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ポケットに詰め込んだ嘘

 
時に西暦2022年2月22日
それは何の前触れもなく訪れた。

『それでは次のニュースです。全人類に猫の耳のようなものが生えた現象について、国は早急に調査を進めるとし――』
『SNSではこれを“ネコミミ症候群”と呼んで、ある種の流行となっている模様です』

「どのチャンネルも同じ話ばっかだな」
「ニャー」

 * * * 

朝起きたらネコミミが生えていた。
なんて漫画でも早々見ないシチュエーションが、まさか全人類に訪れるだなんて誰が想像しただろうか。

うら若き少年少女は当然の事、だらしない体型のオッサンからレジ打ちのおばさん、ハゲた爺さんに茶を飲む婆さん、お国のお偉いさんまで老若男女平等にそれは訪れた。
もはや見た目の良し悪しなど関係ない。誰かを指さして笑う奴にすらネコミミが生えているのだから、ボケもツッコミもあったものじゃない。

僕らの日常は変わってしまった、ように思えた――

 * * * 

けれど、実際はそんな事もなく。

「なー、今度のテストヤバくね?」
「俺ぜんぜん勉強してないわ」
「しろよ、ネコミミ生えても学校は休みにならないんだぞ」

ならないのだった。
耳が一つ増えたくらいで人間の生活が様変わりするわけでもなく、電車もバスもコンビニも動いているし、それを動かす為の仕事もあるし、学校も……多少休みの生徒は増えたけれど、何日かすれば元通りになるだろう。

「最初見た時は、これで休みキター!って思ったのになあ」
「不謹慎すぎて草」
「休みになってもテストは延期になるだけだろ」

 * * * 

翌朝起きたら元通り。
ということもなく二、三日と過ぎていき。
一週間もする頃にはニュースも程々に落ち着いて、いつも通りのバラエティやアニメ番組が少しずつ戻ってきていた。

『見て下さい!この焼き立ての食パン――』
「美味しそうだな~」
「ニャー」

ネコミミがあっても猫の言葉が分かるようにはならないらしい。
僕は茶色のふわふわを片手で撫でながら、何だかんだでこのままいつも通りの日々が続くんだろうなあと思っていた。

 * * * 

それはまた前触れもなく訪れた。
朝起きたらネコミミが無くなっていたのだった。全人類から。

『次のニュースです。全人類猫耳症候群が解除されました。政府の発表によりますと、ネコネコ大魔王を名乗る何者かが倒された事により――』

忘れた頃にとはよく言う話だが、中途半端な日数で解除された上に理由もめちゃくちゃなものだったので、最初の時よりもかえって世間は大混乱していたようだった。
もちろんそんな事で学校のテストが中止になったりはしなかったが。

 * * * 

「ネコネコ大魔王はないよなぁ、ポチ」
「ニャー」

僕はいつも通りコーヒーを片手に茶色のふわふわを撫でていた。
急にネコミミが生えるくらいなのだ、大魔王の一人や二人いても今更おかしくないかもしれない、などと考えながらまたテレビのチャンネルを変えた。
今日は漁港の魚料理特集だった。

 * * * 
 
どうやら僕たちの日常は、
誰かの大冒険によって守られているらしい。
 
――――――――――
2022/03/01
スーパー猫の日を終わらせる話でした。
ポチは茶トラの猫です。
 
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