若き獅子


その頃……


「フォックス、敵が城に向かって攻めてきたぞ!」

「ああ!」

アーウィンに乗って空から攻撃していたフォックスとファルコは、ラグナス率いる精鋭達が城に攻め込んでくるのを目撃した。


「ファルコ、お前は左翼から当たれ!
誰一人城に近づけさせるなよ!」

「わかってらぁ!」

フォックスは右、ファルコは左へとそれぞれ機体を向かわせる。

スマートボムやビームを駆使して次々と兵士を倒していくが、そんな二人を阻んだのもクレイグだった。


「! フォックス気をつけろ!前方に竜がいる!」

「わかってる!ここは避けて先に雑魚を……」

だが……


「……逃がしはしない……!」

途端、真っ赤な炎がフォックスの乗るアーウィンを包み込んだ。 

「フォックス!応答しろ! おい!」


ファルコが声を張り上げるが、何の応答もない。

やがて炎に包まれたアーウィンは地面に墜落してしまった。


「フォックスーーッ!」








エリウッドは城の外から、フェレの優秀な騎士が倒れ行き、火の海に飲まれていく様を見ていた。


「……エリウッド様……我が軍の騎士が敵軍によって何人も倒されました……」

「……ロイも……あの火竜によって……」

そう言うウォルトの声は震えていた。

唯一無二の親友で、本当の弟のような存在だったロイが倒されただなんて、信じたくはなかったのだ。


「…………」

「エリウッド様……」


エリウッドは力なくその場に座り込んだ。

悔しさと悲しさと怒りと、様々な感情が込み上げてくる。


「僕は……僕は何をやってるんだ……
仲間も……息子すらも守れない……
僕は……僕は無力だ……!」

「エリウッド様、ひとまず私達だけでも亡命を……」

「……そんなこと出来ない……皆がまだ戦ってるのに、逃げるなんて出来ない……!
それに……ロイを残していくなんて……!」

「……さすがフェレを束ねる者……いい度胸だな」

「!」


エリウッドが顔を上げると、炎の道の先からラグナスが歩いてくるのが見えた。

「お前の息子は私の部下が殺した……
もう望みはないぞ、フェレ侯爵殿」

「貴様っ……!」

「……ウォルト、下がって……」

「で ですが……!」

「いいから」

「………!」

ウォルトは一瞬、恐怖を感じた。

エリウッドは今まで見たこともないような顔で、凄まじい殺気を放っている。

ウォルトは弓を下ろし、大人しく後ろに下がった。


「こいつだけは……許してはおけない……
ロイの仇は僕が討たなきゃならない……!」

「ほう……」

「フェレを守る者として……僕がお前の首をとる!」

「……息子を失ったばかりの割に威勢がいいな。
いいだろう、相手をしてやる……」

ラグナスは黒い魔道書を携え、その手には闇のオーラを帯びている。

「リキア随一の剣士と呼ばれたその腕前……鈍っていなければいいがな」

「…………」

エリウッドは鞘からレイピアを抜き、ラグナスを睨みつけた。


背後にそびえるフェレ城を前に、今この地の命運をかけた戦いが始まろうとしていた……








「おにーちゃん……あついよぉ……」

「大丈夫だピチュー、俺が盾になってやる……」

ピカチュウは小さな弟の体を優しく包み込んだ。

マリオ達はあれから身動きも取れず、炎の渦の中に閉じ込められたままでいた。


「マルス、大丈夫か!?」

「息が……苦しい……」

マルスは意識が朦朧とした状態で、アイクに抱えられている。

その様子が、他の仲間の不安感を煽った。


「やだよぉ……ボクまだ死にたくないよぉ……」

「カービィ……」

「もっともっとおいしいもの食べたかった……もっとみんなと遊びたかった……!」

「……僕も……せっかくゼルダ姫とお付き合い出来たのに……」

「何だよリンク、こんな時におノロケか……?」

「トキさんだって……時姫さんと仲良くやってるじゃないですか」

「ハハ……そうだな」


「僕の命も……ここまでか……」

「ピット君……」

「何だか悔しいなぁ……
天空界のみんなに焼き鳥呼ばわりされちゃいそうで……」


「おにーちゃん……ボクたちしんじゃうの……?」

「……ああ……残念ながら助かる見込みはないな……
でも安心しろ……俺が……みんなが一緒だ……」





一人、また一人と仲間が倒れていく。

それを目の当たりにした騎士達は、戦意すら失いかけていた。


「もうダメだ……
あんな奴らに勝てるわけがない……」

「このまま死ぬしかないのか……?」

「嫌だ……俺は死にたくない!」

騎士達は次々と武器を捨て、戦場から逃げ出してしまった。


「おい待て! 逃げるな!それでもフェレの騎士なのか!?」

「……アレン、咎めるな……」

「ランス……!」

「……この状況を見ればわかるだろう?
優秀な騎士団だと賞賛された我が軍でさえ、こんなにも追い込まれているんだ……
……こんなことを言いたくはないが、私にも勝ちが見えない……」

「なっ……」

「アレン、誰しもがお前のように命を省みず突っ走れるわけじゃない……
彼らにも家族や大切な人がいる。
この状況で、自分の命の為に逃げることは決して恥じゃない……
そして彼らを咎める資格も私達にはない」

「…………」

「最後まで命をかける意思がある者だけ戦えばいい……
必ず、死なないと誓って……な」

「……………………
……お前の言う通りだ、ランス……」

「わかればいい」


だが、絶対的に不利な状況に変わりはない。

それでもフェレ家に仕える忠臣として、彼らは最後まで戦い抜くことを決めたのだった。








「うわあぁぁ!」

「逃げろーーーっ!!」



みんなの叫び声が聞こえる……

傷ついた人の叫びが……泣き声が……



「もうダメだ、何もかもおしまいだ……!」



俺は……俺はやっぱり無力なのか……?



皆が傷ついて倒れていってるのに……

俺はフェレを守んなきゃいけねぇのに……!

人間でも氷竜でもない俺には……
何もできねぇのか……?


『……諦めないで、ロイ……』


頭の中に声が響いてくる。


『目を覚まして……』

「…………?」


その声に導かれるまま、ロイはゆっくり目を開けた。


「……俺……生きてる……?」


辺りに見えるのは真っ赤な炎だけ。

にも関わらず、身体は全く熱くなかった。


よく見ると、身体を青白いオーラが包み込んでいる。


「これは……」

『私の力で……あなたを守ったのよ』

「……母さん……?」

『あなたには守らなければならないものが沢山ある……
あなたの力で……大切な人達を救いなさい……』

「……でも俺は……あの火竜に勝てなかった……
俺の力じゃ……みんなを助けることなんて……」

『……大丈夫』

「え……?」

『私の力を授けるわ……
あの人達に負けない力を……あなたに……』








「何だか……目の前が……真っ暗……に……」

「カービィ!?」

「俺も……意識が……」

「……マリオ……!」

「……もう……ここまで……か……」


炎の渦中、倒れゆく仲間を見て全てを諦めていた、その時……


突如として、一陣の冷たい風が辺りに吹き荒れた。


「…………!?」

「な……なに……!?」

「……見て!炎が……!」


突風により、辺りを囲んでいた炎が一瞬にして消え去った。

「炎が消えた……!」

「俺達、助かったんだ!」

「でもどうして……?」

意識が朦朧とした彼らの目に映ったのは、澄んだ水色の竜。

「あれは……」

ファイター達が見慣れた、彼の姿そのもの。


「……ロイ……?」

竜はピット達の方を振り返ると、優しい瞳で彼らをじっと見つめた。

「ほ ホントにロイなのか!?」

「え? でもロイ……さっき……」

「……勝手に殺すなよ」

その声を聞いて、皆の顔に笑顔が戻った。

「ロイ……!」

「ホントにロイにーちゃんなんだね!?」

「……でもその姿は!?なんで元に戻れたの!?」

「……俺の母さんが……力をくれたんだ」

「ニニアン様が……?」

「ああ……力がどんどん漲ってくる……今なら……誰にでも勝てそうな気がする」

「ロイ……」


嬉しさのあまり、ピットの瞳には涙が浮かんでいた。

「良かった……良かったぁ……」

「ったく……泣くなよ……
……あれ?ピカチュウお前何で後ろ向いてんだ?」

「……うるせぇ」

ピカチュウは後ろを向いたまま、身体を小刻みに震わせていた。

……どうやら彼も泣いているらしい。


「俺が生きてて安心したか」

「バッ……そんなんじゃねーし!誰もお前のことなんか心配してねーし!あり得ねーし!」

「……素直じゃねぇな、お前は」

「……うるせぇ!」

ピカチュウは腕でゴシゴシ目をこすった。

辺りには穏やかな笑い声が広がる。


「ま……話は後だ。
とりあえず今はこの戦いを終わらせねーとな」

「……そうだな……」

「マルス、大丈夫か?」

「うん、平気……戦えるよ」

「カービィとマリオは?」

「ボクも大丈夫!」

「俺も戦えるぞ」

「よし……」

ロイは翼を大きく広げ、勢い良く空に飛び立った。

そして息を吸い込み、燃え盛る炎に向かって氷のブレスを吐くと、炎はすぐに消え、目の前に通り道ができた。


「これでよし……」

「ありがとう、ロイ!」

「俺は父さんのとこ行ってくる!
みんなも城の近くに来てくれ!そこでみんな戦ってる!」

「わかった!」


気付けば空は少しずつ明るみ始めている。

ロイ達は戦いを終わらせるため、ラグナスやクレイグのいるであろうフェレ城を目指すのだった。
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