若き獅子
その時……
「! 何かこっちに来る!」
敵の接近に気づいたウォルトが、とっさに弓を構え狙いを定めた。
「……待てウォルト、あれは……」
黒き飛竜に乗りやってくるその男の姿に、ファイター達も何となく察しがつく。
「……エリウッド様、もしやあの男が……」
「……ああ」
エリウッドは力強い眼差しで男を見つめる。
「奴が闇魔法使いのラグナス……
ロイをさらった張本人だ」
「…………!!」
全員が息を呑んだ。
ラグナスはエリウッドのすぐ側まで来ると、あの怪しい笑みを浮かべた。
どこか不気味さを感じさせるその笑みに、ピットは再び身体を震わせる。
「……奇襲をかけるつもりが、逆に迎撃されるとは……
よく我々が攻め入ることがわかったな?」
「……こっちには独自の情報ルートがあるんでね」
ピットの能力がなければ、ラグナスの思惑通り奇襲をかけられ、大混乱は必至だっただろう。
「ラグナス……お前がやろうとしていることは全てわかっている……」
「……そうか。 さすがリキアの有力貴族……情報収集が早い。
……それにしても見慣れぬ者達がいるな……私の言う通り、兵力を増やしてきたか」
「俺達はロイの友達だ!」
「そーだよ!ロイにーちゃんをかえして!」
「フン……友達……か。
だが、これを見てもまだ友達だと言えるかな?」
「何……?」
「……やれ!」
その途端、城のすぐ下を強力なブレスが直撃し、大きな地響きと砂煙を巻き起こした。
「わあぁ!」
「闇のブレス!?まさか……っ」
「……そう。お前達の友達とやらは既に闇に堕ちた……
私の忠実な下僕だ」
彼らの目に映ったのは、空に羽ばたく大きな魔竜。
「……嘘でしょ……!?」
「まさか……本当に……」
太陽の光を浴びて輝く水色の体が美しく、強く優しい瞳をしていた、あの竜の姿とは全く違う。
皆の知る彼の面影など、どこにもなかった。
「あれが……ロイなのか……?」
「まるで地竜メディウスのような……」
「ロイ……にーちゃん……?」
その姿は城の外にいたフォックス達にも見えていた。
「あれがロイだなんて……」
「くそっ……あれじゃどう見ても完全に魔竜じゃねぇか……」
「お前ら!兵士達が迫ってきてるぜ!」
「!!」
ファルコンの声に振り返ると、ソシアルナイトを始めとするラグナス軍の兵士達が迫ってきていた。
「俺達はこっちに集中するしかねぇか……!」
「ああ。ひとまず雑魚を片付けるのが先だ……!」
そう言って、フォックス達はブラスターを手に戦火の中へ飛び込んでいった。
「ロイ目を覚ませ!俺だ!」
「ロイ!わかる!?僕達、君を助けに来たんだよ!」
「おいコノヤロー!なに闇なんかに乗っ取られてんだ!」
マリオ、ピット、ピカチュウが声をかけるが、ロイは全く聞く耳を持とうとしない。
「……無駄だ。こいつは私の命令しか聞かないのだからな」
「……貴様……よくもロイを……!」
エリウッドは今までにない程の怒りを感じていた。
憤りに身を震わせ、剣を片手にラグナスを睨みつける。
「さぁどうするエリウッド?
こいつに殺され……空の上から私が世界を粛清する様を見届けるか?
……それともフェレの為に愛する息子を……殺すか?」
「くっ……」
「どっちでもねーよ! 俺達がロイの心を取り戻す!」
「……それは出来まい……
強力な闇の呪術が解けることなど有り得ないのだからな」
「何だと……?」
「……さぁ我が下僕よ、その力で全てを滅ぼせ!」
ラグナスの一声で、ロイは空高く飛び上がり、そのまま村へと向かっていった。
「ロイ!」
「まずい……村には沢山の人がいる!ロイが攻撃すれば多大な被害が……!」
「止められるものなら止めてみよ……」
ラグナスは高笑いしながら、竜に乗りどこかへ飛び去っていった。
「とにかく俺達も村に向かおう!ロイを止めるんだ!」
「ああ!」
「……若い者達には負けていられんな。
ウォルト、我らも行くぞ!」
「はいっ!」
スマッシュファイターに続き、ウォルトとマーカスも城を出て行った。
「……僕も行く。
この大事な戦いを、ただ見ているわけにはいかないからね……」
「エリウッド様……」
「行くぞみんな!
城を堕とさせることも、ロイを失うこともなく……ただ勝利だけを勝ち取るんだ!」
「はいっ!」
その頃、村に降り立ったロイはひたすらに暴れ回り、村人を恐怖に陥れていた。
「コロ……ス……全…員……コロス……」
「みんな逃げろ!」
「早く!こっちだよ!」
村で兵士の相手をしていたカービィやアイクは、ロイの攻撃を避けながら村人を安全なところへ誘導していた。
「ねぇアイク、ボク達の声全然届いてないみたいだよ!」
「諦めるな!諦めたらいつまで経ってもロイは助けられない!」
「でもこれじゃあ、近づくこともできないよ!」
その時、村人の恐れおののく声がカービィに聞こえてきた。
「災厄の獅子だ……」
「やっぱりヤツは化け物だ、俺達を襲うなんて……!」
「…………!?」
「カービィ……どうした?」
「フェレに戻って来たりなんかするからいけないんだ!」
「あんなのがいる以上、俺達に完全な平穏なんかない……!」
「……みんな……ロイのこと勘違いしてる……」
「……?」
「ロイは好きであんなことしてるんじゃない……
なのに……何でそんなこと言うの……?」
「もう……何もかもおしまいだ……!」
「あんな化け物……早く殺してしまえばいいのに……!」
「やめて……やめてよ……!」
カービィの目から、大粒の涙が溢れた。
「これじゃあロイはホントに嫌われ者になっちゃう!
ロイは自分の故郷が大好きなのに……みんなのことが大好きなのに……
今までだってたくさん傷ついてきたのに……!
なのにもっと嫌われちゃう……!居場所がなくなっちゃう……!」
「カービィ……」
「だったら……そうならないように俺達が力ずくでも止めるしかねーだろ!」
そう言うのは、先陣を切って兵士と戦っていたトキ。
「トキ……!」
「ちっ……村人守りながらロイも助けなきゃなんねぇ……なのに敵軍の相手までしなきゃなんねぇとは……人手が足りねぇ!」
「大丈夫だ、俺達もいるぜ!」
「!?」
「下がってな!」
途端、トキの目の前に激しい雷が落ちた。
「わぁ!?」
「へへっ……一発ド派手に決めてやったぜ」
倒れゆく兵士を見て得意げに笑うピカチュウ。
後ろからはマリオやリンク達が走ってきた。
「お前ら……!」
「戦力は十分だ!とっとと片付けるぞ!」
「ああ!」
「ロイ……」
「ただ話しかけてもロイには聞こえてないみたい……」
「それより、今は兵士の相手を!」
ピットはもどかしい気持ちになりながら、襲い来る兵士に向かって矢を放つ。
ロイはけたたましく吼えながら、闇のブレスで家々を破壊し、辺りを火の海へと変えていった。
「やべぇ……火に囲まれたら逃げ場が……」
「ゼニガメを持ってるレッドにも来てもらうんだったな……」
「! こっちに来るぞ!」
その時……
「やめてロイにーちゃん!」
ロイの前に、黄色い子ねずみが立ちはだかった。
「ピチュー!?」
「バカッ……何やってんだ!」
ピカチュウが無理やり腕を引っ張るが、ピチューは動こうとしない。
「みんなをきずつけないで!ロイにーちゃん!」
自分の思いを込めて、仲間の願いを込めて、ピチューはロイの心に届くよう精一杯声を張り上げる。
だが、ロイにはその言葉すらも煩わしいとばかりに、ピチューに向かって闇のブレスを放った。
「わあぁ!」
「危ねぇっ!」
ピカチュウの電光石火によってなんとか直撃こそ免れたものの、反動で身体を強く打ち付けてしまった。
「ピチュー大丈夫か!?しっかりしろ!」
「う……ロイ……にーちゃん……」
ピチューは涙の浮かんだ瞳でロイを見つめた。
ピカチュウはそんな弟をその場に下ろし、赤い頬袋に電気を走らせる。
「おいてめぇ……あんだけ可愛がってたピチューにこんな仕打ちをするたぁ何事だ……!」
ピカチュウは怒りを増幅させ、大きく飛び上がると雷雲を呼び、ロイの上に大きな雷を落とした。
「うわっ……」
「なんつー威力だ……!」
先ほどとは比べ物にならない威力。
だがロイには効いていないのか、すぐに再び暴れ始めた。
「ちくしょうっ……ビクともしねぇのかよ……!」