偶然とか奇蹟とか
『ほぉ?物の怪か。なかなか興味深いものに魅入られてしまったねぇ、ふふふ』
「はぁ?!あんたふざけないでよ。ゆいはまだあの歳なのにあんなんに好かれてこんな山奥に来て可哀想でしょうが。何か知ってるなら吐きなさいよ。わざわざこうしてお供えも持ってきてやってんだからそろそろ祠から出たらどうなの」
『儂もそうしたい思いでいっぱいなんだけどねぇ。しかし、これはなぁ。天狐の千里眼でもあの子の未来が全く見えない。……ユサが来ない限りはねぇ?』
「はぁ?千里眼ってあんた……。予言者にでもなるつもり?祟られたいわけ?座敷童子だってお稲荷さんと呼ばれるあんたよりは力がないかもしれないけど無能なわけでもないんだから」
美代子は押し入れの御札をきちんと確認した後、今回の件について言及しようととある狐の元にやって来ていた。
“胡蝶”。狐の中でも永く生きている神であり、天狐と呼ばれる存在。気まぐれに人を化かし、いや、人だけでなく妖すらも化かす最低な狐。
「ねぇ、胡蝶。あんた本当は全部知ってるんじゃないの?ゆいの力の正体とか」
『いくら天狐とはいえそこまでは、ねぇ。
……それより、美代子。儂は不思議で仕方ない。きみがそこまであの子に関与するとは思ってもみなかったさ。いくらきみが高宮の名に縛られているからと言ってあの子に何か義理があるわけじゃないんだ、そろそろきみも他の土地に行くとかそういう事をしたらどうかな?』
「はぁ?人を地縛霊みたいに言うのやめてくれない?確かに、ここの土地を捨てて新たなところで座敷童子として他の家を守れば楽なのかもね。もうかれこれ……ここにも600年?それくらいはいるわけだし」
美代子は少し昔を思い出す。
確かに、ゆいには何をして貰った事はない。
……あるとすれば昔、あの子が遊びに来た時。
美代子が鞠をついていたところをじっと眺めていたのは思えばゆいだったか。ゆいの母である夕子には全く力がなかったから桜子の近くに常にいたのに気付かれたことは一度もなかった。
あの時からゆいは普通とは少し違っていたのか。意識的に彼女の前に現れたことはなかったから確信はなかったけれど。
「……でもあの子は桜子の孫よ。守ってあげなきゃいけないのはあんたも同じじゃない」
『……ふーん?きみは言葉の割には心はとても綺麗な子だから。力を半分以上あの時使ってしまってもその思いは変わらないのかな』
「あの時のことは関係ないでしょ。それにあんた、あたしのこと美代子って呼ばないで」
茶化すように胡蝶は微笑む。
否、姿はまだ見えないから微笑んだ気がした、という表現が正しいか。
恐らく、この先もゆいは物の怪に狙われ続ける。
物の怪もゆいを殺そうとしているのか、その力を吸い取った上で何かしようとしているのかはわからない。
それなら、美代子はせめて。
ずっと守ってきた少女。……今は少女ではないが、桜子の一番大切な宝を守ってやらねば。
(それが、せめてもの桜子への罪滅ぼしになるならね)
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