若き獅子
「ロイ、今頃お父さん達とゆっくりしてるのかなぁ」
「おいしいもの、いーっぱい食べてるんだろーなぁ~♪」
「カービィお前、そーゆー想像しかできねーのかよ……」
スマッシュシティでは夕飯も食べ終わり、すっかり夜は更けてそれぞれ寝る支度をしている頃だった。
「あ、アイク!チキンちょーだい!」
「む……」
アイクだけは深夜にもかかわらず大量のチキンを食べている。
カービィにそれを狙われて、ちょっぴり不機嫌そうな表情だが。
「それじゃあオレ、もう寝るね~」
「おやすみ!また明日もイナズマサッカーごっこやろーね!」
コリンとトゥーンが部屋に戻り、机に向かっていたルイージはシャーペンを置いてぐっと伸びをする。
「……ふあぁ……」
「さっきからあくびしてばっかだな、ルイージ」
「……ダメだ、スランプで何も書けない……
…………………寝る」
「小説を書くのも大変なんですね」
「おやすみなさい、ルイージさん!」
そんな時……
「みんなあぁ!大変だよおぉぉ!」
突如として現れたマスターハンドの大声で、リビングにいた全員の眠気が吹っ飛んだ。
「……何?これから寝ようって時に……」
「大変なんだってば!」
「だから何が大変なんだよ!?」
「今……エリウッドさんから連絡があって……」
それを聞いて、チキンを貪っていたアイクの手が止まった。
「……ロイに何かあったのか?」
「う うん……
謎の男にロイが連れ去られたらしいんだ……」
「連れ去られた!?」
「相手はロイの竜化能力を知ってて、それを利用してとんでもない事を考えてるんだって……」
「なっ……」
「マジかよ……」
せっかくの帰郷に、そんな大事に巻き込まれてしまっていたなんて……と、深夜のお屋敷がざわざわと騒がしくなる。
「それでエリウッドさん直々に手を貸してほしいって、私たちに救援要請があったんだ!」
「ならすぐ助けに行かなきゃ!」
「待てカービィ!今深夜だぞ!?」
「だけどロイが……!」
「……落ち着け。心配なのは痛いほどわかるが、夜に動くのは危険だ。
ひとまず夜明けを待ち、現地へ向かうファイターを招集しよう」
カービィは納得いかなさそうだったが、ルカリオになだめられて頷いた。
「ロイ……無事でいてね……
ボク達が……助けに行くから……!」
そして次の日の早朝。
まだ日も昇り切らぬうちから、ロイの身を案じたファイター達が食堂に集まっていた。
長い戦いになることに備えて、皆しっかりと朝食をとっている。
「ロイが誘拐されたってのはマジなのか?」
昨夜マスターの話を聞いていなかったピカチュウも噂を聞きつけ、眠いのをこらえてリビングにやって来ていた。
「ああ。これからフェレに向かうところだ」
「その前に朝ごはん食べて、活力つけないと!」
「……そうか……」
いつもはピンと立った耳が、しおれたようにうなだれる。
ピカチュウは悲しそうな顔をしたが、すぐにモヤモヤした気持ちを振り払った。
「……わかった。俺も行く。
ロイは俺の悪友だ……何としてでも助けたい」
その時……
「ボクもいく!」
こっそり話を聞いていたピチューが、走って食堂へとやって来た。
「ピチュー!?」
「ボクもロイにーちゃんたすけたい!」
「ダメだピチュー!
向こうに行けば戦争になる……すっげー危ないんだぞ!」
「…………」
だが、ピチューの瞳は揺るがない。
大好きなロイを助けるために、意地でもついていく……そんな目だ。
「……わかった」
「ピカチュウ!?」
「ピチューは俺が責任持って全力で守る。それでいいだろ」
「ありがとう、おにーちゃん!」
こうして、フェレへ向かうファイターが決まった。
「みんな腹ごしらえはしっかりしたか!?」
「おお!」
「よしフォックス、気合い入れてくぞ!」
「調子に乗って撃墜されるなよ、ファルコ」
意気揚々とやる気を見せるフォックス、そしてファルコ。
「アイク、準備は?」
「万端だ。いつでも出られる」
「僕も出撃準備はできてます!」
「……戦争か……絶対、気は抜けないな……」
「必ずロイを救い出しましょう!」
マルス、アイク、ピット、ルイージ、リンクも身支度を整え準備は万端。
「なんかワクワクしてきたな!」
「緊張感忘れんなよ、トキ」
「戦いか……腕が鳴るな」
「ロイにーちゃん……」
「(ピチューは俺が守んねぇと……)」
「絶対助ける! 絶対に……!」
トキ、マリオ、ファルコン、そしてピチューとピカチュウ、カービィ。
この13人で、ロイを救いに行くことになった。
フェレへの道程は長いため、近くまではグレートフォックスで向かう、ということになった。
戦地へ赴くファイターたちに、クレイジーが檄を飛ばす。
「お前たち気を抜くなよ!これは本当の戦争になる、気を抜いたら終わりだ!
亜空軍との戦いを思い出せ!いいな!」
「「おぉ!」」
「よし、行くぞ!」
かくして、ファイター達を乗せたグレートフォックスは遠く、エレブ大陸に向かってゆっくり飛び立っていった……
その頃……
薄暗く冷たい石造りの建物の地下に、ロイは閉じ込められていた。
手には枷をはめられ、自力では逃げ出すこともできない。
そんなロイの元に、あの男がやって来た。
「……お目覚めか、災厄の獅子」
「……てめぇ……何のつもりだ……」
男は不敵な笑みを浮かべながら、もがくロイに近寄る。
そしておもむろに、紺碧の小さな玉を出して見せた。
それはロイが気絶した時に男が奪った、大切な竜玉。
「……お前が氷竜で……この首飾りにお前の竜の力の全てが封じられていることは知っている……」
「……返せ!それは俺の大事なもんだ!」
「そうはいかんな。お前には我々の野望のため協力してもらわなければならん。
神竜でないのは残念だが……まぁ利用するには十分だ」
「利用……!?」
ロイの頬を冷や汗が流れ落ちる。
「お前の心を壊し魔竜に仕立て上げ……大陸に奇襲をかける。
まずはリキア……お前の故郷フェレから攻め落とそうか」
「! 何だと……!?」
「お前は自我を失い……自分自身でフェレを襲撃するんだ。
仲間も……愛する父親もお前自身が殺すのだ」
「……嫌だ……そんなの絶対に嫌だ!」
「逆らっても無駄だ……」
途端、男の持つ竜玉が濃い紫色のオーラに包まれた。
「!?」
「……お前の心の奥底には闇が詰まっている……
私の力でその闇を引き出すきっかけを与えてやりさえすれば……後は思うがまま……」
その恐ろしいほどの闇の力に、ロイは打ち震えた。
男はジリジリと距離を詰め、そしてーー
竜玉をロイの胸元に押し付けた。
「うわあぁぁぁっ!」
途端、焼けるような熱さと痛みが身体中に走った。
同時に、身体の中に闇の力が流れ込んでくるのがわかった。
「さぁ堕ちろ……闇にすべてを任せるのだ……」
「いや……だ……やめろ……!
うあぁっ…………!」
悲しい、辛い気持ちばかりが心を侵食し、ロイは無意識に涙を流していた。
闇の力は次第にロイの思考をも奪っていく。
やがて身体中を黒いオーラに包まれたロイは、力なく頭を垂れた。
「……さぁ、これで後は手筈が整えば……
いよいよ侵攻開始だ」
再び気を失ってしまったロイをそのままに、男は勝ち誇ったかのような笑い声をあげ、その場を去っていった……
数時間かけて、グレートフォックスはフェレへと到着した。
また、それを着陸させたのは、偶然にも昨日、竜として降り立ったロイが人間の姿に戻ったのと同じ荒地だった。
「着いたの?」
「ああ。到着だ」
「すごーい……何だかボク達の世界とは全然違う……」
全員がぞろぞろとグレートフォックスから出てくると、そこには馬に乗ったランスが待っていた。
「皆さん!こっちです!」
「あなたは……」
「ランスさん!」
「マスターに連絡をくれた方ですね」
「私が城までご案内します。ついてきてください!」
ランスの後ろを歩きながら、皆はその荒れた土地に目を疑った。
半壊や全壊した家々、商店が続き、街を歩く人々は皆、俯き悲しい顔をしている。
「ここがフェレ……?」
「はい……ロイ様の故郷です」
「かなり荒れてる……」
「先日の襲撃を受け……少なからず被害が出てしまいました」
ならず者が一暴れしただけでもこの有様。
本物の戦争になった時は一体どうなってしまうのだろう……
戦争の経験のないファイター達は思わず息を呑んだ。
商店街を抜ける途中、ピチューはふと、あるものを見つけて、一人で駆け出してしまった。
「あっ……ピチュー!?」
「くだもの!おいしそー♪」
ピチューはその店の果物に目を輝かせていた。
「こらピチュー!今はそんな場合じゃない!」
無理矢理マリオに引きずられるピチューを、店主はにこやかに見つめる。
「いいよ、持っておいき……
こんな状態じゃあ暫く商売はできない……果物も腐ってしまうだけだからね」
「ほんと!?ありがとう!」
ピチューはイチゴをもらい、満面の笑みを浮かべた。
「弟がすまない。きっちり金は払うから」
「でも俺たちの世界と通貨が違うだろ」
「あっ」
マリオの指摘にピカチュウはしまった、と固まる。
私が払いますよ、と言ったランスを制して、マルスは身につけていた首飾りを外して店主に渡した。
「お代の代わりに、これを。売ればそれなりのお金になるはずです」
「いやぁ、こんな高そうなもの、受け取れないよ……」
「気にしないでください。誰かのお役に立てていただけるなら本望ですから」
「……見ず知らずの私なんかに……ありがとうねぇ……」
ふと、アイクは周辺の店を見渡し、あることに気づく。
「……この辺りは、あまり被害を受けていないな」
「……ロイ君が、守ってくれたからねぇ」
「ロイが!?」
「お前さん達、ロイ君の知り合いかい?」
「ああ。俺達はロイの仲間だ」
それを聞いて、店主は嬉しそうに微笑んだ。
「そうかい、あのロイ君にこんなにたくさん仲間が出来たのかい……」
「おばさん、ロイにーちゃんのおともだち?」
「そうだよ。小さい頃から良く知ってる。
昨日も来てイチゴを食べてってくれたんだよ」
ロイ兄ちゃんもこのイチゴを食べたのか、とピチューは真っ赤に熟れた手元のイチゴを見つめる。
「その後だったよ、悲劇が起きたのは……」
「……何があったんです?」
店主は昨日起こったことを、全てマルス達に話した。
「……じゃあロイをさらったのは、その黒服の男……」
「魔道書を持っていたから、闇の司祭……といったところかねぇ……
ロイ君、すごく怯えてるように見えたよ」
「……そうですか……」
「私はロイ君に助けられた……
あんた達どうか……どうかロイ君を助けておくれよ……!」
「……はい!」
「もちろんだ。ロイは必ず助ける」
「イチゴ、ありがとう!ボクもぜったい、ロイにーちゃんたすけるからね!」
頼もしい彼らの言葉に、店主はホッと、安心したような笑顔を浮かべた。