Best friend
数十分後。
「……うん」
ピットは立ち上がって、翼をバサバサと動かした。
ほんの少し違和感はあれど、痛みはもう消え去った。
「リンクさん、ルイージさん!お待たせしました!
もう大丈夫です!」
「……いつものピットに戻った」
「大丈夫?無理してない?」
「問題ありません!いつまでも落ち込んでいられませんから!」
心強い友人を2人得たことで、メンタルはすっかり回復したようだった。
「残りのミッション、頑張りましょう!」
「そうだね、あと2時間くらいで日も暮れる」
「……あと少しだけだ、早く終わらせよう」
3人はミッションのため再び歩き出す。
「見てください!美味しそうなキノコがありますよ!」
「それ、毒キノコ……」
「えぇっ!?」
「食べたら一日……痺れが止まらなくなる……」
「こ、怖いですね…… あ、これは?シンプルな色ですけど」
「それは……半日トイレから出られなくなる……」
「絶対やめましょう!!」
「一応これも撮影しとこうか……」
食い意地の張ったピットと物知りなルイージ。
リンクはキノコと一緒に、そんな二人も写真に収める。
気づけば撮影する写真は対象物だけでなく、みんなで一緒に映るものが増えていた。
そして……
「終わりましたー!」
最後の「常に虹の見える谷」の写真を撮って、マスターハンドからの以来は全て終了した。
「『ミッションコンプリートおめでとう!』……じゃないよ、全く……」
端末に表示されたその言葉がルイージを苛立たせる。
達成感どころかイライラするのは相手がマスターハンドだからだろう。全く、大事な読書の時間を奪いやがって。
「頼まれたものもそうでないものもいっぱい撮ったね……」
「……まぁ、これだけあれば、十分でしょ……」
「帰りましょ!木の実だけじゃお腹すきましたよー」
この森に来たばかりの時はどうなる事かと思ったが。
森を抜けて家路に向かう彼らの顔は、清々しいほどの笑顔だった。
数日後……
「あれ、水止まんない……」
キッチンからロイの困ったような声が聞こえる。
「なんか蛇口から水がずっとポタポタしてて止まらないんだけどー!」
珍しくリビングで本を読んでいたルイージはパタンと本を閉じて、キッチンの様子を見に行った。
ロイが大声で症状を言ってくれたおかげで、なんとなくの予想はつく。
「……僕が見る」
「ルイージさん!?」
キッチン横にある小さな物置から工具を持ってきて、手馴れた様子で蛇口の修理をする。
ロイが横でポカンとしたまま様子を見ているが、気にしない。
部品の劣化で起こっていた水漏れのため、部品交換で簡単に直った。
「ほぇー……すごい……」
「……一応、本職だし……」
「そっか、ルイージさんもマリオさんも、こういう水周り関係のお仕事してたんだっけ……」
「……僕は…マリオの補佐みたいなものだったから……最低限のことしか出来ないけど……」
「それでもすっごく助かりました!ありがとうございます!」
「……あ……うん……」
自分では大したことないと思っていることで褒められると、なんだか無性に照れる。
そんな時に、マリオがひょっこり顔を出した。
「なんか水がどーのこーの聞こえたんだけど」
「あぁマリオさん!もうルイージさんが直してくれましたよ」
「ルイージが?」
工具を片付けるルイージを見て、驚いたな、とマリオは目を丸くしている。
「お前が自主的に動くなんて珍しいな?」
「……ん。まぁ、これくらいはね……」
「あ、いた! ルイージさーん!」
後ろから元気な声で天使が走ってくる。
……このまま抱きついてくるのは予測済み。
飛びつこうとジャンプした瞬間にサッと体を捻ると、ピットはそのまま顔から床に激突した。
「いったーい!……避けないでくださいよー!」
「……暑苦しい……」
「それでも抱きついてやりますからー!えいっ!」
「やれやれ……」
結局抱きつかれた。あの日からもう毎日のことなのでいい加減慣れたが。
「まったく、本当にピット君はくっつくのが好きなんだから」
ピットの後ろからリンクもやってきた。どうやら二人一緒にキッチンへ向かっていたらしい。
「ルイージさん、もし時間あったら今から僕たちと買い出しを手伝ってもらいたいんですけど……」
「……わかった」
ピットにくっつかれたまま、ルイージはリンクの後をついていく。
そんな3人の背中を、マリオとロイはじっと眺めていた。
「……なんか、彼ら最近仲良いですよね」
「そうだな」
「マリオさん凄い嬉しそうじゃないですか」
「別に~?
お前こそ最近ピットが引っ付いてこなくて寂しいんじゃねーの?」
「そ……そんな事ないですよ?」
図星である。
ロイはピットが彼らと仲良くなったことに少し嫉妬していたし、マリオはルイージに友人ができたことが何より嬉しかった。
その日の夜。
「やぁやぁ君たち!先日はありがとうねー!
予想以上にデータがたくさん集まって本当に助かったよ」
ピット、リンク、ルイージが談笑している所へマスターハンドがやって来た。
「……ピット、翼は大丈夫?あんなモンスターがいるとは思わなくて……本当にすまなかったね」
「大丈夫ですよ!天使は頑丈かつ傷の治りが爆速なので!」
「そっか、それならいいんだけど、その……」
「あ、僕のメンタル心配してます?もう吹っ切れたから、それこそ心配ないですよ」
ピットはニッコリ笑って答える。無理している様子もなく、マスターハンドはホッと一安心した。
「それにしても良かったねー君たち!新しい友達が出来て!」
「……その事ですけど、マスター……」
「んー?」
「……貴方、全部わかってて仕組みましたね?」
「「え?」」
その言葉にピットとルイージの声がハモり、揃ってリンクの方を見る。
「ピット君が僕とルイージさんのことを気にかけてるのを知って……きっかけを作ろうと、森の調査を頼んだんでしょう?」
「そうなんですか!?」
「さてさて、なんのことかな~」
マスターは何も答えず、上機嫌のまま去っていく。
それ自体がもう、答えのようなものだ。
「……してやられたな……」
「全部マスターの作戦通りってこと……?」
あの場に自分たちが集まることから、全てがマスターハンドの思惑通り。
……本当に、食えない神だ。
だけど。
「……きっかけはどうあれ、僕は君たちと仲良くなれた。それは偽りようのない事実だよ」
「……うん。この気持ちに嘘は無い……」
「リンクさん……ルイージさん……」
仕組まれたことだからといって、その後がどうなるかは神にだってわからない。
彼らが友人になれたのは、紛れもなく彼らが“そう望んだ”からに過ぎない。
「今後もよろしくね、ピット君」
「……よろしく」
「はい!よろしくお願いします!」
──これは後に「仲良し3人組」と呼ばれる彼らの、始まりの物語。
ーーーENDーーー