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偶然とか奇蹟とか


……思った時だった。

「ちょ、ちょっと待て?!今閉じ込められた?!」

明らかに空気が重くなった。
お墓参りに行った時みたいに、いるだけで気持ち悪くなる空気。完全にその空気に囲まれている気配を感じる。
本能的に『逃げろ』と全身が叫んでいる。だけど、足が地面に固められたみたいに動かない。動かそうとすると頭に警鐘が鳴る。動いてはいけない、と。

「み、みよちゃん……!どれだけ引っ張っていいから……!」
「あたしも動けないから……!で、でも……ここで手を離さなければ気付かれない筈なんだけど。てか、ぶっちゃけあたしも胡蝶のやつに言われただけだけどこの気配の正体って何だ?」
「えぇ……?!ど、どうするの?!」
「知らない!!あたしの能力戦闘向きとかじゃないし」

不機嫌そうに美代子はそう呟くと、突然着物の袂をごそごそと漁り始める。チリン、と鈴の音が静かに鳴る。それから、その鈴を3回鳴らして宙に投げる。

「もうこの際乃亜でもいいから気付け気付け気付け!!」

正直傍から見たらすごく変な行動だった。とはいえ、美代子のその真剣そうな顔を見て自分のために行ってるのだとわかる。下手に変なことを言っては失礼になりそうだ。

「まだ相手が顕現されてないからこんなに余裕ぶっこいてられるけど相手が登場した時どうしたもんかな」
「あ、相手……?」
「あんたちょっと黙れば?めっちゃ息切れしてんじゃん」

一先ず、木陰に隠れる形になってはいるが足が一歩も動かない。更には、美代子との手を強引に離そうとしているようなそんな変な感覚を感じる。美代子もそれは同様のようでしかめっ面をしながら何度も手を握り直している。

……正直もう、わけがわからなかった。
祖母の家に向かおうとしただけなのにずっと背後から視線を感じて。突然不思議な女の子が現れて。座敷童子だなんて言われて。終いには動けなくなっちゃって。

(こんなに運悪いのも困るなぁ……)

流石にここまで来れば不運だとか、不幸せだとかそんな域ではない。自分が何をしたというのか。何もしてないのにこんなこと……思わず泣きそうになったその時だった。

周りが明らかに嫌な空気になる。頭がくらくらしてきて、吐き気が止まらない。何だか、視界もモヤが掛かったようにはっきりとしないしもしかするとこれは全て貧血故に見せられた幻覚なのだろうか。貧血で幻覚を見るというのは聞いたことがないけれど。

「……あれは……?」

美代子の視線の先を辿る。
正直見るまではそんなものいるなんて信じていなかったし、自分とは無関係だと思ってた。
だって、それは自分とは違う世界のもので。
決して交わることのない世界で。ううん、交わったらいけない世界。

「ひっ……?!」

そこには、白い煙のような、でも煙ほど実体がないわけでもなくて。ただただ恐ろしい顔をしてきょろきょろと何かを探している『化け物』がいた。
ひたすらきょろきょろと動いている。目のようなものが何処に付いているのかもわからなかったけれど明らかにそれは何かを探していた。
その数は数えるのも阿呆臭いほどだ。

「物の怪、か。まーた、厄介なもんに好かれてるもんだね」
「みみみみみみよちゃ……?!あれな、な……?!」
「……物の怪。とは言え、あたし達も割とその部類に入れられることもあるけどあいつらに名はないよ。怨霊とかそういう部類」

美代子はゆいの肩を抱きながら、静かに話す。怨霊、と言った時僅かに肩が震えたのは何故だろうか。

「あー、まじかー。これは真面目に誰か来てくれないとアウトだわ」

美代子は再び先程の鈴を5回鳴らす。
チリン、という無機質な鈴の音は今、すごく恐ろしかった。

「誰か応答しろよ!もう!!桜子に怒られるどころじゃないじゃん!何のために迎えに来たと思ってんだ!」

キレながら美代子は鈴を振り続ける。
恐らく、そちらに集中してしまったからだろう。そう、うっかり。

うっかり一瞬ゆいと美代子の手は離れてしまった。

一瞬のことだったし美代子も無意識だったのだろう。ゆいの目を見つめながら首を傾げると徐々にその顔色が青ざめていった。





「あぁぁぁぁぁ!こ、これはやばいいいい!!」
「えええええ?!何かあの人達こっち来てるよ?!」

物の怪と呼ばれる化け物達はゆい達目掛けて移動してくる。先程まできょろきょろしていたのは座敷童子特有の能力のおかげで隠れられていたのだろう。そう、それにわかったことがもう一つ。
あの化け物が探していたのは紛れもない。ゆいなのだ。

「……いざとなったらあたしが囮になるし、あんたは逃げる準備して」
「えぇ?!で、でも動けないしだめだよ……?!」
「そうだった、動けないんだった。もう2人で消滅するしかないかな……」

美代子は、はははと乾いた笑いを漏らす。
もう状況は絶望と死しかないことは流石にゆいにもわかった。もうちゃんと覚悟を決めないといけない。覚悟なんてどうやって決めたらいいのかわからないし、まだ夢だと信じていたかったけど。
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