Super Smash Bros. Melee


スマッシュワールドに集められたファイター達は、住む時代も世界も全く異なる者達ばかり。


呆れるほど平和な国からやって来た者もいれば、戦地を駆け抜け死線を越えてきた者もいる。


故に考え方や価値観が全く異なっても、それは仕方の無いことなのだ。



彼らが集まったばかりの頃は、毎日混乱ばかりだった。

世界の違い故の間違いも争いも度々起こった。


そしてその中でも、最も大きく深刻な違い……





それはカービィのとある言葉がきっかけだった。


「……ねぇマルス、ロイ……」

「うん?」

「マルスたちの世界は……戦争のあった世界、なんだよね」

「……そうだね」

「……その……マルスたちも、人の命を……奪ったのかなって」

「…………!」

「……カービィ、お前……」

「……すまねぇロイ、マルス……俺が悪いんだ……」


そう言ったのはマリオだった。

申し訳なさそうに帽子を目深に被り、誰とも目線を合わさずにいる。


「……マルスたちが戦争で大変な思いをして、それでも必死に生きてきたって話をしてたんだ。そしたら……」

「ボク、平和な国にいたから戦争とかよくわかんなくって。
……戦争って、人が人の命を奪うんでしょ?だから……マルスたちも、そうなのかなって思ったんだ」


「……そうだよ」

意を決したように、そう答えたのはマルスだった。

「……僕達は……人殺しだ」

「マルス!」

「カービィだって仲間だ……真実を知る権利はある。
……仲間に嘘はつきたくない……」


それを聞いたカービィは目に涙を浮かべて、相当ショックを受けたようだった。

「……どうして……そんなこと……
ボクだって……悪い事をした人を懲らしめることはあっても、そこまではしないよ……」

身体を震わせるカービィに、マルスもまた悲しい顔で話しかける。


「……カービィ……君達の世界と、僕達の生きていた世界は全然違うんだよ……」

「……?」

「戦争が起こってしまえば、誰もが無傷でいることなんか出来ない……
話し合いではわかってもらえない、実力でしか分かり合えない人もいる……
殺さなきゃ殺される……僕達の生きてきた世界は……そういう世界なんだよ」

「どうして……?
どうして戦争なんかするの……?」

「戦争が起こる理由なんていくらでもある……
例えば、世界を自分のものにしたい……って思う人が、他の国を襲うとかね。
当然、相手は国を奪われたくない。でも話し合っても聞いてもらえない……
だから、戦うことで国を守るしかない。
結果、沢山の犠牲が生まれ……土地は荒れて、国ですらなくなってしまうこともある……
……本当にバカなことだと思うけど、欲深い人間がいる限り、それはなくならない……それが人間なんだ……」

「……マルスの国も、そうだったの?」

「……僕の国はね、仲良くしてた国に裏切られたことで滅んだんだ……
父上もその戦いで命を落とした……
でも王子である僕はどうしても生き延びなきゃいけない。
僕が死んだら、僕の国の人達もみんな殺されてしまう……いつか国を取り戻した時、その上に立つ者が居なくなってしまう。
だから僕は必死で逃げて……必死で生きたんだ。
いつか力を付けて、祖国を取り戻すために……ね」

「………………」

カービィは黙り込んだ。

マルスの話を、自分なりに整理しようとしているようだ。


「王族は常に命を狙われる危険と隣り合わせに生きてる……
だからいざという時の為に、幼い頃から剣を握り……扱いを覚えた。
身を守る為の大事な術として……ね」


そう言うマルスの瞳は悲しげだった。

それに気づいたマリオが、マルスの気持ちを汲みカービィを諭す。


「カービィ、お前もわかってるだろ?
マルスは普段は虫一匹殺せない優しい奴なんだ。
王族の誰よりも争いを嫌い……心の優しいマルスが……何の抵抗も迷いもなく人の命を奪うことが出来たと思うか?」

「…………」


カービィは暫し黙り込んだかと思うと、ふっと顔を上げて尋ねた。


「……マルスは、最初に命を奪った相手のこと……覚えてる?」

「……うん……忘れるわけないよ……」


それはマルスにとって、最も深く刻み込まれた記憶。

絶対に忘れることなんか出来ない。


「……さっき、仲良くしてた国に裏切られた……って言ったよね。
それが、僕が14の時……
城を堕とそうと侵入してきた、同盟国の兵士が最初だった……
僕は王子だから……誰よりも真っ先に命を狙われる。
だから僕は……生きるために仕方なく斬ったんだ。
……平気なんかじゃない……
凄く怖くて……つらくて……一晩中震えが……涙が止まらなかったよ……」

「マルス……」

「だって……命を奪ってしまった者にだって、家族や……大切な人がいる……
その人達のことを思うと……」


やがて、マルスは身体を震わせ泣き出してしまった。

戦争が終わり、平和が戻っても、その為に沢山の命が失われている。

自国の人間も、敵対した国の人間も、戦争に巻き込まれてしまった国の人間も……


何人手にかけたかも覚えていない。

けれど人を殺めた時の感触が、気持ちが、今でもマルスの心を締め付けている。

悪夢にうなされ、涙で枕を濡らすことも、決して少なくはないのだ。


「……マルスは優しいのに……生きるためにそんなことしなきゃいけないなんて……つらかったんだね……」

「……カービィ……」


カービィは泣き止まぬマルスの頭を優しく撫でた。

「よくがんばったね」、と言いながら……


「………………」

だが、話を聞いていたロイはマルスとは対照的に、複雑な気持ちを抱えていた。

「……俺は違う……」

「……ロイ……?」

「……最初の一人は憎しみを持って殺した……」


ロイが思い出していたのは、留学先で出来た初めての友達の命を奪った、闇の組織のリーダー。

ただ相手を恨み、親友の無念を晴らす為だけに相手を手にかけた。

それが、ロイが初めて人の命を奪った瞬間でもあった。


それを聞き、マルスも涙を拭い反論する。


「……僕だって、そういう人はいるよ……
父と母の仇を討ったときは……恨みと怒りと……復讐の気持ちしかなかった」

「……でも、俺はマルス先輩みたいに優しくない……
戦いの最中は何も考えられなくて、ただ襲ってくる相手を無闇に斬りつけた……
何人殺めたかも覚えてない……命を奪った人の家族のことなんか、考えたこともない……
ただ、自分と仲間を守ることだけで必死だった……
相手を思いやるほど俺は優しくない…… 俺は……薄情で残忍な人間だよ」

「そんなこと……」

カービィがオロオロしながらもフォローしようとするが、上手く言葉が出てこない。


「……いや、それが普通だよ。
普通、生きるか死ぬかの瀬戸際な戦場で、相手のこと考える余裕なんかねぇって」

そう言ったのはマリオだった。

「それに、何の理由もなく相手を恨んだんじゃない……
マルスもロイも、大事な人を奪われたから……相手を憎んで仇を討ったんだろ?」

「……うん」

「恨みがなくても武器を手にして戦うのは……みんな大切な人を守りたいからじゃないのか?
守らなきゃいけないものがあるから、戦うんじゃないのか?」

マルスもロイも無言で頷く。

「……俺達の世界では……俺達みたいな子供でも人の命を奪う……
でも、決して無意味に奪う訳じゃない……
お互い自分の信じるものとか……大事なもの……守るべきものの為に戦うんだ」

「なら、自分を執拗に責める必要はないと思うぞ」

マリオはそう諭した。


「やり方は違うけど、守るために戦うのは俺達と変わりないんだ」

「そうだ、同じことなんだよ」

いつの間にか話を聞いていた時の勇者リンクやフォックスも会話に加わり、自らの戦いを思い出す。

リンクだってハイラル王国を駆け抜け、邪魔する相手を容赦なく倒してきた。

フォックスも、立ち塞がるアンドルフ軍を次々と撃墜してきた。

……皆、同じなのかもしれない。


「……マルスもロイも他のみんなも……ボクとはぜんぜん違うところから来たんだもんね……
一生懸命、生きてきたんだよね……」

「カービィ……」

彼にとってかなり重たい話になってしまった、とマルスは心配していたが、カービィはどこかスッキリした顔をしている。


「……うん、もう大丈夫。話を聞いて、自分でしっかり納得出来た」

「……俺達のこと、嫌いになった?」

「まさか!マルスとロイのことは変わらず大好きだし、むしろそんな大変な状況ですごく頑張ってたんだって、尊敬したよ」


カービィはそう言って、にっこり笑った。

たとえ平和の中にいても、残酷な運命を生きてきたとしても、それは世界が違う故、仕方の無いこと。

簡単には武器を持てない世界にいた者、誰もが武器を持てる世界にいた者、そんな違いを乗り越えて彼らはこの地に集まっている。

「違うこと」を理解しなければ共存など出来ない。


カービィは自分なりにマルスやロイの生きてきた世界を理解したつもりだった。

例えすぐには受け入れがたい考えであっても、大好きな仲間たちとずっと一緒にいたいから……


そしてその少年の意思が、他のファイターの考えも変えることになる。


「……何だか俺、他の奴らの生きてきた世界のこと、もっと知りたいな……俺なんて戦闘機に乗って敵を撃墜してただけだし……」

「ああ、俺もだ。何の変哲もないキノコ王国に住んでたからびっくりすることばっかりなんだよ」

「何の変哲もないキノコ王国ってなんだよ、むしろキノコ王国が何なんだよ」

「お前こそ宇宙飛び回るって何!?」


マリオとフォックスは早速言い合いを始めている。

初めて、皆が仲間の本質を知りたいと思った瞬間だった。


「よっしゃ! じゃあまず俺が時の勇者としてハイラルを救った伝説から……」

「リンク! 貴方だけではなく賢者たちと共に、でしょう!?」


「僕がオネットを旅立ったのはカブトムシみたいな奴に世界の危機を告げられたからで……って、みんな聞いてる!?」


その後、ファイター達は自分の「世界を救った自慢話」で盛り上がった。

……中には終わらぬ自慢を延々聞かされ、飽きている者もいたが。



そんな話を隅の方で聞きながら、マルスはロイに話しかける。


「……ホントはね、僕……不安だったんだ。
ファイターのみんなはそれぞれいろんな戦いを経験して、世界を救った人達が沢山いる……
でも、僕達みたいに人が人を殺めるような世界にいた人はほとんどいない……」

「マルス先輩……」

「もしかしたら酷い奴だ、って白い目で見られるかもしれないって……覚悟もしてたんだ……」

「だけどみんなは違った……
それが世界の違いなんだって理解してくれた……」

「うん……ホントに……嬉しかったよ……」

マルスは再び涙をこぼした。

けれどそれは悲しみではなく、嬉しさからくるものだ。


「……先輩……
もし……ファイターの誰かが命を狙われる、なんてことがあったら……先輩はその相手を……殺せますか?」

「……うん。
話し合っても聞いてもらえないような……残忍で非道な相手なら……僕は仲間のために……その人を討つ」

「……俺も、そうすると思います」


例え、皆にどう思われようとも、それが自分達のやり方だから。

そうすることしか出来ない。他にやり方なんて、わからないから……



育った世界の違い。

カービィの苦悩は、彼らに改めてその重大さを気づかせた、そんな出来事だった。



ーーーENDーーー
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