だったけれど、俺たちはいつしか小説だけには留まらない、本物の信頼で結ばれた友達になっていた。
いや、もしかしたらそれ以上に――

今日、彼女と会う約束をしている。

 * * * 

「その時の彼女が今の奥さんです……なんちゃって。よし! 新作はこれでいこう!」

俺はスマホ画面に打ち込んだ文章を確認して小さくガッツポーズをした。
そこへ風呂上がりの妹がアイス片手にだらだらと歩いてくる。

「お兄ちゃん、またしょうもない嘘ついてるー」
「嘘じゃなくてフィクションだって何度言えば分かる!」
「ねえ知ってる? エイプリルフールについた嘘は実現しなくなるんだって」
「え……?」

妹の冷たい視線と共に、俺の身も心も冷えきった寒々しい四月一日のある日の話。

 * * * 

2022/04/02
大人の日付変更は早朝なのでエイプリルフールです。
実際にアプリ内で使っていた投稿テンプレを利用した一発ネタでした。
ちなみに作者はお兄ちゃんじゃないし妹もいないし優しい読者の彼女もいません。
 
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