ようこそ、スマッシュシティへ
──荒廃した動物園──
「(……招待状を貰ったから来てみたけど……
俺は……この世界で何事もなくやっていけるのかな)」
荒れた道を歩きながら、少年は物思いに耽る。
──この世界に飛ばされてくる少し前。
「ロイ〜〜〜!!ねえ行くの?ホントに行くの?」
「子供じゃないんだからそんなに泣くなよ、父さん……」
招待状を貰い、スマッシュシティへ行くことを父に告げた時、ひどく反対された。
……否、反対というより、子離れ出来ない父のワガママか。
ここはエレブ大陸南部に位置するリキア地方。
リキアは複数の領主が各々の領地を治め、同盟を結ぶことで成り立っている。
そして、少年の足元にしがみつきこの号泣している男性もまた、この地フェレを治める領主である。
彼の名はエリウッド。そしてそんな彼を呆れた顔で困ったように見つめるのが、その息子の【ロイ】。
「いろんな種族の人と交流したり、俺自身の剣の腕を磨くいい機会になるかもって思ったんだ」
以前にも留学してたことがあるし、それと同じことだろう、と父を宥める。
「……どうしても行きたいんだね……?」
「うん」
ロイの決意は揺らがない。
一度決めたことはやり通す。その芯の強さを知っているからこそ、エリウッドはもうそれ以上何も言えなかった。
息子のやりたいことを、邪魔するなんて無粋なことは出来ない。
「わかった……寂しいけどロイの為を思って見送ることにする……
だからたまには帰ってきてね? ね??」
「わかったから、しがみつくなって……」
……やれやれ、本当に困った父上だ。
招待を受けようと思ったのは、故郷にいることに生きづらさを感じていたからでもあった。
父親は人間。母は人間と氷竜のハーフ。
大陸を救った英雄……という評価と同時に、危険な力を持つ竜の子という認識も根付いている。
そもそも竜は危険な存在ではない、きっと分かり合える……
そう知ってもらいたくても、肝心の自分がこんな有様では説得力も何も無い。
父の統治する領地の人間たちには、相変わらず不信感を持たれていた。
戦争の最中も、平和が訪れた今も、力の暴走を感じたことは無かったけれど。
いつまた暴走してしまうかなんて、自分にもわからない。
だから。
今後もし何かあっても……歴戦の勇者たちが集うこの場なら、何とかなるんじゃないか。そう考えての参戦だった。
大好きな故郷と、家族、共に戦った仲間を巻き込むよりは、ずっといい。
そんな本心を、父さんには言えなかったけど。
……ああ見えて聡明な人だから、きっとお見通しだろう。
「……また、何か考え事か」
声をかけられて、ロイの意識は現実に引き戻される。
「あ、いえ……」
「気を散らしていると、先程と同じようなことになるぞ」
「……すみません……俺、剣士なのに丸腰だから何の役にも立てなくて……」
「剣のみに頼らず体術も身につけておけば、こうはならなかっただろうがな」
「……はい……」
返す言葉もなく、相手の後ろをただついて行くことしか出来ない。
特殊なスーツに身を包み、高い戦闘能力を持つ冷静沈着な女性。
ロイは、彼女に助けられた。
「(いや……情けないな……こんな事になるなんて……)」
……まさかこんな形で、いきなり知らない場所に放り出されるとは思わなかった。
自室でくつろいでいる時だったものだから、武器を持ってないのは当然、服装だって部屋着そのものである。
ロイは剣を振るって戦う剣士。
剣がなければ何も出来ない、無力な子供。
丸腰でも敵と出会わなければいい。
危険は(多分)ないと招待状にも書いてあったし。
そう思って洋館を目指して歩いていたが──
運悪く、敵に囲まれてしまった。
ここがいわゆる動物園と呼ばれる場所であったからなのか、ライオンのような、ヒョウのような、よくわからない巨大な肉食獣が数頭、じわじわとロイを囲んで距離を詰める。
意気込んで参戦を決めたはいいものの、自分の命運もここまでか。
常に護身用の剣は持っていなきゃダメだったかな。でもこんな獣相手に剣術なんて通じるのか?
なんて考えながら、隙は無いか伺っていた時。
上空から誰かが勢いよく飛び降りてきて、わけもわからぬうちに一瞬で獣たちを倒してしまった。
目を丸くして呆然としているロイに背を向けたまま、スーツの頭部が外され、美しい金色のポニーテールが風になびく。
──彼女は自らを【サムス・アラン】と名乗った。
こうしてサムスに助けられたロイは、彼女と共に行動することになった。
「もうすぐ私の宇宙艇が置いてある場所に着く。それを使えば目的地など一瞬だ」
「宇宙艇……?」
彼女の正体も、特殊なスーツも、出てくる単語の数々も、どれもロイには馴染みがなく首を捻るばかり。
「……来ればわかる。せいぜい私の傍を離れるな。
今のお前は、何も出来ないのだろう」
「はい……すみません……」
今は彼女について行くしかない。
ロイは自分の無力さを嘆きながら、彼女の所有する宇宙艇──スターシップを目指した。
──氷山・雲海──
ハヤブサを模した巨大な宇宙艇が、悠々と雲海を進んでいく。
その内部で、
「いやぁ、遭難していたのかと思ったら楽しく登山中だったとはな。邪魔してしまったかな?」
「いや、登った後でどうするか全然考えてなかったから、むしろ助かりました!」
「私たち、雪山を見るとどうしても登りたくなるんです」
「そうそう。で、あの高さまで登ってみても辺り一面雪まみれでさ……バッジが教えてくれる方向見てもぜんっぜん何もなくて」
「私たちだけでずっと途方もない距離を歩かなきゃいけないのかなって悩んでたので……」
「だから本当に助かったんだよ!ありがとう、ファルコンさん」
少年と少女は交互に、息ぴったりに会話を繋ぐ。
これで兄妹でもなんでもないというのだから驚きだ。
「そう言ってもらえるのは嬉しいな。ファルコンフライヤーを飛ばした甲斐があったというものだ」
男はそう笑いながら、少年少女をまじまじと見つめる。
それぞれ青と赤の防寒服に身を包み、手にはハンマーを持っている。
そして胸元には、ファイターとして参戦を表明したことを示すバッジがキラキラと輝いていた。
「しかし、まさかお前たちも招待を受けたファイターだったとは」
「これでも数々の雪山を制覇してきたからね!」
「……戦うのは、好きじゃないけど……」
「どんな理由だっていいさ。俺も楽しそうだから来ただけだしな!」
青いスーツに身を包んだ、筋骨隆々な男。
バイザー付きのメットを被り、その顔を確認することは出来ないが──眩しい笑顔が人柄の良さを滲ませている。
「改めて自己紹介しようか。
俺はキャプテン・ファルコン。F-ZEROマシンに乗って数々のレースを制覇したレーサーだ」
「僕達は人呼んでアイスクライマー!雪山を愛する登山家だよ!
僕の名前はポポ!」
「私はナナ、です」
登山家の【アイスクライマー】、そしてF-ZEROグランプリの覇者【キャプテン・ファルコン】。
通常ならば絶対に関わることのないであろう両者の邂逅は、スマッシュシティというこの特別な場所でこそ成り立つものである。
「凄いねこれ、操縦とかしなくていいの?」
「ファルコンフライヤーは自動操縦だからな、問題ない」
ポポもナナも、飛行機すら乗ったことがない。
それが自動で飛ぶなんて、ファルコンの世界は自分たちよりもずっと進んだ未来の世界なのだろう。
「とりあえず空から他のファイターを探してみるとしよう」
「どうやって?まさか目で見て探すの?」
「確かに目には自信があるが、さすがに無理だな!
このバッジに反応するようにレーダーを設定した。近くにファイターがいればわかるようになっている」
便利だね、すごいね、とアイスクライマーは顔を見合わせる。
「……お、早速2つ、反応があるな!」
反応があった場所に向けて、ファルコンは宇宙艇の進行方向を変え、速度を上げる。
一体、どんな仲間が待っているのやら。
──森──
「いやぁ、さっきは助かりましたぁ〜
美味しそうな果物があったから取ろうとしたら、まさかそれが罠だったなんて〜」
「果物を狙ってきた生き物を餌にする肉食の植物……みたいでしたね。あんなものがいるとは、恐ろしい世界です……」
森の奥で切り株に座って、のほほんと会話する者が二人。
かたや緑色の恐竜【ヨッシー】。
かたや真っ黒で……平面な……人間のような何か。
【Mr.ゲーム&ウォッチ】と名乗る、謎の人物。
「ウォッチさんが通りがかってくれなかったら、ボク今ごろあの植物に溶かされてたかもです〜」
「危機一髪でしたね」
この世界に来てすぐ、ヨッシーはリンゴに似た果物を見つけた。
その果物は木ではなく、草むらから伸びる一本のツルに吊るされていた。まるで釣竿に付けられた餌のように。
そう、冷静な判断ができていれば、一発で罠だとわかる見た目をしていた。
けれどその時ヨッシーは──とてつもない空腹に襲われていた。
冷静な判断なんてできるわけもない。
なんでもいいからとりあえずたべたい。おなかがすいた。たおれてしまいそうだ。
そんな状態で目の前に美味しそうな果物(罠)を見つけてしまったら、飛びつかないわけがない。
そうして果物に飛びついたヨッシーは──
草むらに潜んでいた、巨大なハエトリグサのような植物に丸呑みにされてしまった。
助けを求めてもがいて、だけど誰も来なくて、お腹がすいて、惨めで、悲しくて──
色々な感情が渦巻く中で、もう諦めようかと思った時。
救世主である彼が現れたのだ。
……救世主と呼ぶには、真っ黒で平べったいけれど。
それでも最後の力を振り絞って助けを求めたヨッシーは、それに気づいたウォッチの決死の攻撃で食肉植物から吐き出され、何とか一命を取り留めたのだ。
何度も何度も泣きながらお礼を言って、ウォッチが採ってきた安心安全な果物を食べて、今に至る。
そこで初めて、お互いが金のバッジをつけていることに気づいた。
「……それにしても、まさかお互いに招待されたファイターだとは」
「戦いは自信ないので、ただ美味しそうなものが食べられるかな〜って参加してみることにしたんですけどぉ……」
「私も興味本位なので、似たようなものですねぇ」
「楽しければいいかなぁ〜って」
「ですねぇ」
楽しく談笑している二人の頭上に、青い宇宙艇が向かって飛んでくる。
「ところであれ、なんですかねぇ」
「空飛ぶ戦艦……でしょうか?この世界には色々なものがあるんですねぇ」
未知のものに対して危機感もなく、のほほんと受け答えする二人。
──それが自分たちを迎えに来たものだなんて、知るはずもなく。