手合わせ


それはいつもと変わらない平凡な日……
……のはずだった……



「ロイ~~!起きろ~~!」


誰かがロイの部屋のドアを叩く音が聞こえる。

そんなに叩いたら壊れるだろう、と夢うつつになりながら、ロイは寝返りを打つ。


「……ん~……うるせ~な……
…………おわっ!?」

そのままドタンッとベッドから転落して、ロイはようやく目を覚ました。


「ロイ~~~~!」

「いてて……誰だよこんな朝早くに?」

ちなみに現在の時刻は午前10時。決して早くはない。


ドアを開けるとそこにはフォックスがいた。


「フォックスさん……?どーしたんですか……?」

「お前の親父さんが来てるぞ。早く着替えて客間に行け」

「あ~そうですか……父さんが……
………………」

大あくびをして眠そうに目をこするロイ。

が、ぴたりとその動きが止まる。


「………へ?」






「はあああぁぁぁぁ!?」








ロイが客間に行ってみると、確かにそこにはいた。

フェレにいるはずの父親が……


「何でいんのーーーー!!??」

「やぁ☆」

「やぁ☆じゃないよ何してんの!?」

「この紅茶おいしいねー」

「アリティア産のアップルティーです」

「話聞けよ!」


相変わらずマイペースなロイの父、名前はエリウッド。

マルスの入れたアップルティーを美味しそうに飲んでいる。


「付き添いは?フェレ家はどうしたんだよ?」

「ん?僕一人だよ?急に思い立って、3日かけてお忍びで勝手に来たから」

「ふ ざ け ん な 帰 れ 今 す ぐ」

「あはは♪」

「領主が勝手にいなくなったら大混乱になるだろーが!」

「ロイのところにいってきまーすって書き置きはしてきたよ?
それにみんなしっかりしてるし大丈夫だよ」

「(この人絶対領主の器じゃねぇ……)」


父親の見事な身勝手ぶりにがっくりうなだれるロイ。

エリウッドは脳天気にニコニコ笑うばかりだ。

そしていきなりロイに抱きついてくる。


「とにかく会いたかったよロイーーーーーー!!!ゲホッゴホッ」

「そんな状態で来るなよ!」

「だってどうしても会いたかったん……ゴホゴホッ」

「あ~もう……」

こう見えてエリウッドは病弱である。
何だかんだ言いながらも、ロイは父の背中を優しくさすってあげるのだった。


「ロイ兄ちゃんツンデレ~」

「ツンデレだな」

「そんなんじゃねーよ!」


「お水どうぞ」

「ありがとう」

特別な治癒能力のある泉(※マスター談)から汲んできた水を飲むと、エリウッドの体調は少しばかりよくなった。

ロイはいちご牛乳を飲みながら、さっきからため息ばかりついている。


「まぁ来ちゃったもんはしょーがないけどよ……来るなら連絡くらい……」

「したよ?マスターさんに」

「…………」

その場にいた全員がマスターの方を見つめる。

「ごっめ~ん伝えるの忘れちゃった☆」

「……そうか、マスターそこを動くなよ」


ドオオォォォン!!

「ぎゃーーーー!!」

ロイのエクスプロージョンによって、マスターは真っ黒焦げになった……



「……それにしても、ロイとエリウッド様は本当に仲がいいんですね……
何だか少し羨ましいや」

ピチューを抱き上げて、マルスは羨ましそうに二人を見つめる。

「マルスにーちゃんのおとーさんは『げんかく』だったんだもんねー」

「うん。一国一城の主だけあって、とにかく厳しかったっけな。
……すこし、苦手意識もあった」

「へぇ……」

「でも、愛されていたと思います。
遠くに軍行に出ていても、僕や姉上の誕生日には必ず贈り物をくださったし……
いつも僕達のことを気遣ってくれてましたから。
愛されていなければ、僕は父を尊敬したりしません」

「そっか……」


マルスに続いて、アイクも昔のことを思い出す。

「俺の親父もそうだった……
まぁ、妹にはいつも甘かったがな。
特に俺達は既に両親を亡くしているから……ロイが少し羨ましい」

「そうだね……」

それを聞いて、エリウッドは俯いた。

「……そっか……何だか申し訳ないな……
君達の事情も知らず、勝手に息子に会いに来たりして……」

「いえ、お気になさらないでください。
ロイには目一杯お父様に甘えてほしいって、そう思うんです。
あの子強がってるけど、寂しがり屋なところあるから」

「そうなの?」

「何言ってんすか先輩!」

納得いかない、とばかりにロイはエリウッドの座るソファの後ろから顔を出す。


「甘えてるのは父さんの方ですよ?
オスティアに留学してた時だって、毎日のように手紙よこしてきたんだから……」

「だって心配だったんだもん!」

「過保護すぎんだよ!『可愛い子には旅をさせろ』って言葉知らねーのか? 俺は可愛くないけど!」

「そんな四字熟語知らないもん!」

「四字熟語じゃねーし ことわざだし」

「それにロイは僕にとっては宇宙一可愛い息子だもん!」

「だったら可愛い息子には旅をさせて静かに見守っててほしかったんだけどな!」


「……おめーら親子の会話面白すぎる……くくく……」

ピカチュウはロイの横でくすくす笑っている。


「あの頃ロイ凄くおとなしい子だったから心配で心配で……
怪我してないかとかホームシックになってないかとか誰かにいじめられてないかとか授業ついていけてるのかとかうんたらかんたら」

「父さんが心配するようなことねーよ!
……まぁ確かにそれなりに嫌な事されたしバカだから勉強全然わかんなかったけど……」

「えっ!? ちょ……その辺もうちょっと詳しく」

「だあぁ掘り下げなくていいから!
セシリアさんもリリーナもウォルトもいたから全然大丈夫だったし!大事な友達もいたし!
あとホームシックなんかあり得ねーし!むしろ気が楽だったっつの!」

「え?ロイ兄ちゃん、ホームシックにかかって『父さんに会いたい』って一人で泣いて、セシリアさんに慰めてもらってたんじゃなかった?」

「えっそうなの?」

「ちっ……違っ……
だあぁぁネスお前黙ってろおぉ!すぐホームシックになるのはお前だろうが!」


そんな漫才のような親子(とネス)の会話を、周りのみんなは微笑ましく見つめる。

ピカチュウに至っては笑いのツボにはまったらしく、「笑いすぎて腹筋が痛てぇ」と言っていた。


「第一俺が留学して寂しがって病気患ったの父さんの方じゃねーか!」

「寂しかったからじゃないもん!元々体弱かったもん!」

「でも俺が留学した直後に倒れたのは確かじゃねーかよ……
俺マジで留学やめようか悩んだんだからな」

「それはほんとにゴメン……」

「……まぁ、父さんが病気程度に負けるなんて全然思ってないけど」

「そうなの?」

「ああ、父さんある意味メンタルだけは最強だからな。
病弱な割には一人でここに来る元気もあるわけだし。心配してないよ」

この気楽さ脳天気さがあれば、そう簡単にはどうこうなりそうにないと思う。

……あるいは、父が病気なんかに負けるはずがないと、そう信じたいだけかもしれない。






「親父さん、せっかく来たんだし良かったら俺達の乱闘を見ていかねぇか?」

「乱闘?なんだか物騒だねぇ」

「俺達の世界の娯楽みてぇなもんだ。スポーツと考えてもらっていい。
ちなみにロイはいつも俺が鍛えてやってんだけどな」

「違うだろ」

ピカチュウは楽しそうにニヤニヤしている。


「へ~……そう言われたら何か楽しそうかも」

「ロイ、案内してあげたら?二人っきりで」

「いや 俺は……」

恥ずかしいのか、ロイはどこか遠慮がちだ。

「何で?久々に会ったんでしょ?積もる話もあるんじゃないの?」

「い……いいんです!父さんのことならいつも手紙で教えてもらってたし……それに二人きりなんて!」

「素直じゃないなぁ、ロイ坊ちゃん」

「うっせぇピカチュウバカにすんな!」

「単に恥ずかしいだけだろ」

「あーもう!
……えっと……あ、ファルコンさーん!」

その場から逃れるように、ロイは近くにいたファルコンの元に駆け寄った。


「うん?呼んだか?」

「父さんに乱闘を見せてあげたいので、案内をお願いしたいんですけど」

「構わないが……俺でいいのか?」

「ファルコンさん、父さんと同い年だから……きっと話も合うかなって」

「同い年!?随分と若々しいな……
しかし、レーサーである俺と話が合うだろうか」

「父さん、故郷にも歳の近い臣下がいないから……同い年ってだけで、きっとどんな話でも楽しんでくれると思います」

「なるほどな。わかった、引き受けよう」

ファルコンはいい笑顔でぐっと親指を立てた。


「エリウッドといったな!ロイに代わって俺が案内しよう」

「うん、ありがとう。
……僕はロイと行きたかったけどなぁ……」

「う……は 早く行けよ……」


エリウッドとファルコンが去った後、ロイは乱暴に頭をかいた。

そんなロイを見て、ピットはさも楽しそうに笑う。


「何だよ、行けばよかったのに」

「う……」

「ロイ、ホントはお父さんに会えて嬉しいんでしょ?」

「そ そんなんじゃねーよ!」

「人の感情に敏感な天使である僕に嘘がつけるとでも?
僕知ってるよ、ロイがお父さん大好きなの」

「な゛っ」

「こないだマルスさんが『エリウッド様は凄い騎士だ』って言ってたとき、ロイすっごいドヤ顔してたじゃない。
手紙貰った時だって、いつもニコニコしてたもん」

「そ そんなバカな」

「まったく、ホント素直じゃないんだから」

「う うるせーな……」


認めたくはないが否定も出来ない。

ロイは照れ臭そうに、ほんのり顔を赤くするのだった。
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