竜の血
死闘を繰り広げていたロイとアイク達。
ファルコは空から攻撃し、フォックスはアーウィンを降り後方から援護する。
「ファイアフォックス!」
「ファイナルカッター!」
「マルス危ない!」
「……見切った!」
ずっと見ていただけのマルスも、あまり積極的にではないが剣を振るう。
「……手は出さないんじゃなかったのか」
「君の言う通り、ロイは会話で説得出来るような素直な子じゃないみたいだからね」
今回だけは君のやり方に乗じるよ、と少しだけアイクに笑いかけた。
やがてロイの動きは次第に鈍くなり、攻撃がぴたりと止んだ。
「! 動きが止まった……」
「……みん……な……?」
「ロイ!」
「わかる!?僕だよ!」
「……マルス……先輩……アイク先輩…… みんなも……何で……」
「君を助けに……連れ戻しに来たんだよ」
「俺を……連れ戻しに……?」
その途端、ロイは脱力しその場に崩れ落ちた。
「ロイ!」
「……しっかりしろ」
「……俺……またやっちまった……」
「いいんだよ……ほら、立てるかい?」
竜化こそ解けないものの、ロイは完全に自我を取り戻している。もう大丈夫そうだ。
「あんな置き手紙残しやがって……
ほら、帰るぞ」
だが、ロイは首を横に振る。
「……出来ません」
「?」
「……俺は……あそこには帰れないです……」
「何でだよ?」
「俺の力はマスターやクレイジーさえ苦戦するような強大なものです……
この森の有り様を見たでしょ?」
緑生い茂る森は、ロイの力によって氷河期のごとく氷に覆い尽くされてしまった。
氷が溶け、森として再生できるまでには多大な時間が要る。
もっとも、マスターの力があれば問題はないが、マスターは一度作り上げた秩序ある世界を、自らの勝手で乱すようなことはしない。
「あのお屋敷でそんなことになったら……俺は全てを壊してみんなの大事なものも……何もかも奪うかもしれません。
……仲間を失うことも……あるかもしれません」
ロイはうなだれ、悲しそうな瞳で呟いた。
「……俺には……みんなといる資格なんて……」
「何言ってんだよ!ロイのバカ!」
「!」
振り向けば、そこにはピットの姿があった。
傷を押さえ、今にも泣きそうな顔でロイを見つめている。
「何でそんなこと言うんだよ!ロイは何にもわかってない!」
「ピット……」
「みんながこんなにロイのこと心配して探してくれたのは何でだと思ってるの!?
ロイが大事な仲間だからだよ!」
ピットはロイの元に駆け寄ると、大きな体にぎゅっと抱きついた。
「……ロイがいなくなるなんて……そんなの僕が絶対に許さないから……」
「……こんな姿でも……俺を受け入れてくれるのか……?」
「当たり前でしょ! どんな姿だって……ロイはロイだもん!」
「俺は……お前を傷つけたのに……?」
「そんなの気にしてない!怪我はいつか治るもん。
そんなのより、ロイとの友情が壊れちゃう方がよっぽど嫌だよ……」
「……ごめん……ごめんピット……」
「……何でも一人で抱え込もうとしやがって……
最初から素直になれってんだよ……バカ……」
ピットはそのままロイから離れなかった。
かすかに体が震えている。 ……泣いているのだろう。
「みんなも……迷惑かけてごめんなさい……」
「気にすんな!いいってことよ」
「そうだぜ……仲間のためだ、このくらいの手間なんてことねぇよ」
亜空軍の時みたいにアーウィンが墜落したわけでもねぇしな、とフォックスは笑う。
そこへ、宇宙船──ドルフィン初号機が着陸した。
……否、着陸と言うには少々荒っぽいが。
降りてきたのはリンクとルイージ。それぞれ着陸時に体を痛めたのか、腕や背中をさすっている。
「ルイージさん……リンクさん……」
「途中でオリマーさんの宇宙船に乗せてもらったんだ」
「……最後の最後で酷い目にあったけどね……」
『文句ならオリマーさんに言ってくださいね〜』
そう答えたのはドルフィン初号機。この宇宙船は人工知能を備えており、高度なコミュニケーションを可能とする。
『無事に着陸できなかったのはオリマーさんの腕の問題ですから』
「は?むしろ私の腕前だからこそあの程度で済んだのだが? 私でなければ頭から真っ逆さまだぞ」
ぶつくさと文句を言いながらオリマーが宇宙船から出てくる。そしてその肩には……
「ロイにーちゃん!」
今にも泣きそうな、黄色いこねずみポケモンの姿があった。
「ピチュー!?」
「私も後から宇宙船を飛ばそうとしたら、ちょうど起きてきたピチューがロイがいないのに気づいて大泣きしていたんだ。
それでどうしてもついて行くと言うから連れてきた。ピカチュウにも頼まれたしな」
「……ロイにーちゃん、ボク、こわくないよ。
こんなにおっきくなっても、ロイにーちゃんだってわかるの。
ボク、ロイにーちゃんのことだいすきなんだよ……だから、どこにもいかないで……」
それだけ言って、ピチューはわんわん泣き出してしまった。
こんなにも自分を心配してくれた人達がいたのかと、ロイの胸が熱くなる。
「帰ろう、ロイ……屋敷のみんなも待ってるから」
「……いいのか……?
俺はこれからも……みんなと一緒にいていいのか……?」
「もちろんだよ」
「……誰も……ロイにいなくなってほしいなんて……思ってない」
「ロイ……ロイは僕よりずっと長くみんなと一緒にいるんだから……みんなのことよくわかってるはずだよ。
誰もロイを遠ざけたりなんかしない……みんなロイの全てを受け入れて接してくれる……
それがスマッシュファイターだよ」
ピットの言葉を聞いて、ロイは大きくうなずいた。
自分は、ここにいていいんだ……
ここが、自分の居場所なんだ……
「……ありがとう……みんな……」
それから数十分後。
「まったく……ピットが無茶しないように着いてきたつもりだったのに……」
「結局、僕たちを置いて先に行くなんて無茶したよね?あとでドクターにしっかり怒られなよ?」
「はぁい……」
戦い疲れた体を休めている中、ピットはルイージとリンクにお叱りを受けていた。
「アイク、マルス、お前たちも帰りはドルフィン初号機だからな。狭いが我慢するんだぞ」
「あ、はい」
「またあんな感じで着陸するのか……?」
「安心しろ、あれ以上もあれ以下も無いからな」
ニッコリ笑うオリマーの言葉に、「せめて首だけは絶対やらないように気をつけよう……」と覚悟したアイクとマルス。
そろそろ帰ろうかという時、ピットはロイに声をかけた。
未だ、身体は元に戻らぬまま。
「人間には戻れそうにない?」
「うん……力も気分も落ち着いてるのに……」
自分で竜の力をコントロールすることはできない。
故に、自然に戻るのを待つ他ないのだ。
「……ねぇロイ、空って飛べる?」
「え?」
「僕は天使なのに飛べないけど……ロイも翼があるから気になって」
「……あー……確かに……」
言われてみれば、背中には翼が生えている。
故郷の氷竜には翼は生えていない。
それなのに翼があるのは──マスターとクレイジーのみが知る、この世界の創世時に生じた『歪み』の影響である。
「……やってみるか」
飛び方なんて全く分からないけど。
故郷で見た飛竜をイメージしながら、翼に力を込めてみる。
感覚的には、いけそうな気はする。
ロイは地面を蹴って全力で翼を動かした。
砂埃を上げながら、不安定ながらも巨体が宙に浮く。
「なんか……やってみたら出来たわ」
「腹立つ言い方だなぁ」
それ天才の言い方じゃん、とピットは笑う。
ロイはフラフラしながらも空を軽く一周した。
下にいるファイター達は落ちてこないかハラハラしながら見ていたが。
「これなら俺、飛んで帰れそう」
ある程度飛ぶのにも慣れて、ロイは地面に降りてきた。
「じゃあさ、僕を背中に乗せてよ!」
「ボクもー!」
キラキラした目でピットとピチューが見つめてくる。
「……わかった。いいよ」
ロイはピットとピチューを背中に乗せ、空高く飛び上がった。
「わあぁ!」
「しっかり掴まってろよ!」
「よーし、ボクたちも帰ろ!」
ロイに続いて、ワープスターにカービィが飛び乗り、続いてアーウィンやドルフィン初号機が飛び立った。
帰るべき家に向かって、しばしの空の旅だ。
「すっごーーい!」
「建物があんなに小さく見える……それに風が気持ちいいなー♪」
「飛んでる最中に元に戻ったら何もかも終わるけどな」
「怖いこと言わないで!?」
「大丈夫だよ、自分で戻れそうだなーってのは何となくわかるから。いざとなったら降りるよ」
「……ホントに?信じるよ?」
「ボクはしんじるー!」
「よしよし、ピチューはいい子だな」
「僕も信じるよ!?良い子だもん!」
「……いい子かぁ?」
「なんだよその疑いの声!いい子でしょ、僕!」
「そうかな〜」
「もーー!」
竜の姿で、こんな風に親友と笑いあえる日が来るとは思わなかった。
みんなありがとう……
俺……こんなに愛されてるなんて思わなかった……
凄く幸せ者なのに……今まで気づいてなかったんだ……
その頃、フォックスから連絡を受けたマスターとクレイジー、ファイター達は屋敷の外で皆の帰りを待っていた。
「よかったぁ~、何とか上手くいったみたいだね!
それよりさ、それよりさ、オルディン大橋でロイを止めたときの私カッコよかったよね! ねっ!?」
「……お前なぁ……せっかくの感動のエンディングをぶち壊すなよ。空気読めクソ右手」
「あ、みんな帰ってきた!おーい!」
屋敷の外でのんきに手(全身)を振るマスターの姿はロイ達にも丸見えだったわけで……
「……ロイ、ウザい右手がいる……凍らせちゃって」
「え? う……うん」
ピットに言われ、ロイは息を吸い込み狙いをマスターに定める。
マスターの周りにいたクレイジーやファイター達は瞬時に退避した。
「あれ?ちょ、何すんのロイ?待ってまっ…」
「よーし!やっちゃえロイ!」
「『氷のブレス』!」
「ぎゃーーー!?」
ブレスの直撃を受け、マスターの体(右手)は瞬時に凍りついた。
「……バカだろこいつ」
クレイジーの呆れたようなセリフ、皆の笑い声……
そんな賑わいの中で、ロイ達は無事に庭へと降り立った。
「ロイ!おかえり!」
「わぁー!おっきな体ー!」
「肌が凄く硬いよー!」
「お……お前らあんまり触るなよ……」
案の定、子供達には大人気。
その大きさに驚く者、もの珍しそうに観察する者もいたが、誰一人としてロイを怖がる者はいなかった。
皆に囲まれるロイを見て、クレイジーはホッとしたような、安心した表情を見せた。
「……よかったな、ロイ」
「……おかわり!」
「まだ食べるの!?もう5杯目だよ!?」
「だって家出てから何も食べてねーもん!」
朝食のはずが、すっかり昼食になってしまったダイニング。
あの後、無事に元の姿に戻ることの出来たロイは普段よりも物凄い食欲で食べ物をかきこんでいった。
「それよりピットは?」
「ピットなら絶対安静って言われてたのに屋敷飛び出したから、ドクターにみっちり叱られてるよ」
罰と称して変な薬物を投与されなければいいのだが。まぁ、仮にも医者なので怪我人にそんなことはしないか。
「マスターは?」
「まだ凍ってるって」
あれ以来、マスターは誰にも助けてもらえず終点で凍りづけのまま放置されている。
クレイジーでさえ「うるさくなくて気が楽だからこのままでいい」と知らんぷりだ。
「……後でさりげなく謝った方がいいかな……」
「いいんじゃないか?これに懲りてマスターも大人しくなってくれれば……」
「それはない」
「ねぇな!」
フォックスの言葉に、オリマーとファルコが即答した。
「だが、いつまでも終点にいられたら邪魔だな……」
「じゃあ後でまた俺がロケット頭突きで亜空間まで吹っ飛ばしとこうか?」
「そうしてくれ」
サムスとピカチュウのやり取りに皆が笑う。
「リンクさん!おかわり!」
「どんだけ食べるの!?」
こうして、ロイは今まで通り皆と共に暮らすことになった。
マスターの氷が溶けたのは、それから3日後の事だったという……
「……あ……まだみんなに言ってなかったな」
「?」
「……ただいま、みんな」
「……お帰り、ロイ!」
ーーーENDーーー