短編


お父さんと同じ赤い髪が好き

お父さんが誉めてくれるこの赤い髪が好き


これは自分にとっても一番の誇り……



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「…………」


目を開けて一番最初に見たのはクリーム色の……ソファの背もたれ。

そういえば昼寝をしていたのだと思い出し、まだ若干残る眠気に再び瞳を閉じようとする。


そんな時……

誰かの手が、そっと襟足に触れた。


「うひぁうっ!?」

変な声をあげて慌てて飛び起きる。

お陰でパッチリ目が覚めた。


振り返れば、キョトンとした顔のピットがいた。


「なっ……ななな……何!?」

「あ、ゴメン」

「襟足触られんのは苦手なんだよっ!
一気に眠気吹っ飛んだぞオイ!」

「……ふむ、襟足が弱点……と」

「そこメモるな!」


ピカチュウはニヤニヤ笑いながらメモ帳に「襟足が弱い」と書いた。

表紙には『ロイの弱みノート』の文字が。


「今すごい声出したね、『うひぁう』って」

「やめてください恥ずかしい……」

マルスやレッドに笑われて、ロイは恥ずかしそうに顔を赤らめる。


「ったく、気持ちよく寝てたのに……」

「ごめん、でもロイってすごい赤毛だなーって思って」

「だからって何で襟足触るんだよ!?」

「いや、何となく」

「確かにすごい赤いよね」

「うん、赤い」

「……何だよ?
赤い髪がそんなに珍しいか?」

「いや別に……ガノンドロフも赤毛だし」

クッパのたてがみもな、とマリオが付け加える。

だが、茶髪と金髪が大半を占めるこのお屋敷で、赤髪はやはり珍しいかもしれない。


「見事な赤色だよな、マジで」

「白髪とか混じってねーのか、白髪とか」

「ねーよ!
ちょっ……触んな!」

「あ、あったよ?若白髪」

「うそっ!?」

「嘘だよー」

「なっ……からかうんじゃねぇ!」

ピットやコリンが面白がってロイの髪をいじり出す。

「いだだだ!引っ張るな!」

「髪多いなお前」

「髪の多さは母さん譲りで……って
あああ襟足はやめろおぉ!」

「いい匂いのシャンプー使ってるね」

「あ……ありがと……ってだからピカチュウ襟足触んなって!」

「あはは、鳥肌立ってんじゃんお前」

ピカチュウは先ほど弱点だと知った襟足を触りまくって、さも楽しそうに笑っている。


「……ったく……人の髪好き放題イジりやがって……」

「悪い悪い」

ため息をつきながら、皆に触られてボサボサになった髪を整える。

整えても、元々爆発しているせいかあまり変わらないが。


その時、ピットがぽつりと呟いた。


「……僕、ロイの髪好きだなぁ」

「え?」

その一言に、トゥーンやコリン達も確かに、と盛り上がる。


「おいらも好き!」

「赤ってところが炎属性のロイ兄ちゃんにピッタリだしね!」

「氷属性でもあるけどな」 

「赤ってロイそのものだよね。僕も好きだな」

マルスにも誉められて、ロイは何だか照れ臭くなった。


「へへっ……何かすげー嬉しいな……
……俺、自分の髪誉められるより……バカにされることの方が多かったから」

「……そうなの?」

「うん。
……この髪のせい……とは言いたくないけど……嫌な目にも遭ったよ」



ロイの頭に浮かぶのは、まだフェレで暮らしていた頃のこと。


赤い髪を持つ者は、ロイの他にも父エリウッドや家臣のアレンなどがおり、それほど珍しいものではなかった。


けれどロイは人ならざる者。

それが知られていたことが原因となったのかもしれない。

ロイは自分の髪のことを悪く言われることが度々あった。


「……赤い色が気持ち悪いとか……生意気だって言われてさ……
……一度だけ、ボサボサに髪切られたこともあった」

「……ひどい……」

「……悔しかったよ。だって俺の赤い髪を悪く言われるのは……父さんの髪を悪く言われるのと同じことなんだから」

「そっか……」

ロイは自分よりも、父親のことをバカにされた気がして、悔しくてたまらなかった。

同時に、何も言い返せなかった自分が情けなくなった。


「父さんだけが、俺の髪を誉めてくれた……
小さい頃にいつも頭を撫でて、好きだって言ってくれたんだ。
この髪は俺の誇り……
父さんと同じこの髪が大好きだから……
だから、悪く言われるのはホントに悔しかった」

「…………」

「何かゴメンな、雰囲気悪くして」

「ううん、大丈夫。
ロイ……ホントにお父さんのこと大好きなんだね」

ピットの一言に、ロイの顔は爆発したように赤くなった。


「な゛っ……
だ 誰だって親の悪口言われたら悔しいだろ!?」

「そりゃそうだけど……でもロイはそんなの関係なしにお父さんが大好きなんだってわかる。
そんな雰囲気がにじみ出てるもん」

「そ そ そんな」


しどろもどろになるロイの横では、ピカチュウが『ロイの弱みノート』に何やら書き込んでいる。

「『結論
襟足よわ男は親父さんと親父さん譲りの赤い髪が好きなナルシストだ』」

「ナルシストじゃねぇ!
あと何だ襟足よわ男って!?」


ロイの周りに再び笑いが起こる。


その赤い髪は、窓から射し込む明るい陽の光に照らされて、更に赤く、燃えるように輝いていた。





この赤い髪は


父さんと同じだって自慢できるところ


俺が唯一自分で好きだって言えるところ



みんなが好きだって言ってくれる


大事な宝物……

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