若き獅子
その頃、エリウッドとラグナスは未だ、フェレ城の前で激しい死闘を繰り広げていた。
だが、兵士との戦いでかなり体力を減らしていたエリウッドはなかなか決定打を入れることが出来ない。
そしてウォルトは腕を怪我し、弓を引けなくなっていた。
「ここまで粘るとは……さすがといったところか」
「(……魔道士は守りが弱い……隙さえついてしまえばこっちのもんなのに……!)」
「元々貴様は体が弱い……
それに加え病を患い、20年もの平和な時代を過ごして随分平和呆けしてしまったようだな」
「貴様……エリウッド様を侮辱するな!」
「……腕を怪我しただけで戦えなくなるとは……とんだ役立たずの家臣だな」
「ぐっ……」
「……もう終わりにしよう。
貴様の栄光もここまでだ、エリウッド……」
「くっ……」
「私の闇の力の前に散るがいい!」
ラグナスは強力な闇魔法の呪文を唱えた。
もうダメかと思われた、その時……
「そうはさせるかっ!」
突如として、氷のブレスがラグナスの足元に直撃した。
「な……何……!?」
「! あれは……!」
見上げれば、そこには空に舞う氷竜の姿があった。
「ロイ……!?」
「バカな……奴は私が確実に殺したはず……!」
ラグナスやクレイグの驚く顔を見て、ロイはさも楽しそうに笑った。
「……ちゃんと死んだか確かめるんだったな、クレイグ!」
「な……何故……何故あの業火の中で生きていられたのだ……」
「世の中にはなぁ……想像もつかねぇことが起こったりすんだよ!」
そう言って、ロイはエリウッド達の前に降り立った。
「俺がいる限り、お前らの好きにはさせねぇぞ……」
「ぐぅ……」
「お前達!一斉攻撃だ!何としてでもこいつを殺せ!」
ラグナスの号令で、十数人もの兵士がロイに向かって一斉に襲いかかる。
だが、ロイは全く動じなかった。
「みんな下がってろ!」
そう言って大きく息を吸い込み、先程よりも強力なブレスを放つ。
それは兵士達が宙に舞うほどの爆風を巻き起こし、辺りを一掃してしまった。
「な……何て威力だ……!」
「すごい……」
以前のロイでは出せなかった力。
母親から託された力は絶大なものだった。
「フェレは俺が守る!」
フェレの騎士や平民達はロイの行動を見てどよめいていた。
先程まで敵だったあの魔竜が反旗を翻したことで混乱してしまっているらしい。
「あれが……災厄の獅子……?」
「奴は俺達を襲っていたはずじゃ……」
「でも……今……」
「ロイは災厄の獅子なんかじゃない!」
そう叫んだのは、ロイの後を追って走ってきたカービィだった。
「ロイはみんなを守るために……みんなの未来を台無しにしないために、一生懸命戦ってるんだよ!」
「……そう、ロイはこのフェレを守る……救世主なんだ」
「……みんな聞いてくれ!」
ロイはその場にいる一人一人に聞こえるよう、声を張りあげた。
「……俺は闇の力に押し潰されて……大好きなフェレをこんな状態にしちまった……
それは全部俺の責任だ……謝っても謝りきれないと思ってる!
……けど俺はもう闇の力なんかには負けない……
これ以上誰かを傷つけたりはしない!
この力はみんなを守るための力だ!」
「ロイ……」
「みんな……みんなが俺をどう思ってるかはわからない……やっぱり化け物だって思うかもしれない……
けど俺はそれでも領主エリウッドの息子だ!
いつかはこの地を背負う獅子だ!
ここでこんな奴らに攻め堕とされるわけにはいかねぇ!
だから頼む……みんな俺に……力を貸してくれ!」
ロイはぎゅっと目を閉じた。
やはりこんな竜の言うことなど誰も聞いてくれないだろう、と思うと怖かったのだ。
だが、人々の反応はロイの予想とは違った。
「何を言ってるんですかロイ様!」
「俺達は何がなんでもロイ様についていきます!」
「勝負が決まる前から諦めるなんて馬鹿らしい……
誇りあるフェレ騎士団として、最後まで戦おうじゃないか!」
「お前ら!ロイ様をお守りしろ!
あんな輩に負けるな!」
「フェレの未来を担う赤き獅子に……指一本触れさせるな!」
一度は武器を捨てた騎士が、再び戦意を取り戻し立ち上がった。
ロイの心は人々にしっかり届いていた。
必死に紡いだ言葉が、彼らの心を動かしたのだ。
「……みんな……ありがとう……」
心強い人々の言葉に、瞳には涙が浮かぶ。
ロイは天に向かい、猛々しく咆哮した。
それを合図に、騎士や兵士達は一斉に敵軍へと向かっていった。
「さぁ……もう一息だ!」
「俺達も加勢するぞ!」
「おう!」
スマッシュファイターも敵軍目がけて走り出す。
戦争はいよいよ大詰めを迎えていた……
「うおりゃーー!かみなりっ!」
「ドルフィンスラッシュ!」
「喰らえっ!パルテナアロー!」
一心不乱に戦い続けるファイターたち。
そんな彼らの背後に忍び寄った兵士を、凄まじい速さのパンチで殴り飛ばしたのは……
「ファルコンさん!助かりました!」
「お前今までどこにいたんだよ!?」
「いやぁ、ちょっと色々あってな!」
ファルコンが指差した先には、ファルコに肩を借りて歩くフォックスがいた。
「フォックス!?」
「あの火竜にやられてアーウィンが墜落してな……しくじったよ」
「けっ……俺には『調子に乗って撃墜されるなよ』とか言ってたくせによ……」
「……うるさいぞ、ファルコ」
足にこそ軽い怪我を負ったものの、他は大事に至らずに済んだ。
不幸中の幸いだ。
「もう少しだ!」
「このまま突っ切れ!フェレ軍の意地を見せろ!」
「ぐ……バカな……我が軍が圧されているだと……!?」
冷静沈着だったラグナスの顔に、焦りが見え始めた。
「それもこれも、あのガキのせいだ……!
大人しくくたばればよかったものを……!」
「ラグナス様、私にもう一度チャンスを!次こそ必ず仕留めます!」
「……必ずだぞ……」
クレイグは再び火竜に化身し、辺り構わず炎のブレスを放ち始めた。
「さぁ来い災厄の獅子!次こそ焼き尽くしてくれる!」
その様子は空の上からロイもしっかり見ていた。
「あいつ……また炎を……!」
「ロイ、あれはお前を誘き出すための罠だ!クレイグはお前の命を狙ってる!」
「……上等だ。どっちにしろあいつとはケリをつけなきゃならない……」
だが、ロイの行く手は天馬騎士や竜騎士に阻まれる。
ぐずぐずしていると、クレイグの炎で広範囲が焼き尽くされてしまうかもしれないのに……
「くそっ……まずはこいつらを倒さなきゃならねぇか……!」
だがその瞬間……
「喰らいなさいっ!『エルファイアー』!」
強力な炎魔法が天馬騎士や竜騎士を直撃した。
「今のは……」
「……遅くなってごめんね!」
ロイの耳に聞こえてきたのは遠く離れた地に住む、愛しい幼なじみの声。
「オスティア重騎士団も力を貸すわ、ロイ!」
「リリーナ!」
眼下に彼女の姿を捉え、ロイは心なしか嬉しくなった。
しばらく顔を見ていなかったが、髪が少し伸び、どこか大人びたように見える。
フェレが襲撃を受けた話を聞いて、急いでオスティアから力を貸しに来たのだとリリーナは言った。
「……その姿、カッコイイじゃない」
「え……」
リリーナは初めて見た竜の姿にも怯えることなく、優しく微笑んだ。
「さぁ、空の敵は私に任せて!」
「……ありがとう、リリーナ!
それから……父さん!」
ロイはふわりとエリウッドの前に降りてくる。
「俺の背中に乗って!」
「え?」
「俺のブレスは遠距離の相手に有効なものだ……飛んでる最中に接近されたら太刀打ちできない!
でも父さんがいてくれたら対処できるんだ!頼むよ!」
「で でも……」
「大丈夫、パラディンとして馬に乗って戦ってきた父さんならできるよ」
「ロイ……」
「ねっ」
「……わかった。やってみるよ」
「ありがとう!」
ロイは父を背中に乗せ、空高く飛び上がった。
空の敵はリリーナが倒してくれる。
それでも間に合わない時は父さんの剣の一撃が助けてくれる。
ロイは安心して飛ぶことができた。
「……凄いな、まるでドラゴンナイトになった気分だ」
「サマになってるよ、父さん」
「……ロイ、前方に竜騎士が二人いる!」
「ここまではリリーナの魔法は届かない……
父さん、しっかり掴まってて!」
ロイは氷のブレスで、迫ってくる竜騎士二人を一撃で倒してしまった。
「……さすがだね、ロイ」
「母さんの力は絶大だよ!
……それより俺、竜玉を探さなきゃなんないんだけど……」
「竜玉?
……それって、ロイが首に下げてたアレ?」
「うん。
捕まった時にラグナスに盗られてさ……あれがないと元に戻れないんだよ」
「そうか……」
「誰かが持ってると思うんだけど……」