若き獅子
そうしているうちに、ロイはクレイグの元へたどり着いた。
辺りはすっかり炎に包まれている。
「クレイグ!」
「……ようやく来たか……死に損ないの災厄の獅子め……」
「うるせぇ!俺はもう負けねぇ!」
ロイはそう言うと、ブレスで燃え盛る炎をかき消した。
「お前がいくら燃やそうと俺が消してやる!
氷竜は火竜の直接攻撃には弱くても、燃えてる炎を消すのは容易いからな」
「……この炎に対した意味などない。貴様を呼び寄せるためのただの目印だ」
「……その為にどれだけの民家が犠牲になったと思ってんだ……」
ロイは地面に降りると、かがんでエリウッドを背中から降ろした。
「父さんは下がってて……ここは俺の戦いだ」
「……うん、わかった」
「必要ない。お前も、お前の父親もこの私が消し炭にしてくれる……」
「そうはさせねぇ!
俺は母さんから受け継いだ力で……お前を倒す!」
「……面白い……やれるものならやってみろ!」
見た目も、属性も、全く対照的な二頭の竜。
そんな彼らの間に緊張した空気が走る。
「行くぞ!」
「来い!手加減はしねぇからな!」
こうして、ロイとクレイグ、二頭の竜のプライドと命運をかけた戦いが始まった……
「ロケットずつきっ!」
「ピカチュウ!俺の獲物に手を出すな!」
戦い慣れしたファイターの活躍もあり、ラグナス軍の戦力は徐々に減っていた。
「……だいぶ片付いたね……」
「ああ……」
「お前ら最後まで気を抜くなよ!ここまで戦って残ってる奴らってのは、かなりの腕を持ってるってことだからな!」
「ああ!」
「強敵上等!」
「……あんまり調子に乗るなよ、マリオ……」
「ウォルト、怪我は大丈夫?」
「うん……平気だよ。
弓も引けない役立たずになっちゃったけど……」
リリーナはその天才たる魔道の力で、ほとんど一人で敵を倒してしまった。
ウォルトは戦えないため身を隠していたが、怪我のせいで力になれないことをもどかしく思っていた。
「こっちに向かってくる敵はもういないわ……
それより、ロイに封印の剣を届けたいんだけど……」
「封印の剣を?」
「うん。幸い、剣はお城に置いていたから相手にも奪われなかったんでしょう?それに、ラグナスを倒すなら剣で戦った方がいいと思うの。
それに、ロイはまだ竜の力を完全に使いこなせてるわけじゃないわ……
小さい頃からおじさま達に習ってきた剣術の方が、有利に戦えるはずよ」
「……そっか……」
ウォルトはほんの少し悩むと、やがて意を決したように城の中へと走っていった。
「ウォルト!?」
「僕が封印の剣をロイに届ける!少しでも力になりたいんだ!」
「……わかった、気をつけて!」
クレイグとロイの戦いは凄まじい轟音や爆発の嵐になっていた。
「……なかなかやるじゃないか」
「だから言ったろ、さっきとは違うって!」
「だが経験の差は歴然だ!」
「空を飛べる分、俺には勝機がある!」
「……若造の癖にたわけたことを……!」
どちらも退かぬ一進一退の攻防。
エリウッドは少し離れたところから戦いの様子を見ていた。
「この程度、私には効かん……!」
「……さすが五千年生きてきただけはあるな。
お前を見てると……何だかアイツと戦ってるみたいだ」
ロイはかつての動乱の最中に神殿で戦った、クレイグに似た火竜のことを思い出していた。
「何故だ……実力差があるとわかりながら、何故貴様は退かぬのだ?」
「退けねぇ理由があるからだ!
俺はみんなを守んなきゃいけねぇ!
家族も、友達も、大切な人もみんな……俺が退いたら、みんな笑顔を失っちまう!
だから俺はみんなの笑顔を守るために戦うんだ!」
「……笑顔……だと……」
「隙ありだ!」
「!」
ほんの僅かな油断を見逃さず、ロイは懐に入り込み強烈な突進攻撃を食らわせた。
「ぐぁっ……」
「立て直す隙はやらねぇぞ!」
ロイは勢いよく頭突きをした。
だが、相手の硬い皮膚に阻まれ満足なダメージは与えられない。
それでも突進攻撃が効いたのか、立ち上がる時には少しよろけていた。
「ぐ……バカな……この私が……
こんな……子供に……!」
「子供だと甘く見すぎたな」
「ま……まだ……まだ私は……」
「……もう諦めろ……
……今に全てを終わらせてやる……」
ロイはそう言うと空に舞い上がり、最大級のパワーを込めてブレスを放った。
「ぐあぁぁっ……!」
すべてを凍らせるような凍てつく冷気。
辺り一帯を包む凄まじい音と砂埃が収まってくると、やがてクレイグは力なく倒れ込んだ。
そして姿さえも、赤紫の髪の人間に戻ってしまった。
もう戦う力など、どこにも残っていない。
「……やったのかい?」
「うん。
まだ息はあるけど……大丈夫、暫くは動けないと思うよ」
エリウッドはロイの傍に歩み寄ると、立ち上がることも出来ないクレイグを見つめた。
ふと、その視界に何かを捉える。
「……? ねぇロイ、これ……」
エリウッドが見つけたのは、クレイグのすぐそばに転がる小さな紺碧の玉。
ロイが元の姿に戻るため、ずっと探していたものだ。
「……竜玉……お前が持ってたんだな。
……返してもらうぞ」
ロイは意識のないクレイグに向かってそう呟いた。
「お前らみたいな純血のマムクートと違って、俺は人間の姿がホントの姿なんだよ。
いつまでも竜のままでいるのは窮屈なんだ」
ロイは鼻先でちょんと竜玉に触れる。
途端、身体中が光り輝き、ロイは一瞬にして人間の姿へと戻った。
「なんか久々な気がするな、人間の姿」
ロイは伸びをすると、竜玉を首に下げ、大切そうに握りしめた。
「……あとは敵将……ラグナスだけだ」
その時……
「ロイ!」
空の上から声がする。
振り向けば、ワープスターに乗ったカービィの隣にウォルトがいた。
「ウォルト……!?カービィ!?」
「ロイ、あの竜に勝ったんだね!」
「ああ……それよりどうしたんだ?」
ウォルトは大事そうに抱えていた封印の剣をロイに手渡した。
「これを届けに来たんだ。
まだ使いこなせてない竜の力よりも、剣術の方が有利に戦えるはずだって……リリーナが言ってさ 」
「リリーナが?」
「うん」
「偶然ボクが近くにいたから、ワープスターでひとっ飛び!って訳だよ!」
「速すぎて死ぬかと思ったよ……」
「そっか……わざわざありがとな」
「怪我をして戦えなくても僕……少しは役に立てたかな……」
ロイは子供っぽく笑うと、ウォルトの頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「わあぁ! ちょっ……ロイ……!」
「……サンキュー、ウォルト!
これでラグナスの野郎ブッ倒すよ」
「(……年下のロイに頭撫でられるなんて変な感じだけど……)」
ウォルトはボサボサになった髪を撫でつけながら、恥ずかしそうに顔を赤くした。
「そうと決まればラグナスの野郎を探さないとな……」
ロイは封印の剣を腰から下げ、辺りを見回した。
クレイグを倒し、フェレには少しずつ静寂が戻りつつある。
「俺は……負けるわけにはいかねぇ……」
ロイは強い眼差しでそう呟いた。