ようこそ、スマッシュシティへ


「やぁやぁみんな、揃ってる?揃ってるね!うんうん、よきかなよきかな」

ファイターのほぼ全員が満腹になり談笑を楽しんでいる頃、洋館の内装を整えたマスターハンドが意気揚々と姿を現した。

「レディーースアーーンドジェントルメーーン!お集まりの紳士淑女の皆様、ようこそおいでくださいました!
うーん、一度言ってみたかったんだよね、これ」

マスターハンドは一人で勝手に自分に酔いしれている。

彼を初めて見た者は「なんだこいつ」、「何この白い手」と若干引いているが、全く聞こえていない。


「私がマスターハンド。この世界の創造主にして、君たちをここに呼んだ張本人だよ。
……キャプテン・ファルコン、君が多くのファイターをここまで運んでくれたんだね。ありがとう」

「なに、お易い御用さ」

「君たちがバラバラに飛ばされてしまったのは相方のクレイジーハンドのせいだから、責めるならそっちを責めてね」

そう言った瞬間、マスターの横の空間が避け、クレイジーハンドが姿を現した。

あちこちから「似たやつが来た」「今度は左手だ」と声が聞こえる。

「なに、少しお前たちの実力を試させてもらっただけだ。ここに辿り着いた時点でそれは証明されている。安心するが良い」

「それはまぁ……もう別にいいけどさ……ただ食事中にいきなり消えたから家族が心配してるかも……」

ネスが心配そうに呟く。

「あぁ、親族や友人と共に居たファイターの場合、その相手に宛てた書き置きが残るようにしてある。心配はされるかもしれないが、理由は知らせたので恐らく大丈夫だろう」

「当然だよ。私はしっかり準備と挨拶してきてから来てほしかったのに、クレイジーが!勝手に!そんな事したから!」

「はいはい」

クレイジーハンドのせいで面倒なことになったのは確かである。

だが簡易的なものとはいえ目的地までの道標があったり、広大な世界の中でスマッシュシティ内という比較的近距離にしか飛ばされなかったり、身内に書き置きを残したり。

この時、
「……この左手、厳しいようで実は結構甘いんじゃ?」と、ファイターの半数以上が同じことを考えた。

もしかしたら試練とは名ばかりの、単なるお遊びだったのかもしれない。

……いや、だとしたらそっちの方がタチが悪いか。





「……フハハハハハ!」

途端、嫌な笑い声がリンクとゼルダの耳に入る。


「……え……」

「この声……」

そんな馬鹿な、信じられない、信じたくない。

そんなことがあってはならない。


恐る恐る、2人は声のした方を振り返る。

「…………!」

空中に大男が浮かんでいる。

その姿を見た瞬間、勇者と姫は絶望した。


「……ガノンドロフ……!?」

「……何でだ、奴は確かに俺と姫さんで封印したはず……!」

「だが俺はこうしてここに居る。封印などされずにな?」

「………………!」


ゲルドの魔盗賊【ガノンドロフ】。

ハイラルを己が手中に収めようと暗躍した、力のトライフォースの所有者である。


「……アイツ、やっぱそういう人間だったか」

頬袋に火花を散らすピカチュウを、マルスが落ち着くように宥める。


「一体どういう運命なんでしょうね、これは」

「……無意味だったのか、俺達がやってきた事は」

「全くもってその通りだとも!俺は貴様らに封印される直前に呼び声を聞き、それを受け入れた。それがこの結果だ!
わざわざこの場へ赴いてやったのは貴様らと相見える可能性を考えてのこと。
……全く、予想通りノコノコと現れてくれおったな」


一触即発。緊迫した空気が流れる。

この3人には浅からぬ因縁があることを、場の全員が理解する。


「そこまでだよ、ガノンドロフ。
ここでは秩序を乱すような振る舞いは禁止!そう言ったよね?」

「……俺に歯向かうならば、神であろうと容赦はせんぞ。
俺は貴様を倒し、この娘と小僧からトライフォースを奪い……
この世界を支配する王となる」

「貴様……ッ!」

リンクは剣を構え、魔王から目を逸らすことなく叫ぶ。

「マスターハンド、どういうつもりだ!よりによって、なんでコイツを呼んだ!?」

「……彼を招待するのは、正直迷ったんだよ。
“こうなる可能性”を考えてなかった訳じゃないからね。
だけど招待するに至ったのは、ひとえに私の好奇心からだ。
善も悪も関係なく、ただ力のみを見て彼を選んだ。
……だけど彼が要注意人物なのは確かだ」

マスターハンドの周りにおぞましい空気が渦巻く。

あぁ、これは怒っているな、とクレイジーハンドは理解する。

「そんな相手を呼ぶのに、『対策をしていない』訳が無いだろう?
ガノンドロフ。いくら魔王だと言っても、所詮はただの「人」。
……そんな君が神に敵うとでも、本当に思っているのか?」

マスターハンドが一際冷徹な声でそう言い放つ。

その瞬間、ガノンドロフの身体が光に包まれ​──
光が消えた時、彼は物言わぬ冷たい人形フィギュアに成り果てていた。


「今のはフィギュア化だよ。君たちには参戦を承諾した時点でちょっと細工をさせてもらいました」

「危険だと判断した場合は問答無用で私たちがお前たちを物言わぬフィギュアに変えさせてもらう。……この男のようにな」

「な……」

「俺たちはもう人間……生き物じゃねぇってことか!?」

「そうだね。今の君たちは人形フィギュアに命、魂を吹き込まれた存在になってる」

思いもしなかった事実にファイター達はざわめき立つ。

自分の頬をつねったり、腕をさすってみたりする者もいた。


普段は何の変哲もない、今まで通りの生物としての体のまま。

だが、それは見かけだけのもの。

人形フィギュアの本体に被せられるように作られた、仮初の肉体である。


「そう悲観することじゃない。嫌悪感があるなら、参戦を辞退して元の体に戻ることも出来る。
……だが、ひとまずは彼の話を聞いて、それから判断してほしい」

「あ、その前にとりあえず彼を元に戻そうか。
リンク、ガノンドロフの足元の台座に触れてみて」

「台座……?」

「ファイターが触れればすぐに戻るようになってるから」

リンクは恐る恐る、ガノンドロフの足元の金のプレートに触れる。

するとフィギュアは光に包まれ、光が消えた時には元のガノンドロフが倒れていた。

「…………?」

体を起こすが、何が起こったのか分からない。

だが、あの創造神が「何かした」ことだけは分かる。

「……貴様……」

ガノンドロフはマスターハンドを睨むが、体が上手く動かない。

……否、攻撃を仕掛けたくても、力が入らない。

マスターハンドはそんなガノンドロフを横目に話を続ける。


「私は強いファイターを求めて君たちを招待した。私が重視したのは力のみ。それに英雄も反英雄も関係ない。
だからこそ良からぬ企みをするファイターがきっといる、っていうのも理解してる。
それを止めるため、っていうのがフィギュア化する理由のひとつ。他にも理由はあるけど、それはまた後で。
……ここからは、君たちをここに招待した最大の目的である『大乱闘』について、少し説明をさせてほしい」

ファイターたちは口も挟まず静かに話を聞いている。

一部、食いしん坊は食べ続けながらだが、耳だけはマスターの方を向いていた。


「私の願いは『強者同士の戦いを見ること』と、私自身が『強者との戦いを楽しむこと』。
それを叶えるために私はこの世界を創り出し、あなたたちを招待しました。
ただし、君たちはそれぞれ別の星や国から集まったファイターだ。正直、すご〜く力の格差がある。
だから、その力のバランス調整をさせてもらいました」

「……あの子鼠と対峙した時から違和感はあった。
今の俺に全力が出せんのは貴様の細工が理由か」

「そうだけど、キミにはさっきフィギュア化した時に更に極端な力の制限をかけさせてもらったよ」

ガノンドロフは恨めしそうな顔でマスターハンドを睨みつける。

ガノンドロフを危険だと判断したマスターハンドは、フィギュア化の折に極端な力の制限をかけた。

「戦闘能力だけを著しく低下させる」能力。

時間経過で解けるものだが、少なくとも今ここで暴走することは出来ない。


「……小賢しい真似を……
だが俺の野望は潰えたわけではない……せいぜい、注意しておくことだな」

それだけ言い残して、ガノンドロフは姿を消した。

残されたファイターは心配そうな顔をしたり警戒を続けるが、既に立ち去ったのか何もしてくる様子はない。

マスターハンドはやれやれ、とため息をつく。

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