ニワトリ失踪事件
「ココ太郎が居なくなっちゃった……」
その日、リュカは魂が抜けたように呆然としていた。
ここはリュカが所有するニワトリ小屋。
縁日で手に入れた2羽のヒヨコを世話するためにマスターハンドに作ってもらったものである。
……が、ヒヨコが見事に雄と雌だったため、成長した後に増えていった。
今では20羽のニワトリの飼い主。
可愛いニワトリを世話しながら、毎日新鮮な卵も収穫できる。なんと素晴らしいことか。
ニワトリの世話は楽ではないが、リュカはそんな毎日に充実感を覚えていた。
この日もいつものようにニワトリの世話をするため、友人であるネスとコリンを連れてニワトリ小屋に来ていた。
一羽一羽に挨拶をする中で──数が足りないことに気づいたのである。
「ニワトリなんてどれも一緒じゃないの?」
「全然違うよ!この子はココ次郎、これがココ之助、でこっちがココ左衛門とココナッツ」
「最後だけなんか名前の雰囲気違ったな」
「ココ太郎は僕が最初に縁日で買った子なんだ。ココ美の旦那さんだよ」
「いや誰だよココ美」
「ココ美はこの子!」
リュカは自慢げに一羽の雌鶏を指差す。
「ああそうなんだ……いやよく見分けつくな?」
リュカはニワトリに個体識別のための印など何もつけていない。
完全に、見た目だけで、全てのニワトリを判別しているのである。
「ほんとに居ない?」
「うん、数えても1羽足りない。しっかりチェックしたけどやっぱりココ太郎だけいない」
「……オレ、ニワトリはちょっと苦手なんだよなー……」
コリンは苦い顔でニワトリたちを眺める。
ニワトリを見ていると、何もしていないのに大群に襲われて気絶した嫌な思い出が蘇るのだ。
……何もしていない。いや、ちょっとうっかり、不注意でふんづけたとか、そういうことはあった……かもしれないけれど。何もしていない。
そんな苦手意識を持ちながらもここに来たのは、単純にリュカが大切な友人だから手伝いたかったから。ただそれだけである。
「そういえば、二人は超能力で動物と話が出来るんじゃないの?」
コリンの問いかけに、リュカとネスは「うーん」と首を捻る。
「この子たちの声、なんだか上手く聞き取れないんだよね。
常にノイズがかかってるような……」
「うん。その中からご飯、とか眠い、とかコケコッコーとか単語がかろうじて聞き取れるくらいで……
ココ太郎に関係しそうなことも、特に何も言ってないな……」
動物にも会話がしやすいもの、そうでないものがいるらしい。
「みんなにもココ太郎知らないか聞いてみよう!」
お世話は中断。
大事なニワトリの大捜索が始まった。
「というわけで容疑者の皆さんです」
「「誰が!!!容疑者だ!!!」」
ネスに集められたのはファイター屈指の大食い達。
ロイ、デデデ、ヨッシー、ワリオ、そしてカービィの5人である。
「そもそも俺なんもしてねーのにニワトリに追いかけ回されて以来ニワトリは苦手なんだよ!
でも鶏肉は大好きなのでありがたく頂いてますけど!!」
「ロイ兄ちゃん同志〜〜」
「いくら腹が減っててもリュカの大事なペットをどうこうしたりせんわ!」
「ボクもお肉よりはフルーツの方が好きなので〜」
「あ?俺様は既に調理された料理しか興味無いが?」
「ボクもさすがにニワトリそのままは食べなーい!」
大食いだから、と事情聴取のために集めてみたが、どうやら違うらしい。
皆、大食いなりにそれぞれ誇りを持っているらしく、流石にニワトリを丸々どうにかする……なんていうことはなさそうだった。
「ま……まさか……」
後方から震えた声が聞こえる。
声の主はアイク。この5人ほどではないが、年齢相応によく食べる。
そして何よりも肉料理を好んでいる。
「……俺はさっき、親子丼を食べたんだが……まさかそれが……?」
「いや、そんなことないでしょ……(多分)」
「う……うわあぁぁーーっ!!」
「アイクさーーん!?!?」
……行ってしまった。止める暇もないほど物凄いスピードだった。
ネスはやれやれ、とため息をつく。
「リンク兄ちゃんに聞いてみよう、ニワトリがそのまま持ち込まれたかどうか……」
「そうだね……」
「え?ニワトリ?」
昼食の仕込みのためにキッチンにいたリンクは、話を聞いて首を傾げる。
「うん、今朝そのままキッチンに持ち込まれたとかないかなーって」
「ないない!うちで出してる食材の殆どは農家さんや畜産会社さんから直接卸して貰ってるものだよ。どうしても足りない時だけ買い出しに行くけど……ニワトリをそのままなんて!」
そのままの動物は下処理がとても大変なため、冒険中でもない限り取り扱いたくない……とリンクは言う。
それもそうだと頷くコリン。勇者は食事も大変なのである。
「だから、アイクさんが食べた親子丼も絶対違うし、調理されたなんてことはないから安心して。
……少なくとも、キッチン周りでは、だけど……」
「どういうこと?」
「キッチンではニワトリを見てないけど、他に誰かがリュカのニワトリを見つけて、気づかずに……っていう可能性は……」
「!」
「ごめんね、悲しませるつもりはないんだけど。……あくまで、可能性としてあるかもしれないって話」
リュカはいっそう不安になってしまった。
ここには多数のファイターが住んでいる。
リュカがニワトリを飼育していることは多くのファイターが知っている事だが──興味のないファイターからすれば、ニワトリ=リュカのもの、とは、思わないかもしれない。
そんな誰かがニワトリを見つけていたら……
そんなリュカの不安を感じとって、ネスは「大丈夫だよ」と元気づける。
「まだそんなに時間も経ってない。もっとたくさんの人に話を聞こうよ。きっと見つかるから!」
「…………うん!」
優しい言葉にリュカは希望を取り戻した。
絶対まだどこかにいる。大丈夫。絶対に見つけてみせる……