信じる先はどちらか
「……ってことがあったんだけどね」
『ふーん。うちがいない間に孫が、ね』
「ユサちゃんはいつ戻ってくるの?今忙しい?大丈夫?」
『この時期は例年通り自殺が多いから何とも。あいつら本当にふざけんなって感じだよな、仕事増やすなっつーの』
「あはは!いつものユサちゃんだ!安心した」
真っ暗になった教室の中。真っ赤な特徴的な瞳だけが光る。ケラケラと笑う純血吸血鬼。見た目だけ見れば、あどけない少女の放課後の一頁だった。
『で、ティア。大丈夫だった?その、人間を守る、とか』
「うん?大丈夫だよ!全然」
『そう。ならいいけど』
「あの子本当に無力なんだなっていうのがわかるの。それにみぃちゃんが気に入ってるみたいだからね。何の害もなくて何の興味もない」
頬杖をつきながら気怠そうに呟くレティシア。その瞳には生気が感じられない。
ーーあの日。
村人が突然寝込みを襲いかかってきたときのことを思い出す。
あの時、ユサが助けに来なかったら今この瞬間レティシアはここに存在していない。自分でもわかっている。突然自分の中の感情がごっそり失われたあの瞬間。とりあえず微笑んでいれば誰も彼も騙せた。
ユサだけを除いて、だが。
『まぁ、近々帰る。リリーにも言っといて』
「うん!わかった!」
お互いの声だけが響く部屋。この世界がユサだけなら良かったのに。
そうしたらこの世の中をこんなにも憎まずに済んだ。
ーー高宮ゆい、か。
(よくわからないけど。桜子さんには感謝してるし表面上だけでも仲良くしてあげるのが筋なのかなー?)
何が、正しくてだとかそんなのわからない。それならば、せめて自分の世界をこれ以上壊れないように。壊されないように。手も足も。そして、この純血すら捧げましょう。
(なんて、バカみたいだけど)
もう少しだけこの茶番に付き合ってあげよう。お茶会にルールは存在しないのだから。
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