若き獅子


戦いが終結してから僅か数時間。


戦火の中で倒れていった騎士達を丁重に弔い、怪我人を治療し、荒れた土地を少しでも復興しようと人々は慌ただしくなっていた。


ロイやファイター達も怪我を消毒してもらい、カービィに至っては一人でご馳走を平らげてしまったという。

その後は客間に集まり、それぞれ疲れを癒したり談笑を楽しんでいた。



「……大変だったな、ロイ」

「うん……ごめんな、みんなに迷惑かけて……」

「迷惑だなんて思ってねーよ」

「そーだよ!ボクたちロイにーちゃんのためならどこでもいくよ!」

「……ありがとう」

ロイは笑いかけるが、どこか無理をしているのが見え見えだった。

やはりこの戦いでは、心の傷も深く負ってしまったらしい。


「なんだロイ、元気ねぇな?
戦いが終わってみんな喜んでるのに」

「……元々は俺のせいで起こった戦争だから……
怪我したり亡くなった兵士も沢山いる……それが……凄く申し訳なくて……」

「……ロイは悪くないよ」

「でも……」

「えぇいうっとおしい!」

ピカチュウはロイの頭をグーで思い切り殴った。


「……ってえぇ!何すんだよ!」

「うるせぇ!いつまでもウジウジ落ち込んでんじゃねぇ!お前らしくねーんだよ!」

「え……」

「起こっちまったことはしょうがねぇだろ!
闇に負けねーとかどーとか言っときながら、今のお前思いっきり後ろ向きじゃねーか!」

「……あ」

「ったく……言ってることと全然違うじゃねーかバカ野郎」

「……そうだな……ごめん」

ロイは恥ずかしそうに頭をかいた。


「まぁまぁ、いいじゃんか……
それより何か食べよーぜ!腹減っちまったよ」

「俺も!キノコ料理食いてぇ!」

「マリオお前は1年365日キノコ料理が食いてぇとしか言ってねぇじゃねーか!」

「そーかぁ?」

「そーだよ!だから太るんだよ!何だこの腹の出は!」

「ボク、ナポリタン食べたいー!」

「カービィおめーはさっき食っただろ!」

「ボクはカレーがいいな、おにーちゃん!」

「体力回復には肉料理が一番いいな」

「……お前らあれこれオーダーしてっけど……ここ俺んちなの忘れてねぇ?」

「……あ、そうだった」


ロイを中心に、周りに温かい笑顔が戻った。



その時……


「…………!」


ロイの頭の中に、急にある風景が浮かんできた。

誰かがその場所へ呼んでいるような……


「……ロイ?」

「どうした?」

「ゴメンみんな……
俺……ちょっと行かなきゃならないとこがある……」

「え!?」

「ちょっ……ロイ!?」

「父さんも来て!」

「へ?」

ロイはエリウッドの手を引いて、慌てて外へ出て行ってしまった。






「……ロイ、ここは……」


ロイがやって来た場所……
そこはエリウッドがかつてニニアンに思いを告げた、青い花が咲き誇る丘の上だった。

花が好きだったニニアンのためにエリウッドが種を植え、毎年美しく咲き誇る頃に永遠の愛を誓うことを約束していた思い出の場所。


「……ここ……
確かにさっきここから……母さんが呼んだような気がしたんだ……」

「……ニニアンが?」

「うん。俺は今回母さんに助けられた…… 俺が勝てたのは母さんのお陰なんだ」


辺り一面に花が咲き誇り、風に乗って良い香りが空いっぱいに広がる。


「俺……もともと母さんの命日で帰ってきたんだよな……
……色々ありすぎて……一日過ぎちゃったけど……」


その時……


「……ロイ」

背後から、柔らかく澄んだ声が聞こえた。

振り返ってみると、そこにいたのは透き通るような長い髪を持った、清楚で美しい女性――ニニアンだった。


「母さん……」

「……ニニアン……!」

「……お久しぶりです、エリウッド様……」


信じられない、とばかりにエリウッドは何度も目をこすった。

「本当に……ニニアンなのかい……?」

「はい……」


夢などではない。

10年の時を越えて、誰よりも愛した人が今、目の前にいる……


「……うう……」

エリウッドは感慨深く、涙を流した。

「……エリウッド様、お泣きにならないでください……」

「う……ごめん……」


気持ちを抑えられないのはロイも同じだった。

「母さん……」

「……?」

ロイはニニアンの身体にぎゅっと抱きついた。

「ロイ……?」

「……ずっとこうしたかったんだ……
俺……小さい頃から母さんに抱きしめてもらうの……好きだったでしょ……?」

「……そうね。
あなたは暇さえあればいつも私に抱きついてきてたわね……」

ニニアンは懐かしい記憶に思いを馳せる。

優しく抱きしめられ、母親の温もりと精一杯の愛情を感じることが、ロイの何よりの幸せだった。


「……昔と同じだ……温かくて……すごく安心する……」

ニニアンは優しく微笑み、愛しい息子の体を抱きしめた。

その手で、子供の成長をしっかり感じ取りながら……





「……母さんはどうして俺の精神の中に現れたの?
それに……今だって……」

「私は自分の命の終わりを確信した時……最後の力を残しておいたの。
……あなたがどうしても乗り越えられない苦難にぶつかった時に……少しでも力になるために……
それに……成長したあなたを見たかったから……」

「……そうだったんだ……」

「僅かな時間しか留まることはできないけれど……こうしてまたあなた達に会えたことを……嬉しく思うわ……」

「俺も嬉しいよ、母さん……」

「うん、僕も……」

エリウッドはなかなか止まらない涙を拭いながら、何度も頷いた。

「……エリウッド様、あれから10年も経つのに……ちっとも変わってらっしゃらないんですね」

「そ……そうかなぁ……ずいぶん歳をとったような気がするけど……」

「いいえ、変わっていません……
そうして泣き虫なところも……」

「あう……」

エリウッドは恥ずかしそうに顔を赤くした。

そんな二人を見て、ロイはさも楽しそうに微笑む。


「……ふふっ」

「……? なぁに?」

「いや……父さんと母さん……すごく幸せそうだなぁって」

「……そう?」

「うん。ホントに二人が愛し合ってたんだなぁって思って……
なんか俺、見てるだけで幸せだ」

「て……照れ臭いよ、ロイ……」

エリウッドの顔がさらに赤くなる。


「……俺、父さんと母さんの話……もっと聞きたいなぁ」

「……エリウッド様、ロイに何も話していないんですか?」

「いや……何か恥ずかしくて……ハハハ」

「もう……」

ニニアンは優しく笑うと、ロイの方に向き直った。


「……私が話すわ……
エリウッド様と一緒になってから……私がこの世を去るまでの思い出を……」
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