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信じる先はどちらか


 ーー翌日。
初の登校となる記念するべき日。あとあと、思い出に残るかもしれないし自己紹介は失敗しないようにしなくちゃ、とか。
そんな呑気なことを考えて美代子に手を引かれて登校する。

 暫く歩いていくと木造建築ではあるが味のあるこじんまりとした建物に辿り着く。中に入ると美代子は施設の説明をしてくれる。ここは少人数制というよりかはゆいしかいない、とか何とかよくわからない事も喋っていた。恐らく聞き間違いだろう。ゆいしかいないのならここは既に廃校しているはずだ。

「ここ、結界張られてるから基本的にはここにいたら安心よ」

 ゆいを安心させようとしてくれているのだろう。一つ一つの良いところを上げて各教室を紹介された後、ようやく美代子は一つの教室の前に立つ。

「……この扉を開いたらこの先は何があっても驚かない方がいいわ。正直あたしも理解不能なことが多いんだから」
「えっ?!う、うん」

 美代子は勢いが良過ぎるくらい扉を全開にする。ボキッと関節が鳴るような音がしたのは恐らく美代子の肩のあたりだろう。

 その瞬間目の前が白くなる。……と思ったのも勘違いで実際にはクラッカーの音とその演出のせいで一瞬頭が追いつかなかっただけだった。

「ひぎゃっ!!」
「ようこそいらっしゃいました〜!!紅組一同歓迎するよ〜!!」

 真っ先に目に入ったのは、ミントグリーンの綺麗な髪をツインテールにしてアクセントにピンクのメッシュを入れた可愛らしい女の子だった。

「荷物はわたくしがお預かりしますね〜?」

 次に目に入ったのは、オレンジに近い茶髪を二つに三つ編みしている綺麗な女の子。二人の共通点は、日本人離れした雰囲気。恐らくハーフか出身が外国か。机に突っ伏して寝ているのは乃亜だろう。耳がぴょこぴょこと微かに動いている。……かわいい。

「ちょっと!!今びっくりして舌かんじゃったでしょうが!!!!」

 美代子は怒声を浴びせると、三つ編みの女の子に殴りかかる。昨日から冷静な美代子と焦った美代子しか見てなかったので新鮮だった。

「ふーむふむ。あなたがゆいちゃんか〜!はじめまして、私レティシア・コティヤールでーすっ!レティシアって呼んでね!!」
「もー、美代子ちゃんは〜。戦闘能力もないしほんっと無能ですね〜?存在してて恥ずかしくないんですかぁ〜?」

 何事もなかったかのように自己紹介を始めるレティシア。その隣の女の子は美代子にちょっかい、ーーと言うには少し表現が弱い気がするがとにかくちょっとやそっとの知り合いでないことは確かだった。

「あらあら〜?申し遅れました〜。わたくし、リリー・フォンテーナと申します〜。どうぞ、リリーとお呼びくださいね〜」

 なんて思っていたら、呑気に頭を撫でられてしまいゆいは若干動揺する。ゆいの身長的に頭を置きやすいのだろうか。最近は特によく頭を撫でられる気がする。今までそんな機会がなかった故に何処か気恥ずかしさを感じると同時に嬉しさも込み上げる。

「こらぁ!無視するなー!ゆいに気付いてあたしに気付かないはずないんだから!!」
「嫌ですね〜。美代子ちゃんみたいな小さくて無駄にちょこまか邪魔に動く存在忘れるわけないじゃないですか〜」
「なっ……?!邪魔とは何よ!バーカバーカ!!というか、だから!美代子って呼ぶなー!!!!」

 リリーと美代子がそんなふうに喧嘩をしているというのにレティシアはにこにこしながらその光景を眺めている。なんとも能天気な少女だった。

 そんなゆいの視線に気付いたのかレティシアはにこっと微笑むとひらひらと手を振る。ここに来て初めての好印象な女の子だった。この子となら仲良くなれるかもしれない。

「あっ、ちなみに私はノスフェラトゥ……、あっ!吸血鬼って言った方がわかるのかな!吸血鬼だよ!でも人間の血は基本いらないから安心してね!」
「わたくしは魔女と呼ばれる存在です〜。お伽噺に出て来るような素敵な魔法は使えませんけど何か困ったことがあったら千回に一回くらいは聞いてあげますし気軽に言ってくださいね〜」

 嗚呼、前言撤回。やっぱりこの子達は人ではなかった。昨日話していたのは彼女たちの話だったのか。





「じゃあ、悪いけどゆいのこと、よろしくね。あたしちょっと出るから」
「おっけー!帰りは送ればいいんだよね?」
「そうそう。レティシアは話が早くて助かるわ」

 二人の自己紹介が終わると美代子は教室を出て行く。出て行く間際美代子は何かを忘れたように後ろを勢いよく振り返るとゆいの目を見ながら話した。

「いい?絶対に一人で外に出ないのよ?絶対なんだからね」

 昨日からずっと口酸っぱく言われてることだったけれど。今日は何だか美代子の声に力が篭っていて。

「うん、わかった」

 何かを疑問に思う前にゆいは頷く。美代子は満足したように手を振りながら去っていく。その様子を眺めていると突然リリーに話し掛けられる。

「えぇ。お一人様は寂しいですしわたくし達といましょうね〜」
「ふぁ……あ……。あれ?ゆいいたのかにゃ」
「乃亜、うるさいですよ〜?というか永眠すれば良かったのに〜」
「にゃー?!にゃにをー?!」

 レティシアはそんな二人を見つめながら慈愛の微笑みを浮かべている。
やっぱりまともなのはレティシアだけかもしれない、とゆいは一人納得しリリーの説明に耳を傾けるのであった。

「まぁ、わたくしとティアくらい魔力が強いと一緒にいるだけでそんな小物な物の怪は寄ってこないと思いますけどね〜。乃亜と美代子ちゃん……なんて言ったって美代子ちゃんは雑魚中の雑魚ですから〜?雑魚の中では圧倒的な一位ですよ〜」
「あぁえっと!まぁ、その〜!私たちといれば安心だよ!ってことがリーちゃんは言いたくてね?!」
「美代と乃亜が雑魚なのは本当のことにゃ。今更否定することでもないのにゃー」
「のあのあは呑気だね?!」

 そんな三人のやりとりに苦笑しながらも見た目は同い年に見えることからリンリンといる時のような緊張感はそこ迄なかった。転校してくる前のような何てことのないただの日常。学校ってこんなに安心出来るんだなぁ、とか。思ったりなんて今更なんだけど。





 それから暫らくするとゆいは窓の向こうにうっすらと影が出来ているのを見つけた。

(あれ?何だろう)

 中にいると安心だと美代子も言っていたし窓に近付くくらいはなんてことないだろう。窓に近付いていくにつれてその影が人影ということがわかる。

「……みよちゃん?」

 その人影が美代子ということがわかると少しゆいは安心する。どうしたんだろうか。美代子はいつものように少し不機嫌そうな顔をしながらも何かを訴えるように口をパクパクさせる。

「何だろう」

 美代子は頭を掻き毟ると手招きする。とりあえず来いということなのだろうか。
ゆいはそれに何の疑いもせずに教室を出て行く。美代子が何か困っているのであれば助けなくては、と思ったし興味もあったから。

ーーそれが本当の美代子なら、良かったのに。ここが二階なのにばっちり美代子と目が合っている時点で気付くべきだった。


「……あれ?ゆいちゃんどこ行ったんだろ」
「トイレじゃないのかにゃ」
「そうですよ〜。この中にいる限りは安心ですしそこまで過保護にならなくても〜?」
「ふーん?おっかしいなー……?」

この杞憂が無駄になれば幸せだったのだ。

「…ユサ?」
「うーん、何だかちょっとね。一応のおまじない」

 にこっと微笑むとレティシアはタイの下に隠れているロザリオを手にする。そしてそのまま話に加わった。
 
 ーーまるで何かあった時だけ対応できるようにしているかのように。
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