Best friend
「ピット君お待たせ、モモンの実だよ」
「リンクさん、ルイージさん……」
2人の留守中に何かあったら、と心配だったが、何事も無かったようでほっと胸を撫で下ろす。
「ありがとうございます……迷惑かけて、ごめんなさい」
木の実を貰ったピットは申し訳なさそうに何度も謝った。
そんなピットを挟むようにしてリンクとルイージが座り、みんなでモモンの実を食べる。
「……ん、美味しい」
「瑞々しいですねー、ポケモンにも人にも人気なのわかります」
「……前にマリオが爆食いして……お腹壊してた……」
「そりゃ食べすぎたら何だってそうなりますよねぇ」
「小さいから……どんどん食べちゃってやめどきがわからなくなる、って……」
「あー、それはあるかもですね!僕たちも気をつけないと」
ピットは会話に加わることもなく、黙々と木の実を食べている。
……元気がないのは、相変わらず。
「ピット君、どう?痛みはやわらぎそう?」
「……はい、多分大丈夫です……ごめんなさい、僕……」
謝った途端、ルイージがため息をつく。
「……さっきから謝ってばっかり。……そういうの、良くない」
「あ……」
ルイージを不快にさせていたのでは、と不安になる。
だが、そうではない。
「ピットは何も悪くない。僕だって迷惑だと思ってない。
……謝る必要なんか、ない」
「……でもルイージさん、僕と話すのも……面倒そうにしてたから……」
「……傷ついてる人を放っておくような薄情者ではないつもりだけど。
……それに、君たちと話すの……もう面倒だとは思ってない」
それを聞いて、ピットだけでなくリンクも嬉しそうな顔をする。
「……ありがとうございます。木の実、すっごく美味しいです」
謝られるよりお礼を言われる方がずっとがいい。
ルイージは満足そうに頷いた。
「……よく熟れたのを採ってきたから。……見分け方は……リンクが教えてくれた」
「食材の見分け方には自信があるからね。でも、ルイージさんがいなかったら採ってくるのは無理だったよ」
「お2人で協力して採ってきてくれたんですね。僕のために……本当にありがとうございます」
「いいよ、僕たちもお腹すいてたし」
「……リンク、すごいお腹鳴ってた」
「わー!それは言わないでください!」
リンクの顔が耳まで赤くなる。自分のイメージを大事にしていたのだろうか。
ピットもまた笑顔を見せるようになり、ルイージも一安心した。
「僕、ちょっと周りを見回ってきますね」
木の実をたらふく食べたあと、リンクは周囲の見回りに出た。
先ほどのモンスターが起きているかもしれないし、他に脅威が潜んでいるかもしれない。
ピットが回復するまで、敵対生物に出くわす訳にはいかない。
「……少し、痛みが引いてきました」
「そう、それはよかった」
食事や温泉で傷や痛みを抑えられるとは、なんとも羨ましいものである。
しかし、身体的な痛みは消えても、心の痛みまでは消せない。
「……さっきのモンスターに翼を掴まれた時……すごく嫌なこと、思い出しちゃって……」
ピットはあの時、何があったのかを話し始めた。
依頼の写真を撮った後、ピットは後ろから迫るモンスターに気づかずに捕まってしまった。
ただ掴まれただけなら反撃もできた。大きいだけの敵に臆するようでは、親衛隊長なんて務まらない。
けれど、“掴まれた場所”が問題だった。
ピットにとって翼は一番の弱点だった。
それは天使としてではなく、ピット個人としての弱点。
過去の出来事に起因するもの。
「……パルテナ様にお仕えする前……僕、天空界では落ちこぼれだったから……いろいろと嫌なことされたんです」
「………………」
「……本当に、思い出したくもない嫌なことばっかり……
あの時も……さっきみたいに……翼を……」
そこまで聞いて、ルイージは隠し持っていたモモンの実をピットの口に突っ込んだ。
「むぐっ!?」
「……いいよ、言わなくて…… 忘れたいんでしょ、そんな記憶……
……だから、わざと明るく振舞ってたんでしょ……?」
「……ルイージさんは鋭いですね」
モモンの実を飲み込んで、参ったな…とピットは苦笑する。
「僕、本当はこんな感じなんですよ。根暗で内気で落ちこぼれ。……それが、僕の本質です」
陰気で、口数少なく、笑うことすらなく。
ルイージは自分と似たそんな彼の本質を見抜いていた。
──落ちこぼれ故に嫌われ者だった僕は、生きる事に希望を見い出せず。
……パルテナ様が僕を救い出してくださらなかったら、僕の命は長くなかったかもしれない。
彼女によって命を救われた僕は、彼女に報いるために親衛隊に入ることを決意した。
……そして、自らの内気な性格を無理やり捻じ曲げて、「人に気に入られる」であろう人格を作りあげた。
明るく元気に振舞っていれば、僕が飛べなくても落ちこぼれでも、誰か仲良くしてくれると……そう信じて。
「……傷つけられても、それでも誰かと親しくなりたい……そう思ったんだ?」
「……はい。こんな僕でも……友達が欲しかったんです」
「そこまでするのか」、とルイージは思った。
似たもの同士でありながら、自分とは考え方が正反対だった。
「………………」
……ピットが自分のことを話してくれたからだろうか。
ルイージも、何となく自分のことを話す気になった。
「……僕だって昔は大事な友達がいた。こんな性格でもなかった」
ふと、ピットはマリオが言っていたことを思い出す。
マリオ程ではないが、かつてはルイージも明るい性格だったということを。
「……でもその友達が嫌がらせされるようになって……僕が庇った。大事な友達だったから……僕が代わりになればそれでいいって、本気で思った。
……でも友達は、僕が身代わりになったあと……僕を見捨てた」
「!」
「自分に嫌がらせしてた人達に寝返って……一緒になって嫌がらせしてきたんだよ」
悲しむでもなく、ただ呆れたように語る。
吹っ切れた今となってはどうでもいい相手だけど。
当時の自分は、深く傷ついた。
「……自分が嫌な目に遭ってる時、自分よりも弱い立場の人が現れたら……今までのストレスをぶつけたくなるのもわからなくはない……
……だけど……それをされたのが、友達だっていうのが……本当に悲しかった」
もしかしたら最初から、友達だと思ってたのは僕だけだったのかもしれない。
彼にとって僕は、自分を助けてくれただけのただの駒だったのかもしれない。
そう思った。思ってしまった。だから……
「……僕はそれ以来……人を信じなくなった。
……どうせ裏切られるなら……最初から1人の方がいい……」
それが、今まで他人を遠ざけていた理由。
「……そう、だったんですね」
話を聞いたピットはぼろぼろ泣いていた。
「!? なんで泣いて……」
「……ごめんなさい、僕、感情移入しやすいから……」
「……僕の過去なんて、ピットに比べたら……大したことないだろうに……」
「そんなことありませんよ。人それぞれ……何が嫌で何が辛いかなんて違うんですから……比べられるものじゃないです」
「……優しいんだね、ピットは」
……ああ、あの頃の友達があんな奴じゃなくてこの子だったら。
きっと、何もかも全然違っていたんだろうな。
ふと、そんなことを考えた。
……でも、それは……今からだって、遅くはない。
「……君は、僕と仲良くなりたいって言ってたけど」
「あ……はい」
「……なんで僕なんかと……仲良くなりたいと思ったの……?」
「……えーとですね……」
これを言ったらバカにされちゃうかもですけど、とピットは恥ずかしそうな顔をする。
「前にマリオさんに頼まれた本を返しに行ったことがあるでしょう?」
「……うん」
「……その時に、なんだか仲良くなれそうだなって……直感で思ったんです」
「直感……」
「天使はそういう、目に見えないものを感じる力が強いんです」
「……でも、なんで僕……?君たちよりずっと大人なのに」
「あはは、年齢で言ったら僕が一番年上ですよ」
「……それは……そうかも、だけど」
「友達になるのに年齢とか国とか種族とか、そんなの関係ないと思います。この世界では尚更、ね」
……ふと、マスターハンドが言っていたことを思い出した。
マスターハンドは強者同士の戦いを楽しむためにファイターを呼び寄せたが、それと同じくらい、ファイター同士の交流を大事にして欲しい、と言っていた。
彼が言っていたのは、こういうことだ。
人間とか人外とか、年齢とか出身とか、そんなものは些細なことなのだ。
「そうそう、ロイの時もそうだったんですよ、直感」
「……そっか。じゃあその直感ってやつ……あながち馬鹿にできないかもしれないな……」
「え」
「……なりたいんでしょ、友達。
……まぁ、友達って……もう何したらいいかわかんないんだけど」
「……! ありがとうございます!」
ピットは満面の笑みを見せた。
はしゃぎ回る子犬のように、隠しきれない喜びが滲み出ている。
「……さて」
ルイージはちらりと一本の木に視線を向ける。
「……リンク、ずっと話聞いてたでしょ」
木陰に隠れていた人影がビクリと跳ねて、申し訳なさそうに顔を覗かせた。
「え!? そうなんですか!?」
「……ごめんなさい、話が気になって見回りどころじゃなくて……」
「……いいよ。友達、だし」
「!」
リンクは驚いて目を丸くする。
「……君たちは、信用してもいいって思ったから」
「……ありがとうございます、ルイージさん」
「リンクさん、僕は……」
「もちろん、ピット君も友達だよ」
「……えへへ」
ピットは照れくさそうに笑う。
……仲良くなりたいという、夢が叶った。