短編


「それじゃあ、じっとしててくださいね」

「おう」

1ミリ単位で細かく目盛りが刻まれた柱に、ロイはピッタリと背中をくっつけている。


一週間に一度の恒例行事。

この日のためにロイは毎日牛乳を飲み、カルシウムのサプリメントを欠かさず飲み、小魚を食べまくっているのだ。


「え~と……本……本は……っと」

「……これがあるよ」

「あ、ありがとうございます」

ルイージからかなり分厚い本を受け取って、レッドはロイの頭の上に軽く添えようとした。

……そう、添えるだけ。

それだけでよかったのに……


「いたぁ!」

ゴッ、と鈍い音を立てて、重たい本がロイの頭部を直撃。

「あ、すみません手が滑りました」

「レッドてめぇわざとだろ! そんな分厚い本で頭殴るんじゃねぇ!
たんこぶ出来たらどーすんだ! つーか縮む!」

「はいはい、わかりましたからじっとしててくださいねー」

「いたたた!そんな押さえつけんなっ!」

「162.5ですねー」

「んなわけねーだろ!ちゃんと測りやがれバカ野郎!」

「あ~もう……うるさいなぁ……」

そんな耳元で喚かないでくださいよ、とため息をつきながら、レッドはロイの頭に本を添え目盛りを読む。


「え~と……163.3ですね」

「1ミリしか伸びてねぇじゃねぇか!」

「そんなすぐには伸びませんって」

「だっておかしいだろ!ただ今成長期真っ只中のハズだろ!?」

「そんなこと言ったってですね……一週間じゃ大して変わりませんよ。1ミリ伸びてるだけでもむしろ良い方では?」

「さすが氷竜、既に成長スピード遅れてきてるな」

「いやだあぁ!」


ピカチュウの言葉に頭を抱えゴロゴロと床を転がっていると、そこへトキやマルス達がやって来た。

「……ロイは何やってんだ?」

「挫折してんだよ」

「挫折?」

「チビなロイさんの身長を測ってたんです」

「チビは余計だ!」

だいたいレッドの方がチビだろ、とロイはもう半泣き状態。


「お前らは乱闘終わりか」

「ああ、俺とアイクとマルスでな。
やっぱ頑張ってもマルスにゃ勝てねーけど」

「まぁしょーがねーよ、マルス以上の実力者なんかほとんどチートみてぇなもんだからな」

「僕ズルなんかしてないよ……」

今度一緒に戦おうぜ、とピカチュウとマルスが約束していると、更にファイターが集まってくる。


「おう、みんな集まってんな」

「おっ、マリオ!それにリンクとピットか」

ピットは視界にルイージの姿を捉えるなり、強力な磁石のように背中から抱きついて離れない。

「ルイージさぁ~ん!捜しましたよぉ~!」

「ちょ……ピット暑苦しいよ……」

「嫌です!何と言われようと離れません!」

抱きつきはピットなりのスキンシップ。

ルイージはやれやれ、とため息をつき、ピットに抱きつかれたまま読書を再開する。

ロイは牛乳を1リットルのパックのままがぶ飲みすると、トキやマルス、はたまたアイクを羨ましそうに見つめた。


「……みんないいなぁ……」

「ん?」

「身長高くて」

ロイの一言にマリオはちょっぴり機嫌が悪くなる。

「おい、それは俺に対する嫌がらせか?嫌みか?」

「いや……そういうわけじゃ」

「……ロイは163cmだったね」

「163.3ですっ!」

「……はいはい」

3ミリくらいの誤差気にしなくても良いじゃん……とルイージは呆れ顔。

ロイには1ミリでも誤差が許せないらしい。気にしすぎだ。


「なぁ、せっかくだからみんな測ってみようか」

「お、いいな」

「え……」

みんなが賛成する中、リンクだけはどこかおどおどした様子。


「じゃあまず俺ー!」

最初に元気よく手を挙げたのはトキ。


「えっと……177.2ですね」

「え~……180ねーのかぁ……」

「170なくてヘコんでる人もいるんだから愚痴言うなよ」

「あの、僕も測りたい!」

そう言って、ピットはようやくルイージから離れ柱の前に立った。

解放されたルイージはどことなくホッとした表情だ。


「羽根が邪魔だなぁ」

「な 何とか頑張って……(汗)」


「160.2だよ」

「僕も測ろうかな」

今度はマルスが柱の前に立ち、アイクがその身長を測る。

「マルスは……178.3cmだ」

「結構高いんですね、先輩」

「頭が良くて強くてイケメンで優しくて身長もあって王子様と完璧すぎるなマルス」

「そんなことないよ……」

マルスは謙遜しているが、どこにも欠点が見当たらないのは事実だ。


「アイクも測ってみる?」

「……ぬぅ」

レッドが測ろうとしても、その身長差に背伸びしても無理がある。

「ちょ……ちょっと無理が……(汗)」

「じゃあ僕が測るよ」

そんなわけでマルスが代わることに。


「180.6cmだって」

「アイクでけぇな」

「さすがゴリラ」

「誰がゴリラだ!」

「こうして見ると確かにロイ小さいな」

「…………」

周りとの身長差に思わず言葉を失うロイであった。


「……ん?」

ふと、ピットはさっきからリンクがやたら目線を逸らそうとしているのが気にかかった。

「…………」

「リンクさん?」

「はは~ん……なるほどな」

マリオは意地悪そうな顔でニヤけると、リンクの腕をぐいっと引っ張った。

「リンクちょっと立て、測るから」

「い、嫌です」

「いいからほら」

無理矢理、目盛りのついた柱の前に立たされ、リンクは何とか高さを稼ごうと身体の筋をあらん限りに伸ばす。

けれど、そんなものじゃ身長に差は出ない。


「163.4だね」

「リンク、意外と背低かったんだね……」

「だから測るの嫌だったのに……」

リンクは隅っこにしゃがんで泣き出してしまった。

完全無欠に見えるリンクだが、身長の低さをいじられることと、台所に出る黒いアレだけは何よりも嫌いなのだ。


「俺も俺もー!」

そう言って、マリオも帽子を脱いで柱の前へ。

「ルイージ測ってくれー!」

「…………」

「そ…そんな面倒臭そうな顔すんなよ……」

ルイージはやれやれ、と立ち上がると、側にあった広辞苑並みのぶ厚い辞書を手に取った。

「えっ……ちょ……ルイージ待って待っ……
いったあぁぁ!」

ロイの時のように、辞書がマリオの頭を直撃した。

「あは、ルイージさん僕とおんなじ事してる」

「レッドてめーやっぱりわざとだったんじゃねぇか!」


「……155.5cmだよ」

「5ばっかだな」

「ルイージこれ縮んだよね
今ので絶対10cmくらい縮んだよね」

「……そんなわけあるか」

「やーいやーいチビ助~」

「う る せ え」

マリオはピカチュウを睨みつけながら、頭をさすり牛乳をがぶ飲みした。

それ俺の牛乳だしそんな事してももう伸びないだろうに、とロイは心の中で呟く。


「ルイージも測るか?」

「……うん」

「……え~と、166.8cmですね」

「……そんなにあったんだ」

そう言うルイージの横には、どことなく悔しそうな兄の姿。

そしてそのまた横には、マルス達を見て羨ましそうに頬を膨らますロイの姿。


「毎日牛乳飲んでるのになぁ……
それに、父さんも母さんも長身なのに……」

「しょーがねーだろ氷竜なんだから」

「僕はもう伸びそうにないな……」

「マルスはそのくらいが丁度いいよ」

「アイクもな」

「……むぅ……」

「これ以上伸びたらホントにキングコングになっちまうからな」

「だから俺を毎回ゴリラ扱いするのはやめろ」

アイクの周りに笑いが広がる。


「ぶっちゃけロイはそのくらいがベストだって」

「えぇ~……」

「何か背の高いロイってロイらしくないもん」

「何だとぉ!?」

「そのくらいの身長差があった方が……何か兄弟っぽく見えて良いと思うぜ」

トキの言葉に、ふとマルスとロイは顔を見合わせた。

「兄弟、かぁ」

「……まぁ、悪い気はしないですけど」

「おい、俺だってロイの兄貴分だぞ」

「人それぞれ最適な身長ってのがあるんだよ、やっぱ」

「確かに……ピット君が長身ってのも想像つかないし」

「そぉ?」

「……スマートで長身なマリオも気色悪いね」

「気色悪いって何だ!」

「あはは、確かに」

「納得すんな!」



「(……確かに……そんな気にすることないのかもな)」

ロイは皆を見つめていてそう思った。

ただでさえいろんな種族、いろんな仲間がいるのに、身長の低さなんてコンプレックスに感じることもないのだと。

「(それに、アイク先輩やマルス先輩のこと……見上げるのも好きだしな)」

「? 僕の顔に何かついてる?」

「い いえっ!」

「マルスがあんまり美形だから見とれてたんだよな」

「ち…違いますよ!」

「あはははっ」





その後、ロイはあまり頻繁に身長を測ろうとはしなくなった。

それは『今のままのロイがいい』と言われたから。


そして……


大好きな憧れの先輩達を、これからも見上げていたいから……
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