Super Smash Bros. Brawl
スマッシュファイターの住まう巨大なお屋敷に、また一人お客がやってきた。
黄緑色の髪が印象的な好青年。
「ここがエリウッド様の言ってたお屋敷かな……
思ったより大きいなぁ……」
驚くのも無理はない。
ここは40人以上のファイターと、創造・破壊の神が何不自由なく快適に過ごすことが出来るように様々な部屋や設備が整っているため、そんじょそこらのテーマパークよりも敷地が広いのだ。
「えっと……どこに行けばいいのかな……」
辺りを見回していると、青いボールが少年の前方に転がってきた。
「……ん?」
「ピチュー、ボール向こう行った!」
「とってくるー!」
子供の声が聞こえたかと思うと、長い草をかき分けて黄色い子ねずみがボールを取りに走る。
「なんだろ……黄色い……ネズミ……?」
少年が不思議に思っていると、子ねずみがこちらに気づき首を傾げる。
「? どなたですかー?」
「(……喋った!?)
あ……うん、ちょっと聞きたいんだけど……『ロイ』って子、ここにいるかな?」
「いるよー!
ボク、いつもロイにーちゃんあそんでもらってるの!」
「ほんと?」
「うん!」
「ロイ」の名を聞いてピチューは嬉しそうに笑う。
すると、茂みの中からネスやトゥーンも顔を出した。
「ピチュー何やって……あれ?あなたは……」
「あ、こんにちは」
「ロイにーちゃんのおともだちなの! そーだよね?」
「え? あ……うん、まぁそんなとこ」
「おいらロイ兄ちゃんの持ってた写真で見たことある!ウォルトさんだよね!」
「う うん、よく知ってるね」
おいら人の顔を覚えるのが得意なんだ、とトゥーンは自慢気に言う。
「ボク、ロイにーちゃんにおしえてくるね!」
「じゃあ僕達が客間に案内するよ!」
「ついてきて!」
「あ……ありがとう」
ピチューはロイに知らせるために急いで屋敷へ戻っていく。
その少年──ウォルトはネスとトゥーンに連れられ、客間へと案内されたのだった。
ピチューはリビングのソファで雑誌を読みふけるロイを見つけた。
「ロイにーちゃん!」
「ん? どうした?」
「ロイにーちゃんのおともだちがきてるよ!」
「友達?
俺ここにいる奴ら以外にダチらしいダチなんかいねーんだけど」
「ロイ……自分で言ってて悲しくない?」
「…………」
リンクに言われて、ロイはちょっぴり自己嫌悪に陥った。
「え~と……だれだっけ……
あのね、かみのけがキャベツみたいないろしてた!」
「キャベツ……?
……あぁ、もしかしてウォルトかな」
「そうそう!そのひと!」
「(キャベツ色の髪の毛でわかるのか……)」
「何でまたウォルトが……?こないだは父さんが来たばっかなのに……」
そう疑問に思いながら、ロイは携帯でマスターに電話をかけた。
『はいお電話ありがとうございま~す♪
こちらイケメン・最強・親切が売りのマスターハンドの携帯でs「うるさい個人の携帯でいちいち自己紹介すんな」
『……んも~ロイってばつれないなぁ……
で、どーしたの?』
「何かウォルトが来てるらしいんだけどマスター何か聞いてる?」
『……あぁ!そうだった!
あのね、何か昨日キミのお父さんから『明日あたりウォルトがそちらに向かいますからよろしくお願いします』って連絡が』
「そんな大事な連絡忘れるとかマスターいっぺん死んどけよ」
『え……ちょ、ロイ待って待っ』
マスターの言い訳も聞かず、ロイは電話を切った。
父エリウッドの時と同じように、マスターはまたロイに知らせるのを忘れていたらしい。
ロイはため息をつきながら、着替えるため部屋に戻っていった。
……さすがにタンクトップ姿はウォルトには見せられない。
「……おいしい!」
「よかった、ロイもこの紅茶好きなんだ」
その頃、ウォルトはマルスの入れた紅茶を飲んでロイが来るのを待っていた。
ピカチュウも、茶菓子や果樹園で採れたモモンの実をテーブルに並べる。
「あの、ロイは……」
「お前の親友なら、今タンクトップでソファに寝っ転がってカラ●ーチョをつまみながらグラビア誌を読み漁っ……ぐぇっ」
ピカチュウの脇腹に強烈な跳び蹴りがクリーンヒット。
「ウォルトに何言ってんだてめぇは!」
「あ、ロイ……」
「ちっ、もう来やがったか……
おまえの兄弟兼親友とやらに普段のお前の様子を話してイメージぶち壊そうと思ったのに」
「や め ろ」
久しい友の姿を見て、ウォルトは嬉しそうに立ち上がる。
「久しぶりだね、ロイ」
「おう……
何でまたいきなり来たんだ?」
「こないだエリウッド様が勝手にこっちに来たでしょ?
それで帰ってきた後、僕凄く怒ったんだ……『もっと領主としての自覚を持ってください』って。
そしたら何故か『ウォルトも会ってきたら?』みたいな話になって……
せっかくだから暇をもらってきたんだ」
「そっか」
「あ……ごめんね、ロイのお父さんなのに……生意気に怒ったりして」
「いや、いいんだ。父さんには少しキツく言っとかないと」
ウォルトに怒られた後のエリウッドは暫くの間、かなり落ち込んでいたらしい。
「それにしても身長伸びないね、ロイ」
「うるせぇお前が無駄に伸びてるだけだろ」
二人の何気ないやり取りを見つめながら、トゥーンは不思議そうに首を傾げる。
「ロイ兄ちゃんとウォルトさんって幼なじみなの?」
「幼なじみっつーか……」
「ロイと僕は乳兄弟だから」
「乳兄弟?」
「血の繋がりはないけど、兄弟同然に育った間柄のことです」
「俺はウォルトの母さん……レベッカさんに育てられたんだ」
「なんで?ロイ兄ちゃんのお母さんて……ニニアンさんじゃないの?」
「……ニニアン様はロイを生んだ後……満足に子育てが出来ないほど弱ってしまったんです。
だから母様が、1歳になったばかりの僕と一緒にロイの世話もすることになって……」
「そうそう、褒める時は褒めて叱る時は叱る、しっかりした母!って感じだったよなー」
「今も変わらないよ」
「そうだな、帰省すると1回は何かしら怒られてるわ、俺……」
ウォルトの母、レベッカはかつて若き頃のエリウッドの軍に同行していた。
おてんばな性格で弓の才能を生かし活躍していたという。
ウォルトの弓兵としての素質は母と父から受け継いだものだ。
「じゃあ、ほとんどロイが生まれた時から一緒にいるんだね」
「まぁな」
「それじゃホントに兄弟みたいなもんだな」
「はい」
ウォルトは嬉しそうに頷く。
代わってロイはちょっぴり恥ずかしそうだ。
「……元々は兄弟でも友人でもなく、本当にロイの臣下の一人として接していたんです。
でも色々あって……ロイに、友達として接して欲しいって言われたから改めたんですよ」
「めっっちゃくちゃ渋ってたけどなー」
「ロイが接し方を改めないともう口きかないとか言うからでしょ……」
「ワガママなお坊ちゃんだよなぁ」
「うっせぇピカチュウ黙ってろ」
「ロイ、口が悪すぎるのも良くないよ?」
「別にいーだろ」
「少しはあなたも次期領主としての自覚を持ってくださいよ、ロイ様?」
「その喋り方やめろっつってんだろ?
お 兄 ち ゃ ん?」
「お……お兄ちゃんはやめてって何度も……!」
そんな二人の会話を聞きながら、マルスはにこやかに微笑んだ。
「……ロイにとってウォルト君は……誰よりも一番心の許せる相手なのかもね。
ロイがつらい時……いつも傍にいたのはウォルト君だった……
ウォルト君はロイの心の支えなんだ」
「確かに、ウォルトがいなかったらロイは今も引きこもってたかもな」
ウォルトとロイは親友、兄弟、そのどちらをも超えた信頼関係で結ばれている。
だからこそ、ロイはどんなに辛くても頑張ってこれた。
ロイがここまで明るくなれたのはウォルトがいたからなのだ。
「ウォルト君、紅茶のおかわりは?」
「あ……いただきます」
「見てみてロイ兄ちゃん変な顔ー!」
「あっははは!」
「バッ……これいつ撮ったんだよ!?」
ウォルトが紅茶を飲んでいる間も、ロイは子供達に囲まれアルバムを眺めている。
ロイまで子供みたいだなぁ、と思いながら、その無邪気さに笑みがこぼれた。
……ただ一つ、どうしても気になることがあったが……
「ふふ……ロイってば楽しそうだね」
「はい……
……あの……マルス様……」
「ん?」
「……ここには色んな人がいるんですよね……
……ロイは……みんなと打ち解けられているんでしょうか?
あの子……妙に強がったりするから……
ホントは誰かに嫌われてたり……いじめられたりしてないか心配で……」
「……大丈夫、君が心配するようなことは何一つ無いよ。
ここに来てからロイは友達もたくさん出来たんだ。
僕とアイクには剣術も教わってるし、子供達には兄みたいに慕われてるし……
……こないだの誕生日なんか、みんなでサプライズで祝ったりしたしね」
「……そうですか……」
「例えるなら……太陽かな」
「太陽?」
「うん、ほら見て、あの笑顔」
ウォルトは子供達に囲まれているロイを見つめた。
とても無邪気で元気な笑顔。
「あの笑顔を見ると、何だかこっちも元気になるんだ。
辺りを明るく照らす太陽みたいに……ロイはみんなにとって必要な……大事な存在になってる」
「ロイのあんな笑顔……初めて見たかも……」
「ロイはみんなのことが大好きだし……みんなにも愛されてるよ」
凄く小さい頃からずっとロイと一緒だった……
凄く大切な存在だった……
それなのにあんなことがあって……みんなに嫌われて……傷つけられて……
いつしかロイは全然笑わなくなった……
そんなロイが……今はとても幸せそうに笑っている……
「あんなロイの笑顔が見れるなんて……思ってもいなかった……
ロイは今……凄く幸せなんですね……」
ウォルトは安心して微笑んだ。
「……よかった……」
そこへ、リンクとファルコンが大皿を持って客間に入ってきた。
「みんな、サムスさんのお菓子が焼けたよ!」
「わーい!」
「ウォルトとやらも食え!サムスの作る菓子は美味いんだぜ?」
「あ……はい!いただきます!」
「おいしそー!」
「飲めー!食えー!歌えー!」
「ちょ……何この宴会のノリ……」
その後、ウォルトを交えての宴会(?)は日が暮れるまで続いたのだった……
「もう帰るの?」
「はい、あまりフェレ家のみんなに迷惑はかけられないので」
「真面目だなぁ……父さんと違って」
「皆さん、ロイのこと……よろしくお願いします」
「うん」
「任せとけ」
何が任せとけだ、とロイはピカチュウの両耳を引っ張る。
「じゃあね、ロイ……
たまにはフェレにも帰ってきてね」
「おう」
元気でな、というロイ達の見送りを背に、ウォルトは馬を走らせた。
久々にロイの顔が見られて嬉しかった。
元気そうで、上手くやっていけてるようで安心した。
何よりロイが、皆を輝かせる太陽のような存在であったことが、一番嬉しかった。
馬を駆りながら、ウォルトは心の中で願う。
「(いつまでもロイが、皆の中で輝き続ける太陽でありますように……)」
ーーーENDーーー