ようこそ、スマッシュシティへ
「……というわけで、1年近く眠ってたわけなんだけど」
力を取り戻した神──マスターハンドは、そう目の前にいる人物に声をかける。
彼の目の前にいるのはクレイジーハンド。
マスターハンドと表裏一体の存在となる、破壊の化身である。
「私が寝てる間、クレイジーには面倒かけたね」
「全くだ。創世を終えた途端に『疲れたから寝るね、起きるまで管理よろしく、おやすみー』とは何事だ」
「まぁまぁ、でも君のおかげでこの世界は平和だし私もこうして元気モリモリになったわけで」
同時に発生した創造と破壊の化身。
創造の化身が創り上げたこの世界を、破壊の化身に見守るよう告げ、眠りについてから一年。
「さてと、今日から本格始動だ! まずは……
とりあえず『ここ』、どうにかしよっか!」
今2人がいるのは「何も無い空間」。
世界を創り上げた場所にして、その後は「神の眠る場所」として人々に伝えられ、守られてきた聖域。
マスターハンドは力を収束させ、意識を一点に集中する。
──掌から光が溢れる。まるで景色が塗り替えられるように、『無』から『有』が生み出される。
森。 渓谷。 山。 遺跡。 ジャングル。 砂漠。 湖。 氷山。 荒野。
何も無かった空間に、様々な自然や人工物が一瞬にして現れた。
「……見事なものだな」
「十分に力を蓄えてたから、このくらい朝飯前ですー」
……少し褒めたらこれだ。ドヤ顔が非常に鬱陶しい。
「さぁ、あとは……」
世界の中心に、人々の住む街を創る。
自らが見定めたファイターたちが、不自由なく暮らせる場所。
大きな街と、その外れに洋館を作って、マスターハンドはようやく一息ついた。
「私が一から創り上げた場所。そうだね、『スマッシュシティ』とでも呼ぼうか。
で、この館はみんなが暮らすスマッシュ邸。略してスマ邸ね」
「略すな。ダサい」
「えぇ〜……
……ともあれ、これでみんなを迎え入れられるね」
そう楽しそうに笑って、どこからともなく大量の招待状を取りだした。
「なんだそれは」
「1ヶ月くらい前から夢の中で書いてた招待状だけど?」
「書いていた?夢の中で?」
「クレイジーだってできるでしょ、このくらい」
「私は破壊に特化した神だぞ?お前のように器用な真似はできん」
クレイジーはマスターに渡された招待状を一つ一つ確認する。
招待状に書かれた名前を見るだけで、それがどんな人物なのかを事細かに理解、分析する、神の特権。
「お前が目を付けたファイターのうち、何人かは「オリジナル」との乖離……変質が見られるのだが」
「違う世界同士を繋げたせいでちょっとした歪みが生じたから、その影響かな。
大丈夫、性格とか見た目が少し変わっても、『本質』は変わらないはずだから」
人を、その人物たらしめる「本質」。
いわゆる、「秩序」「混沌」「中立」と呼ばれるもの。
本質が変化してしまうと善人だった者が悪人になったり、その逆が起きたりと、大きな影響が出てしまう。
確認する限り、どうやら本質の変化は起きていない。
「……あー……でも……作った覚えのない魔物とか生き物もいるな……?割とヤバいやつも」
「それは割と問題では?」
「まぁ、基本的に人里には出ないやつだし大丈夫でしょ!
人格の変化も魔物の発生も『この世界』では『最初からそうだった』ことになってるし、問題無いよ。
……それに、何かあっても私が目をつけたファイター達なら、きっと何とかしてくれる。いざとなれば私もクレイジーもいる」
そんなに能天気でいいのだろうか。クレイジーは呆れてため息をつく。
「さてさて、みんなが来るのが楽しみだなー!どうやっておもてなししようかな〜」
「……………」
再び招待状の数々に目をやるクレイジー。
……ふと、悪戯心が芽生えた。
「どれ、この招待状は私が送っておこう」
「ありゃ、気が利くね」
破壊神のくせに優しいな、とマスターが感心したのも束の間。
「……おっと、つい手が滑って余計な細工をしてしまった」
「へ?」
「ファイターとなることを承諾した時点で、この街のどこかへバラバラに強制転送されるようになってしまった」
「何してくれてんの!?」
「いやぁ私としたことがうっかりさんだな」
「いやマジで何してくれてんの!?!?」
慌てるマスターが回収しようとする間もなく、招待状はクレイジーの手を離れて鳥のように宙を舞う。
招待状に書かれた、それぞれの宛先へと向かって。
「あっ、ちょっとー!」
「危険な場所には飛ばさない。それに、この程度のピンチを乗り越えられねばファイターとしても期待はできんだろう」
「そうかもしれない…けど……でも……」
「お前はお人好しすぎる」
「文字通り、私は人が好きだからね!!」
「なに、ちゃんと辿り着けるように全て計算してあるから心配するな。お手並み拝見というやつだ」
「も〜〜……クレイジーのバカ〜〜……」
せっかく最高のおもてなしをしようとワクワクしていたのに。
マスターハンドはがっくり項垂れる。
「……待ってるからね、スマッシュファイターたち」
どうか彼らが無事にここへ辿り着きますように、とマスターハンドは晴れ渡る空に願うのだった。