竜の血


いつものように朝食の準備を進めるメンバーの元に、慌ただしく駆けてくるピンク玉、カービィ。

「大変だよぉ!
ロイがいなくなっちゃった!」

「え……!?」

「部屋にこれがあったの!」

カービィが皆に手渡したのは置き手紙。

上手とはいえない、書き殴ったような独特の文字は紛れもなくロイのものだ。

代表して、マリオがそれを読み上げる。


『ファイターのみんなへ


勝手にいなくなる無礼を許してください。

だけど、俺の氷竜としての力がいつ暴走するかわかりません。
そのせいでまた誰かを傷つけることになったら……俺は耐えられません。

だから……俺は誰にも見つかることのない場所に身を隠します。

誰も……探さないでください。


今までみんなと一緒にいられて、本当に楽しかった……

ピット、こんな俺と仲良くしてくれてありがとう。
無意識とはいえ、大事な友達なのに……傷つけてごめんなさい……

マルス先輩、アイク先輩、剣の稽古をつけてくれてありがとうございました。
二人の教えを忘れずに剣士として生きていきます。

みんな、本当にありがとう……

……さようなら


ロイ』



「……ロイ……」

ピットの瞳から、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。

「……やだよ……ロイがいなくなっちゃうなんて……僕……嫌だ……」

「ピット……」

「ロイに行くアテはあるの!?」

「文面を見る限り……故郷に帰るつもりもないみたいだね……」

おそらく誰もいない、誰も傷つけない場所へ行こうとしているのだろう、とマルスは推測した。


「今から探せば間に合う!まだそんな遠くへは行ってないはずだ!」

「ルカリオ、ロイの波導を探れるか?」

マリオに言われてルカリオは意識を集中させるが、すぐに首を横に振った。

「……無理だな……周囲1kmが限界だ。少なくとも1km以内にはいない」

どこにいるかはわからない。
だが、それでもとにかく探すしかない。




「ボク、ワープスターで空から探すよ!」

カービィに続いて、ファルコ、フォックスも立ち上がる。

「フォックス!アーウィン飛ばすぞ!」

「あぁ、ちょうど調整終わったばっかりで試運転したかったしな!」


「みんな……」

朝御飯もまだまともに食べてないのに、それぞれがロイの為に動き出す。

「こんなに自分を心配してくれるいい仲間がいるってのに……何で出ていっちまったんだよ……ロイの奴……」

マリオがそう嘆く横で、ピットはふるふると体を震わせている。


「……僕……傷つけられたからってロイのこと嫌いになったりなんかしない……
竜の姿になってもロイはロイだし……もし我を忘れるようなことがあっても僕が自我を取り戻してあげたい……
どれだけ傷ついたって構わない……
だって一番傷ついてるのは……ロイなんだもん……」

「ピット……」

「ロイは僕の大事な親友なんだ!
僕も行きます!」

「で……でもまだ怪我が……」

「大丈夫です!」

「……ピットは時々頑固だからね……天使らしくない」

「う……」

ルイージの言葉に息詰まるピット。

本当ならば、まだ絶対安静で寝ていなければならない。
けれど、友達を放ってはおけなかった。

そんなピットを見て、ルイージは小さくため息をつくと、帽子を深く被り直した。

「……まぁでも……友達を思う気持ちを見込んで……僕も行く。
……まだ完治してないピットに何かあったら困るし……」

「そうですね。
……当然、僕も行くよ。ピット君が無茶しないようにしっかり見てなきゃ」

「ルイージさん……リンクさん……
ありがとうございます!」

そんな彼らに続いて、、マルスとアイクも身支度を整える。

「大事な弟分が行方不明だっていうのに、大人しくなんかしてられる訳ないよね」

「……当たり前だ。ロイを探す」


こうして、捜索部隊はのんきに「行ってらっしゃ~い♪」と傍観しているだけのマスターをそれぞれ張り倒し、ロイ捜索に向かった。


朝食を作らなければならないはずのリンクまで捜索に出てしまったため、続きは屋敷に残ったゼルダやサムスに託された。

「先に食べていていい」、とは言われたが……

あのカービィですら食事を後回しにして捜索に出掛けたのである。

残った者達だけで食事を済ませるのはやはり気が引けた。


「彼らが帰ってきた時のために、もう少しおかずを増やしておきましょう」

「そうだな。帰る頃にはだいぶ腹を空かせているだろう」

「ポポ、ナナ、みんなのお皿用意しておいて!
もちろんロイの分もね。
みんなも手伝ってくれるわよね?」

「はぁーい♪」

「サムスの為なら例え火の中電気の中だぜ。
で、俺は何をすればいい?」

「あそこでのびてる右手袋を片付けてきてくれ」

「ラジャー」


ピカチュウが右手袋を、最大溜めのロケット頭突きで遥か彼方へ吹っ飛ばしているのと同じ頃……






一人屋敷を出ていったロイは、深い森の奥で地面に突っ伏していた。


突然めまいと息苦しさに襲われ、しばらくじっとしていたのだが、一行に良くならず悪化するばかり。

やがて襲ってきた、焼けるような体の熱さ……

「う……あっ……」


間違いない、これは昨日と同じ……

また……力が暴走してしまう……!


「(ダメだダメだ、竜の血なんかに負けるな……!)」

だが、竜の血は人間としてのロイの意思などお構いなしにざわめきを増す。

「うあああっ!」


人間のままでいられず、竜と化してしまっても、ロイは自我を保とうと己と戦っていた。

「(耐えろ!耐えるんだロイ!)」






森へやって来たアーウィン。

だが、緑が生い茂っているはずの森は、まるでそこだけ別世界になったかのように凍りついていた。


「森が……凍ってる……」

悲惨な光景を目の当たりにしながら、アーウィンの高度を下げ慎重に飛ばす。

どうもこの辺りが怪しい。


「! フォックス! あれを見ろ!」

見れば、森の真ん中で暴れている水色の竜がいる。

「間違いねぇ……ロイだ! 早く止めねぇと!」

即座にフォックスは屋敷にいるファイターと、同じように捜索しているファイターに連絡を取った。

「こちらフォックス……森で暴れてるロイを発見した!今から止めに行く!」



氷のブレスで次々と木々を凍らせていく水色の竜。
面影は残っていないが、雰囲気がどことなく​──"彼"そのものを思わせる。

「ロイーーッ!」

「グルルゥ……」

振り向けば、アーウィンを飛ばして向かってくるフォックスとファルコの姿。

ロイはそんな二人にも容赦なく攻撃を仕掛けてきた。

「うわぁっ!」

「うろたえんなフォックス!この程度も避けられん操縦しか出来ねぇのか!?」

「……調子に乗んなよ、ファルコ!」

ロイの容赦ない攻撃を、フォックスとファルコの類い稀なる操縦術で避けていた時……


「せいやあぁっ!」

投げた剣をジャンプして掴み、着地と同時に叩き斬る奥義、「天空」。

見れば、アイクがロイと対峙し、マルスが慌てて走ってくるところだった。

元々この近くを探索していたらしく、轟音を聞き付けてやってきたのだった。

「……アイク!それにマルス!」



「……やっと見つけた……ロイ」

竜化したロイを見つめるマルスの瞳は、どこか寂しそうである。

そんなマルスとは別に、単身力ずくでロイを止めようとアイクは剣を構える。


「ロイ……目を覚ましてよ……一緒に帰ろう?」

「ふんっ!どりゃあっ!」

「僕はこのファルシオンで君を斬りたくはないんだ……」

「甘いっ!」

「だからさ、ロイ……」

「天・空っ!」

「ねぇちょっとアイク!人がせっかく言葉でロイの目を覚まさせようと……」

「これが俺のやり方だ」

「乱暴すぎない!?まずは声をかけて諭した方がいいと思うんだけど!」

「声掛けで聞くような性格でも状態でもないだろう。俺は俺のやり方であいつの目を覚まさせる」

「あぁーもう……君のそういうところ……」



「何くだらねェ言い合いしてんだ奴ら」

「というか二人とも危ないぞ!」

「!」

フォックスが叫んだ時にはもう遅く、もうロイが氷のブレスを二人に向かって放つ瞬間だった。


だが……

「うおりゃー!ハンマーくらえーっ!」

真横からの強烈なハンマー攻撃がロイの体を直撃し、轟音と共に地面に倒れる。

それとほぼ同時に、ハンマーを手にしたカービィがワープスターから飛び降り、アイクとマルスの前に着地した。

「カービィ!」

「……すまん、助かった」

「危なかったね!ロイのブレスはフリーザーやガルアイスみたいに甘くないから気をつけて!」

しかしロイが自我を取り戻すことはなく、体勢を立て直しなおも睨み付けてくる。

「グルル……」

「そう簡単には戻ってくれないみたいだね……」

戦闘体勢をとるカービィとアイク。
その後ろでは、マルスが不安げな瞳でファルシオンを握りしめていた。



その頃……


「はぁ……はぁ……
どこにいるんだよ……ロイ……!」

ピットは一秒でも早くロイの元へ行こうと走り続けていた。

天使は人間よりもずっと足が速い。
身体を案じるリンクとルイージを置き去りにしてきて、ただ森の中をひたすら駆け抜けた。

しかし、傷を負った腹部は痛み、先を急ぎたいピットの意思を邪魔する。

こんな時、普通に空を飛べたら良かったのに。
自分が飛べないことを、こんなにも腹立たしく思ったことは無い。


「痛みなんてどうでもいい……早くロイのとこに行かなきゃ……!」

ピットは傷を押さえ、なおも轟音轟くロイの居場所目指して走り続けた。
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