ニワトリ失踪事件


次に声をかけたのはフォックスとファルコだった。

「ニワトリ?知らないなぁ……そもそも生きてるニワトリ捕まえて……とか、そんな面倒な事わざわざしなくないか?」

「冷蔵庫開けりゃ何でも入ってるしな。俺もさっき美味そうなティラミスがあったから頂いたところだぜ」

「……ファルコ、それ確かウルフの……」

「あぁ?知らねェよ、共用の冷蔵庫に入れてる時点でご自由にって言ってるようなモンだろ」

……この後、ウルフとファルコが周りを巻き込んでの大喧嘩になったのは言うまでもない。





「ニワトリねぇ……僕は見てないけど……」

リビングでミステリー小説を読んでいたルイージも首を横に震る。

「リュカがニワトリ小屋に行った時……何かいつもと違うところは無かった?」

「えーと……」

リュカは鶏舎に行った時のことを思い出す。

鶏舎に行った時、まずリュカは掃除をする。鶏舎をキレイにすると、自分の中でスイッチが入る気がするからだ。

けれど思い返してみると、今朝は​──……


「そういえば、掃除をした時にいつもより汚れが少なかった……というか……そもそも汚れてなかった……かも?」

「……リュカが行く前に、誰かがニワトリ小屋に行って掃除をした……ってことかな……心当たりはある……?」

「たまにお世話を手伝ってくれる人は何人かいます……
起きたら全部のお世話が終わってたってことも……」


寝坊した時、体調不良の時、そのどちらでもない時でさえ、リュカがニワトリ小屋に向かうと誰かがお世話を代わってくれている、ということはよくあった。

真面目で心優しいリュカには、自然と他人を「彼の力になりたい」と思わせる力がある。


「……誰かがニワトリ小屋に行って、ニワトリ……ココ太郎を連れ出したって考えるのが……やっぱり妥当だと思う……」

「でも、なんのために……」

「……わかんない。でも、リュカの手伝いをしてくれる人なら……変な理由で連れ出したりはしないでしょ」


ルイージの言葉に少し安心するリュカ。

「ルイージさんすごーい、探偵さんみたい」

「最近アガサ・クリスティばっかり読んでるからかな……」

読んでる本に気分が左右されることもある、とルイージは恥ずかしそうに言う。

ルイージのおかげで状況は一歩前進した。




……が、その後出会ったアイスクライマーも、

「ニワトリさん……見てないよねぇ、ポポ」

「ずっとナナと一緒だったもんねー、見てないなー」


さらにそのあと声をかけたピカチュウとピチューも……

「俺はピチューの子守りで手一杯だからな、ニワトリなんざ見てねぇ」

「ニワトリさん、かわいいよねぇ〜……こけこっこー!」

「よしよしピチューはホントに可愛いな」

有力な情報は得られなかった。




「……あれからいろんな人に声掛けたけど、情報得られないね……」

「そもそも朝早かったから、まだ寝てた人も多いだろうし」


完全に手詰まりになってしまった。

これからどうしようか、と悩んでいたその時……


「ニワトリ? ニワトリ探してるの?」

通りすがりのディディーが、バナナを食べながらリュカに話しかけてきた。

「さっきマルスがニワトリを抱えてどこかに行くのを見たけど……それのこと?」

「マルスさん?」

2時間ほど前、リビングでドンキーと仲良くリズムゲームで遊んでいる時に、ニワトリを抱えたマルスを見かけたという。

そもそも館の中をニワトリを抱えて歩いているというのもなかなか珍しい光景ではあるが、ディディーはゲームに夢中でさほど気にしていなかった。


「そもそもリュカのニワトリだっていう認識が抜けてたんだよね〜」

「どこに行ったかまでは……」

「わかんないなぁ、ごめん」

「そっか……ありがとうディディー、マルスさんを探してみるよ!」




広い館の中でマルスを探すのは骨が折れる、かと思ったが案外そんなことはない。

マルスは一日のルーティーンが大体決まっている。

人に頼まれ事でもされていない限りは、この時間は……


鍛錬のために、誰かと試合をしているはずだ。



「あ、いた!」

リュカが大乱闘部屋の前に到着した時、ちょうどマルスはメタナイトとの試合を終えて自室に戻ろうとしているところだった。


「あれ、リュカどうしたの…… って……
…………あぁっ!」

リュカの顔を見た途端、マルスは何かを思い出したようだった。

「ごめんリュカ、僕ってば君に大事なことを伝えるの、すっかり忘れてた……」


マルスはとある場所にリュカを連れていった。

そこはドクターマリオの個室、もとい医務室。


「…………あ!」

「おや、リュカさんこんばんは」

そこには笑顔のドクターマリオと、足に包帯を巻いたニワトリ​──ココ太郎がいた。

「ココ太郎……!」

「ニワトリ小屋を掃除してたらね、歩き方がおかしい子がいたから……ドクターに診てもらってたんだけど。
肝心のリュカに伝えるのをすっかり忘れてた……」

「怪我をしていたようなので、簡単に処置をしておきました。自然に治ると思いますが、もし何かあったらまた連れてきてください」

「ありがとうございます、ドクターさん」

リュカはドクターに頭を下げ、ココ太郎をそっと抱き上げた。

「マルスさんもありがとうございます。僕のニワトリたちなのに、しっかり見てくれて……」

「リュカはいつも頑張ってお世話してるからね、お手伝いしたくなっただけだよ」

優しい笑顔がとても眩しい。

……なるほど、これが多くの人に支持される王子の姿か……と、子供ながらに皆思う。


「誰かに食べられてなくてよかったね」

「え、そんな大事になってたの!?」

「大事っていうか…… そういえばアイク兄ちゃんが親子丼食べたのを色々勘違いして情緒が大変なことにはなってた……かな?」

「……そ……そうなんだ……僕からも謝っておくね……」

マルスは苦笑いする。

アイクの愚直すぎるところにも困ったものだ。



「そういえば、ココ太郎探すのに必死で今朝の卵回収するの忘れてた!」

「じゃあ、ココ太郎を鶏舎に戻すついでに採ってこようか。僕も手伝うよ」

「卵……回収……襲われない……?」

「だいじょーぶ!ササッと終わらせよー!」


リュカ、マルス、コリン、ネスは再び鶏舎へと向かう。



こうしてニワトリ失踪事件は幕を閉じた。

その後もリュカは友人の助けを借りながら、毎日ニワトリたちの世話を頑張っている。



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