手合わせ
一時間後……
「あっエリウッド様戻ってきた!」
「ホントだ!」
「レッド!お茶をお持ちしろ!」
「え、何で僕が……」
ファルコンとエリウッドが戻ってきたため、客間が再び騒がしくなる。
「どうだエリウッド、面白かったか?」
「うん、すごく面白かったよ!
僕、戦いはあんまり好きじゃないんだけど……ああやって誰も傷つくことなく力を競い合えるのは良いと思う」
「ハッハッハ!それは何よりだ!エリウッドもファイター入りしてみるか?」
「あはは、機会があったら参加したいかも」
「いやぁ、それにしても話が弾んで仕方なかったな!」
「ファルコンの住む世界はとても興味深いものだったよ。F-ZEROマシンって、僕でも乗れるのかなぁ」
「うーむ、乗れたとしてもお前はなんだかものすごい危険運転をしそうな予感がする!俺はおすすめしないな!」
戻ってきたファルコンとエリウッドはずっと楽しそうに会話していて、周りが口出しする隙もない。
ロイの思った通り、ファルコンとエリウッドはとても仲良くなったようだ。
タイミングを見ながら、マルスがそっと2人に声をかける。
「えーと、エリウッド様、ファルコンさん」
「あぁ、すまない!つい話に夢中になってしまった」
「いえ、すごく楽しそうなので良いんですが……とりあえず、おかえりなさい。ファルコンさんもありがとうございました」
「気にするな、むしろ良い友人が出来て良かった。ロイに礼を言わないとな」
「そういえばロイはどこに行ったのかな」
「ロイなら外に……」
そんな時……
ズシンッ!と、大きな地響きが屋敷中に響き渡った。
「な なに? 今の……」
「……ロイかな……」
「へ?」
マルスは近くの窓を開ける。
眼下に広がる広大な庭を見ると、そこには子供達と一頭の氷竜の姿があった。
「あれは……」
「ロイの……もう一つの姿です」
「ロイの奴、親父さんが乱闘見に行ってる間、子供達と遊んでたからな」
だが、エリウッドは驚くことなく、穏やかな目でロイを見つめる。
「……わかるよ……
竜になったあの姿は……僕の妻にそっくりだから」
「……そうなのですか?」
マルスの問いに、エリウッドは少し嬉しそうに頷く。
「……いつか竜の力を自分のものとして、上手く付き合っていくことが出来るようになるのを夢見てた……」
竜の力のせいで、ロイは今までたくさん傷ついてきたから……
「……その夢が叶ったんだ。凄く……安心したよ。
マスターさんにはお礼してもしきれないな」
「エリウッド様……」
「…………」
ふと、エリウッドは外に向かって歩き出す。
「ど どちらへ?」
「少し……あの子の力を見てみたくなった。
……父親としてね」
「ロイ兄ちゃんもっかい飛んでー!」
「さっき飛んだばっかだろ!」
「やーだー!もーいっかいー!」
「ちょっ……全員乗るな!重い!」
竜の姿となったロイは子供達に大人気。
いつも誰かを背中に乗せては空を飛び回っていた。
「ロイ!」
その声に、ロイは後ろを振り向いた。
背中に乗っていた子供達も次々に飛び降りる。
「……父さん……」
「……その姿を見るのは初めてだね」
「……驚いた?」
「……いや。すごくカッコいいよ」
エリウッドはロイの硬く厚い皮膚に触れる。
「凄いね、ちょっとやそっとじゃびくともしなさそうだ」
「ふふーん、強そうでかっこいいだろ」
ロイは嬉しそうに微笑み、翼を大きく広げた。
「……ところでロイ、一つ頼みがあるんだ」
「……頼み?」
「……僕と勝負してほしい」
「……勝負……?」
ロイは目を見開き驚いた表情を見せる。
父にそんなことを言われるとは思っていなかった。
「君がどこまで強くなったか、父親としてハッキリ見ておきたいんだ。
……ダメかい?」
「……ううん。
俺もいつか……父さんと戦いたいって思ってた」
ロイは竜化を解き、嬉しそうな顔で頷く。
「……その勝負、受けるよ」
「なになに!?勝負するのー!?」
話を聞きつけて、庭には何人かのファイターが集まってくる。
「じゃあ俺、練習用の剣を……」
「……待って」
ふと、屋敷に戻ろうとしたピカチュウをロイが制す。
「……練習用じゃなくて、俺の鎧と封印の剣……それから、父さんのレイピアも」
「え……」
「ロイ……?」
「やるからには一切手抜きしたくない……
……真剣で勝負したい」
「!」
「真剣?」
「……竹刀とか木刀じゃない……本物の剣、ってこと……
"真剣勝負"の真剣だよ」
ルイージの言葉に、カービィは息を飲み二人を見つめる。
真剣で戦うこと……それはつまり、下手をすれば大怪我を負いかねないということ。
「真剣で戦うなんて……いいの?ロイ……」
「うん」
「ホントにいいの?ケガしたら痛いよ?」
「あーもう!だからいちいち過保護だっつーんだよバカ親父!」
「ロイにバカ親父って言われた……」
「俺はあの戦いでいつも前線に立って戦ってたんだ!そうしないと頼りない俺になんて誰もついてこないと思ったから……
ケガどころじゃねぇ重傷負ったことも何度もある。怪我が怖くて剣が握れるか!」
「うぅ………」
ロイの言葉にエリウッドは返す言葉が見つからない。
エリウッドもそれはわかっている。わかっているが、ただ息子を思う気持ちが強すぎただけのこと。
「……それに父さんが強いのはわかってる……
でも自分が父さん相手にどこまで戦えるか……どれだけ強くなったか知りたいんだ」
ロイのまさに真剣な表情に、エリウッドは参ったな、と頭をかく。
「やれやれ……息子にそう言われちゃ仕方ないな……
患ってからあまり本気では戦いたくないと思ってたんだけど」
「持ってきたぜ」
ピカチュウとレッドが武器を持って戻ってくる。
「はい、エリウッド様」
「ありがとう」
「ほらよ、若き獅子」
「……サンキュ、ピカチュウ」
ロイはそう言って、首に下げた竜玉をピットに渡した。
「ピット、これ持ってて……」
「う うん」
ロイに預けられたそれを、ピットは大事そうに握りしめる。
「そういや親父さん、そんな無防備でいいのか?」
「……構わないよ」
それは「傷一つ付けさせやしない」というような、余裕から来る言葉。
その挑発がロイの心に火をつける。
「……準備OKだよ」
ロイが封印の剣を抜くのと同時に、エリウッドもレイピアを構える。
「親子関係は抜きにして……本気でいくよ、ロイ」
「……お願いします」
途端、辺りの空気が緊張し張りつめたものに変わる。
「……空気が変わった……」
「エリウッド様はレイピア……ロイは凄まじい能力を持った封印の剣……
武器そのものなら、確実に封印の剣の方が有利だけど……」
「……だが問題は実力……
エリウッド侯はリキア地方一の騎士だと言われていたんだろう?」
「あぁ。武器だけは立派でもロイには経験が足りねぇ。宝の持ち腐れだ」
マルスとアイクの間に割り込んで、ピカチュウは腕組みをし厳しい顔でロイを見つめる。
「ま……発展途上のロイが勝てる訳ねぇのは明白だが……どこまでやれるか見物だな」
「(俺なんかの実力じゃ、どう足掻いても父さんに敵う訳がない……
かすり傷だってつけられやしない……)」
ロイは父を見つめ、封印の剣を強く握りしめる。
「(……でも、それでも逃げない……!
俺は獅子だ……後ろは向かねぇ……!)」
ロイは地面を強く蹴り、剣を構えて走り出した。
「やあぁっ!」
ガキン、と鈍い音がして剣がぶつかり合う。
「……思ったよりパワーあるね」
「それを受け止める父さんも凄いけどな……」
ロイは力任せに振り払い、エリウッドの懐に入り込む。
「たぁっ!」
「む……」
振りの大きいロイの動きは読まれ、避けられやすい。
「封印の剣はあまり近接戦闘には向かないかもしれねぇな」
ピカチュウの言う通り、ロイは攻撃を当てることも出来ずあしらわれるばかり。
「親父さんはまだ様子を見てる……本気なら一瞬でケリがついてるはずだぜ」
「……ロイ……」
「(踏み込みが甘い……)」
途端、剣先がロイの左腕をかすめる。
「くっ……」
辺りに鮮血が舞い、周りにいる者があっと声をあげたり顔を逸らしたりした。
「ロイ!」
「かなり深くいったんじゃねぇか……?」
「く……」
ロイは腕を押さえ距離をとった。
「くそ……」
傷口からはポタポタと血が滴り落ちる。
思ったより深く切られたらしい。
「(……これがリキア一の騎士の力か……)」
これが自分が憧れ、目指している父の強さ。
そんな父と戦えることに、ロイの瞳は嬉しそうに輝く。
「……どうした?もう終わりかい?」
「……まさか
そんなわけねぇだろっ……!」
途端、封印の剣が激しく燃え上がった。
「封印の剣が……!」
「ロイの闘志を反映させてるんだ。
封印の剣は持ち主の心を映す鏡……持ち主の心で効果も変わるんだよ」
「まだまだ、これからだ……!」
ロイの熱い闘志を感じ取り、エリウッドは嬉しそうに笑う。
「……そうこなくちゃ」
「やああぁっ!」
疲れも知らず、ロイは攻撃の手を休めることなく果敢に立ち向かう。
しかし封印の剣は重いせいか、スピードのある攻撃は出来ない。
パワー重視のロイに対し、エリウッドはテクニック重視。
どんなに全力でぶつかっても軽く薙ぎ払われてしまう。
「ぐっ……」
だが、ロイは諦めない。
燃え盛る真っ赤な炎を纏わせ、ロイは封印の剣を勢いよく振る。
「(この重い剣をここまで振れるだけで大したもんだ……)」
「(……今だ!)」
「!」
ロイは大きくジャンプし、封印の剣を大きく振り下ろす。
間一髪攻撃を避け、エリウッドは優しく微笑んだ。
「(ここにきてこのパワーとは……)」
本当に大した底力だ。
「やぁっ!」
ロイは諦めず再び斬りかかる。
「……今のはなかなか良かった……見直したよ。
………でも………」
「うぁっ!」
勢いよく弾き飛ばされ、ロイは仰向けに倒れ込んだ。
その瞬間、顔のすぐ横にレイピアが刺さる。
「…………!」
「……勝負あり、だね」
変わらず柔和な笑みを見せる父に、ロイは苦笑いを浮かべた。
「……はは……やっぱ父さんは強いや……」
「……じゃあそろそろ帰るよ。フェレが大混乱になる前にね」
「いや……もうなってんじゃねーの?」
日が傾き始める頃、ロイ達はフェレへ帰るエリウッドを見送るため外に出ていた。
「それよりロイ、腕は大丈夫!?ああどうしよう痕が残ったら……」
戦っている時は父のことを格好いいと思っていたのに、終わってみたらずっとこれである。
「うちにいる医者が優秀だから大丈夫だよ……それにもし傷が残っても父さんが付けたものなら……
……いや、なんでもない」
ロイは赤くなった顔を逸らした。
「でも、ロイの元気な顔が見れて良かった。これでまた安心して仕事に打ち込めるよ」
「え、何その『今まで不安で仕事が手につかなかった』みたいな言い方」
「うん、心配で心配で仕事にならなかったよ」
「領主としての自覚を持たんかい!」
帰る直前までとことんマイペースなエリウッド。
ボケボケなエリウッドにツッコミのロイ、まるで親子漫才だ。
「よし……」
エリウッドは愛馬に跨がり、名残惜しそうにロイを見つめる。
「それじゃあ僕はそろそろ……」
「……父さん!」
「ん?」
「……また会いに来いよ」
「……うん!」
「でも勝手にフェレを留守にすんのはダメだからな!」
「あはは、わかったよ」
エリウッドは子供っぽく笑い、手綱を引いた。
「それじゃあ元気で!また会おう!」
皆が手を振る中、エリウッドは馬を駆り夕焼けに染まる道を走り去っていった。
「嵐みたいな親父さんだったな」
「……ったく……とんだ人騒がせな父上だよ……」
ロイは苦笑いし、父が去った道をいつまでも見つめていた。
「ロイ、寂しいか?」
「さ 寂しくねーし!」
赤く染まる頬は夕焼けに照らされたせいなのだろうか。
「(……俺はまだまだ弱い……
もっと……もっと頑張らなきゃ)」
父との実力差を知り、ロイは自分の未熟さを痛感した。
父に追いつくため、そしていつか追い越すため、若き獅子は更なる高みを目指すのだった。
ーーーENDーーー