ようこそ、スマッシュシティへ


空を駆ける一条の星。

……文字通り、星型の飛行物体。


「バッジすごい光ってる!ここで間違いないね!」

緑に囲まれた眼下の館に向けて、高度を落とし位置を合わせていく。


「よーし、着いた!」

「…………うぅ…………」

「大丈夫?ちょっと蛇行運転しすぎたかな……ごめんね」


星型の乗り物​──ワープスターから降りて、カービィは気分の悪そうなルイージの背中をさすりながら、辺りをきょろきょろ見回した。


「まだ誰もいないのかなぁ」

館に繋がる石畳から広大な庭に出る。

広大なばかりでめぼしいものは無い。まさに新築ほやほやと言ったところか。

片隅には白いテーブルと、椅子が数脚置いてある。


「ちょうどいいカフェテーブルがある!とりあえずここで休んでよっか」

「……あ……」

元気よく走り出すカービィを心配そうに見つめるルイージ。

「勝手に使っていいのかって?ボクたちは招待されてるんだから、へーきへーき!」

それもそうか、とルイージも椅子に座る。

何度か深呼吸を繰り返して、ワープスターによる酔いは何とか治まった。


「おっきいおうちだねぇ〜……」

カービィが首……否、全身を使って眼前の館を見上げる。

ルイージもそれにつられて館を一望した。

……館といえば、思い出すことがある。

ルイージは何度か、攫われた兄や仲間たちを助けるために怪しいマンションに乗り込んだことがあった。

おかしな博士の助けがあったから何とかなったけど。

いつだって立ちはだかるのは、やたらと自分に執着してくるテレサの王。

……あぁ、思い出すだけで寒気がする。


そんなマンションのどれよりも大きいこの洋館で、これから暮らすことになるのか……と考えていると……


「おや、早速くつろいでるねぇ」

どこからが声がした。

直接、脳に語りかけるような、そんな声。

「!?」

「だれ!?」

「驚かせてすまないね、君たちを招待した者だよ」

目の前の空間を切り裂いて、真っ白で巨大な右手が姿を現した。

比喩でもなんでもなく、真っ白な手袋をつけた右手。とても異様なその存在に、カービィもルイージも目を丸くする。


「わっ!びっくりしたぁ〜」

「君たちはカービィとルイージだね。スマッシュシティへ来てくれてありがとう。
……私はこの世界の創造主、マスターハンドだよ」

カービィは椅子から飛び降りて、物珍しそうにマスターハンドの周りを走り回る。

「ウワサには聞いてたけど、ほんとに右手なんだー!」

「そんなに褒められると照れるな〜」

「褒めたつもりはないんだけどなー?」

カービィとマスターの笑い声が広がる。

似たもの同士の2人。

このノリについていけん、とルイージはため息をついた。


「いきなり知らない世界に飛ばされて困惑したよね……
あれ、私の相方が勝手にやったことだから許してほしい。
その代わり、何不自由ない暮らしを約束するから」

「いいよー!楽しかったし! ね、ルイージ!」

「……え……いや……僕は……」

……ほとんどワープスターで吐きそうになっていた記憶しかない。

なんでも楽しめるカービィが少し羨ましい。


そんなことより、気がかりなことがある。

……自分の、兄の安否。

「……あ……あの……僕の兄は……その……無事、なのかな……」

「うん、こちらでも招待した全員の無事は確認できているよ。安心して」

「よかったね、ルイージ!」

ルイージが安心して息をつくと、カービィも嬉しそうに笑う。


「ねぇねぇ、ボクの友達は招待されてるの?」

「カービィの友達……は、招待した人と、残念ながら選考から外れた人がいるんだけど……その招待した人も、不参加という返事が返ってきてしまった。ごめんね」

「……そっかぁ……」


カービィには思い当たる人物が二人いた。

自分とよく似た仮面の騎士。そしてワガママ気ままな自称大王。

二人にも来て欲しかったが、こればかりは仕方ない。


「でも今後もファイターが増える可能性は大いにあるから、今回選考から外れた人も、次回の招待枠として検討しておくよ。もちろん、不参加を選んだ彼にももう一度送ってみる。こちらとしては、是非欲しい人材だからねぇ」

「ほんと!? やったー!」

またチャンスはある、そう知ってカービィは元気を取り戻した。

「今回は試運転というかお試し、みたいなものだからね。
私は常に面白いファイターたちを探しているんだ。どんどん強者たちで大乱闘を盛り上げていってほしい」

「………………」

その「強者」に自分は含まれていないと思うけど。

ルイージのそんな心情を察してか、マスターは「まぁ、その辺を含めた説明は全員揃ってからにしようね」と穏やかな口調で告げる。


「他のみんなはどこにいるのかなー」

「そうだねぇ……みんなどれくらいで着くかな……」

マスターは何処からか懐中時計を取り出した。

正確には懐中時計ではなく、ファイターの位置と時間を確認できる特別な時計である。

その文字盤は複雑怪奇で、神にしか解読できない。


「……っと、あれ? それぞれの現在位置を見ると……あと数時間で全員、揃う計算になってる」

「なんでそんなことがわかるの?」

「神様だからね」

「ふーん、そっかぁ」

カービィは特に追求することもなく、脳天気な返事をする。


「(クレイジーってば、全員が同じような時間に揃うように細工してたのか……)」

全てが計算の上とは。得意なのは破壊することだけ、なんて言いながら頭の回転は速い。全く、食えない左手である。


「疲れてるだろうし、お部屋でくつろいでもらいたいのは山々なんだけど……申し訳ない。内装に少し時間がかかっててね」

外観は立派なものだが、実は本当に外側だけで、中は何も準備できていないのだとマスターは笑う。

カービィたちが想定よりもずっと早く到着してしまったせい、とも言えるが。


「全員揃うまでには何とかするから、ここで待っていてくれるかな?」

「えー……お腹すいたぁ……喉乾いたぁ……」

「おっと……そうだよね、それなら……」

マスターが指をパチンと鳴らすと、辺りの空間が歪み、同じようなカフェテーブルが複数現れた。

その上には料理や飲み物がたくさん乗っている。

まるでパーティー会場のように、肉料理や魚料理、デザートまでよりどりみどり。


「はい、好きなだけ飲み食いしていいからね」

「わぁ……!」

夢のような光景。カービィは目をキラキラと輝かせる。


「食べ物は定期的に自動で補充されるようにしたから!あとハンモックも置いたから疲れたら使ってね!
それじゃあまた後で!」

マスターが姿を消したと同時に、カービィは食べ物に向かって一直線。

驚異的な吸い込みでローストチキンと魚のムニエルをぺろりと平らげる。

「ルイージも食べよー!美味しいよー!」


いきなり現れた料理を食べても大丈夫か?と訝しむも、空腹には逆らえない。

実際カービィは美味しそうに食べ……いや、吸い込んでいるし、ルイージも恐る恐るタンドリーチキンを食べる。

……とても美味しい。

「ね、美味しいでしょ?」

「………うん」

誰が作ったのかとか、カービィが脅威的なスピードで食べ物を吸い込んでいくそばからどうやって補充されていくのかなど、色々気にはなるが。

ルイージは面倒くさくなって考えることをやめた。


​──その瞬間、一機の宇宙船が彼らの頭上を凄まじい勢いで飛んで行った。

「わっ……!?」

凄まじい風圧で砂埃が舞う。

……料理は何故かなんの影響も受けず無事だった。

「な……なに!?宇宙人でも来たの!?」


宇宙船は館を通り過ぎたところでぐるりと旋回し、速度を落としてカービィたちのいる庭の隅に着陸した。

カービィが様子を見に行こうと椅子から飛び降りると、宇宙船から出てくる2つの人影が目に入る。


「……スターシップ、凄かった……」

「……既に到着している者がいるようだな」

「ほんとだ……」

宇宙船「スターシップ」の持ち主であるサムスと、共に行動していたロイである。


「宇宙人さん……じゃなくて、もしかしてお仲間かな?」

カービィは嬉しそうにぽよぽよと跳ねながら2人の前に立つ。

カービィの方がよほど宇宙人らしい、と思いながらルイージも後に続いた。


「こんにちは!キミたちもファイターなの?」

「そ……そうだけど……」

何だこの生き物は、とロイは怪訝な目でカービィを見る。

「ボクはカービィ!こっちはルイージだよ」

「……サムス・アランだ」

「俺はロイ。よろしく」


カービィはキラキラした瞳でサムスの周りを走り回り、ホバリングしてはじっとパワードスーツを物珍しそうに眺める。

「お兄さんかっこいいねー!これロボットなの?」

「カービィ、サムスさんは女性だよ」

「そうなの!?」

「……ああ」

「間違えちゃった!ごめんなさい〜……」

「問題ない。気にするな」

むしろ女扱いされることの方が好ましくない、と呟く。

カービィはほっと安心した顔で、カフェテーブルを指差した。

「見て見て!マスターハンドがね、食べ物と飲み物たっくさん用意してくれたんだ!サムスとロイも食べよー!」

「まじか、すっごい腹減ってたんだよ」

ロイが腹部をさすると、それに応えるかのように腹の虫が鳴く。


「……私はいい。いつ敵が襲ってくるかも分からんからな」

「警戒心強いなぁ……」

ロイは苦笑いしながら、よく冷えた飲料水のボトルを手に取る。

「サムスさん、水分補給だけでもした方がいいと思いますよ」

「…………」

何も言わず、サムスはボトルを受け取ってパワードスーツの頭部を外した。

その横顔の美しさに、カービィは口を開けたまま見入ってしまう。

「………何だ?」

「あ、ううん、なんでもない!」

ハッと我に返る。「キレイだから見つめてしまった」、なんて言ったらきっとサムスは不機嫌になるだろう。

女扱いを好まないと言った彼女の発言を思い出して、カービィは出かかった言葉を飲み込んだ。

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