若き獅子


そして次の日の夜……


「……時は来たな」


ここはとある古びた小さな城。

その中から、鎧に見を包んだ無数の兵士が、列を成して歩いてくる。

空には竜騎士が舞い、これから起こるであろう戦いを予感させた。


「……ラグナス様、用意が整いました」

「ああ」

列の最後にはあの黒服の男​──
ロイをさらった闇の司祭、『ラグナス』が現れた。


「あれから一日かけて呪術を施し……ヤツの心は完全に闇に支配された。
いかなる手段を以てしても元に戻ることはない……
大陸を支配する魔物として君臨するか……
それとも愛していた仲間に殺されるか……二つに一つだ」


ラグナスは怪しい笑みを浮かべ、黒いマントをなびかせて叫んだ。


「さぁ行け、我らの忠実なる下僕よ!
今こそ我らの……ゼフィール様の野望を叶えるのだ!」


途端、満月を背に大きな飛竜が飛び立った。

鎧のように硬い紫色の鱗に、鋭く凶悪な牙が目立つ。


飛竜は砂ぼこりを巻き上げてラグナスの前に降り立った。


ラグナスの呪術によって心を失い、恐ろしい魔竜へと姿を変えてしまったその竜……

彼こそが、元は心優しい少年であるはずのロイだった。


「さぁ行くぞ!
今こそリキアの主勢力を打ち倒し……やがてはこの世界全てを粛清するのだ!」


兵士達の威勢のいい叫びと共に、ラグナスはフェレに向かって進軍した。

ロイもただラグナスの命令だけを聞き入れ、自らの故郷目指して飛んでいく。


ラグナスはこれから起こる戦いの結末を思い描いては、夜空にこだまする怪しい笑い声を響かせるのだった……








その頃、フェレ城ではまだ何かが起こる気配すらなく、ピットは満天の星空を眺めていた。


「……こんなとこにいたんだ、ピット君」

「リンクさん……ルイージさん……」

たそがれる彼に話しかけたのは、親友であるリンクとルイージ。

二人はピットを間に挟んで、それぞれ腰を下ろした。


「何してたの?天体観測?」

「いえ……ちょっと考え事を」

「……考え事?」

「ロイも……僕とおんなじなんだなぁって……改めて思ったんです」

「同じ?」

「僕も小さい頃から馬鹿にされたり、嫌がらせされることが多くて……ずっと友達が欲しかったんです。
でも誰も仲良くしてくれなくて……凄く凄く寂しかった……
……だけど、ロイやリンクさんやルイージさんと友達になれて……
その時、ホントに嬉しくて……幸せだと思ったんです」

「……そういえばロイのお父さんも言ってたね、仲間や友達がたくさん出来て幸せそうだったって」

「はい」

……ふと、それを聞いていたルイージがぽつりと呟く。

「……僕も……」

「へ?」

「……僕も……ピットとリンクと友達になれて……凄く嬉しいし……幸せだよ」

「ルイージさん……」

リンクもピットも、なんだか恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じた。

だが、すぐに穏やかな笑みがこぼれる。

「僕だって幸せですよ、ルイージさんやピット君と仲良くなれて」

「リンクさんは今ゼルダさんとラブラブでお付き合い出来てるから、そっちの方が幸せでしょ?」

「そ……それはそれ!これはこれだよ!」

「ふふ……」


そうして笑いあっていた最中。


「……う……」

背中に冷たく刺すような悪寒が走り、ピットは震えだした。

同時に感じるのは、渦を巻くような強い悪意、殺意……とにかく負の感情ばかり。


体を震わせ、いかにも様子のおかしいピットにいち早く気づいたのはルイージだった。


「……どうした?ピット……」

「ピット君!?」

「……凄い悪寒が……
……強い……殺意を感じます……」

「殺意……?」

「……一人や二人じゃない……
これは……きっと……」

「…………!」

ルイージとリンクは顔を見合わせた。

何が起ころうとしているのかを瞬時に悟り、リンクは急を伝えるためにエリウッドの元へ、ルイージは怖がるピットを落ち着けるため部屋の中へと連れていく。



ピットの能力によって戦いの幕開けが迫っている事を知った城内は一気に慌ただしくなった。


「マリナス!武器庫を開放して!
マーカスは騎士を集めて迎撃に備えるんだ!」

「私達は町に出向き近隣の村に注意を促します!」

「ああ、頼む!」


「おお……ロイの親父さん、人が変わったみてぇに凛々しいな」

「ピカチュウ早く!」


ファイター達も出来る限り力を貸し、戦支度を手伝った。



「……ピット、大丈夫……?」

「大丈夫です……
相手が徐々に近づいて来てるのがわかりますけど……
……怖がってなんかいられません」

ピットは神弓を手に立ち上がった。

「……冥界女王メデューサを二度打ち倒した、パルテナ親衛隊隊長の力……見せてやりますよ!」

「……うん。
…………絶対、生き延びて……この戦いに勝とう」








そして……


「エリウッド様!
竜騎士の一軍がフェレ城に向かって接近しています!」

「……来たか……!」


夜が更けきる頃、ラグナスの軍がフェレに攻め入ってきたとの連絡が入った。


エリウッドや側近の家臣もしっかりと武装し、城の屋上部分からじっと空を見つめる。

そこにはマリオやピカチュウなど、数人のファイターの姿もあった。


「……おにーちゃん……こわいよ……」

「大丈夫だ、俺が守ってやる」


「……手が震える……冥府軍や亜空軍と戦った時はこんな事無かったのに……」

「……モンスターを相手にするのとは違う……人と人との本物の戦争だから……かな……」



やがてエリウッドも、こちらに向かって飛んでくる竜騎士の姿を捉えた。


「弓部隊、出撃だ!迎え撃て!」


エリウッドの令と共に、弓部隊から空に向かって一斉に矢が放たれる。


……いよいよ戦の始まりだ。



空中で戦う天馬騎士や竜騎士を見つめながら、マリオは帽子を目深に被った。

「……始まったな……」

「……気を抜くなよ、マリオ……」

「こっちにも相手の兵士が近づいてくるはずだ……」

「剣士はもちろん、馬に乗ったソシアルナイト……魔法を使う魔道士……弓が得意なアーチャー……重厚な鎧を纏ったアーマーナイト……
斧や槍を投げてくる者もいたりするから、気をつけて」

「さすがマルス、戦争を経験しただけあって頼りになるな」

「……褒められたものじゃないけどね」


改めて、自分達が戦争に巻き込まれているという実感が湧いてくる。


その瞬間だった。


「おにーちゃんっ! なにかきたよっ!」

「!」

ピチューが叫んだ途端、竜騎士の一人が槍を構えてこちらに飛んでくるのが見えた。


「…………!」

突然の急襲にファイター達は身がすくむ。

だが……


反射的に動いたアイクが、攻撃されるよりも早く、その竜騎士を斬りつけた。

「…………?」

「……あ……」

竜騎士は地面に倒れ、動かなくなる。

主人を失った飛竜は戦意を無くし、どこかへ飛び立っていった。


「…………」

ピットは震えが止まらなかった。


今目の前で、人が死んだこと。

アイクが何の迷いもなく人の命を奪ったことに……ほんの少しだけ、恐怖を感じていた。

「……俺達はずっとこういう世界で暮らしてきたんだ。
そしてお前達も今……戦場にいる。
戦場では迷いを持った者は……命を落とす」

「…………!」

「……確かにその通りだ。俺達はそれも承知で、ロイを助けにここまで来た……
だが、要は『戦闘不能』になりゃ、別に命までは奪わなくてもいいんだろ?」

「それは……そうだが」

「だったらいいんだ。……俺はこういう、戦争なんかする人間は大嫌いだけどさ……それでも人は殺せねぇ。
だから……『ひんし』にすりゃいいんだよな」

ピカチュウはそう言って、空を舞う竜騎士に電撃を落とした。

竜騎士は力なく地面に倒れるが、まだ息はある。

「……死んではいねぇが、麻痺してるだろうから動くこともできねぇ。
これなら、相手を殺さずに戦力を削ぐことが出来る。
ただの兵士なら、仕えるべき主さえ討っちまえば戦う意味もなくなる。
……生かしといても危険因子にはならねぇだろ」

「……ピカチュウの言う通りだ。僕達はなるべく……死者を出さないように、戦いを終わらせたい。
無謀かもしれないけど……」


スマッシュファイター達はそれぞれのやり方、それぞれの意思で戦うことを決めた。

もう迷いなどない。

その姿を見て、アイクも安心したように頷いた。
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