Super Smash Bros. Brawl
あれはマルス先輩にもアイク先輩にも、まだ俺が人と竜の混血だということを言っていなかった時……
俺はみんなを……大事な人たちを騙しているという罪悪感と、本当のことを打ち明けて嫌われた時の恐怖感との間で葛藤していた。
少しずつ、ほんの少しずつだけど。
俺の中にある違和感は、段々と大きくなってきていて。
……あぁ、また俺はいつか、悲劇を生んでしまうのだろうか。
3人で館の外に出てお茶している時も、いつもならバカ騒ぎするのに大人しくしている俺を見て、二人は心配そうな顔をした。
「……どうしたロイ、食べないのか?この肉うまいぞ」
「最近ずっと塞ぎ込んでるよね……何かあったの?」
「……マルス先輩……アイク先輩……俺……その……」
……だけど、俺には本当のことを話せる勇気がない。
「……いえ、何でもありません……」
「ロイ……?」
何も話したがらない俺に、二人はそれ以上何も追求することはなかった。
だけど俺は……情けないような申し訳ないような、複雑な感情でいっぱいだった。
その頃の俺は、自分の中に沸き上がる妙な感覚に怯えていた。
自分で何となくわかる。
いつか近いうちに俺は、竜の力が爆発してしまう。
だから、そっとしておいて欲しかったのに。
「ロイ!」
先輩達を遠ざけて、何日も顔も見せないで、嫌われても当たり前の事をしたのに。
先輩が俺を呼ぶ声を聞いた時、俺は嬉しさよりも悲しさの方が大きかった。
「……マルス先輩……アイク先輩……」
「やっと見つけた……」
……探さないでほしかった。
そっとしておいてほしかった。
このまま師匠と弟子の関係もやめて、いっその事もう、関わることすらやめて──……
「ねぇロイ……何か悩んでることがあるなら話して……?」
「稽古もサボって……メシもロクに食わないで……
一体どうしたんだ?お前らしくない」
「…………」
「大丈夫……どんなことでも僕は君を軽蔑したりしないから」
「(……もう逃げられそうにない、か……)」
いつまでもひた隠しに出来るはずもない。
打ち明けなければならない時があるとすれば、きっと今がその時なんだ……
「……先輩たちの世界にも、竜はいましたよね」
「え?うん……」
「いたぞ」
「……俺も、そうなんです」
先輩たちが息を飲むのがわかる。
「……俺は……人間とマムクートの混血なんです」
「!」
「マムクート?」
「アイク先輩の世界ではラグズ……竜鱗族って言うのかな。
俺の父親は人間ですが……
母親は……氷竜の血が半分入ったマムクートなんです」
「ロイが……氷竜と人間の混血……」
さすがのマルス先輩も驚きを隠せないようだった。
……アイク先輩は表情を変えず、腕組みをしたままだったけど。
「でも、そのくらいのことなら僕たち気にしないよ」
「種族の違いを乗り越えて、仲間になった奴は多くいる」
先輩たちならそう言うとわかってる。
『普通』の竜だったら、俺だって悩んでない。
だけど。
「……俺は、『普通』じゃないから……」
「……どういう事だ?」
「……小さい頃……俺は父さんと稽古してた時に……力が暴走して父さんを傷つけてしまったことがあるんです。
そのことが原因で……俺はフェレ侯爵家の仲間や領民たちから嫌われました。
……それに、俺には竜石は効果がありません。何度も試したけど……竜の力が石に流れていかなくてダメだったんです。
だから……いつ力が暴走するかわからない……」
自分ではコントロール不可能な力が、突然爆発してしまう。
そうなれば無意識に人を攻撃してしまう。
そんな危険な「竜」、恐れられるのが当然。忌み嫌われるのが当然。
だって、現にそうだったんだから。
「だから俺……お二人や、みんなに嫌われるのが怖くて……言い出せなかったんです……」
「ロイ……」
そんな俺の話を聞いても、アイク先輩は……全く動じていなかった。
「そんなことで悩んでたのか」
「そんなことって何だよ!ロイはそのことでずっと一人で苦しんで……」
「……悪い、言い方がまずかった。だが……
……それがどうかしたのか?」
「え……?」
アイク先輩の考え方は意外……意外過ぎるものだった。
だって、だって俺は……
「俺は……危険な存在なんです……それなのに……何とも思わないんですか!?
いつか貴方達を傷つけてしまうかもしれないのに……!」
そして……その日がもう遠くないということも……自覚しているのに。
「……俺にも今のお前と同じように悩んでいる仲間がいた。
そいつは竜鱗族のラグズと俺達人間ベオクとの混血で……どちらの種族にも忌み嫌われる"印付き"と呼ばれるものだった」
「!」
「だがな、俺はその話を聞いても何とも思わなかった。何者であろうがお前はお前だ、俺がお前を認めてやる……そう諭した」
「アイク……先輩……」
「……ロイ、竜の血が何だって言うんだ……
お前が力を抑えられなくなった時は俺が助けてやる」
マルス先輩は俺を抱き止めて、優しく頭を撫でてくれた。
「……話してくれてありがとう……
これでロイの悲しみも……少しはわかってあげられる」
「マルス先輩……アイク先輩……」
俺は安心したのと嬉しいのとで、感情が抑えきれなくなった。
俺の頬を、ぽろぽろと涙が伝っていく。
……元々、この館に来た理由は竜の力を故郷で爆発させたくなかったから。
愛する故郷を、領民を、家族を巻き込みたくなかったから。
……これ以上、大切な人たちに嫌われたくなかったから。
スマッシュシティなら構わない、なんて今思うととんでもない話だ。
今じゃ、こんなにもかけがえのない仲間たちがいる、大切な場所なのに。
……この人たちを、失いたくない。
「……最初は本当に……全員と付かず離れずの関係性でいようと思ってたんです……
いつか自分が暴走するってこと、わかってたから……
親しくなってしまったら……その後が辛いから……」
「…………」
「……でも、そんなこと出来なかった……
あの時……ファルコンさんとマルス先輩の模擬試合を見て……俺は、あなたに憧れてしまった」
「……あの試合の時……」
「あなたの元で学んで、技を盗んで……自分のものにしたいと思った」
竜の力に脅えながらも、剣士としての力磨きも忘れたくなかった。
自らの憧れである、父に少しでも早く追いつきたくて。
「……その後、ファイターが増えて……割とすぐに俺に土下座してきたな。弟子にしてくれって」
「……アイク先輩の力強い技に憧れたんです。お二人のいいとこ取りしたくて……だから弟子入りしたんです」
……だから。だからこそ。
「……こんな、こんなに楽しいのに、幸せなのに……この日常を……台無しにしたくない……」
「台無しになると決まったわけじゃない。大丈夫だ、今後は俺たちも助けになれるんだから」
「ロイの力を抑える方法も、何とかして見つけ出そう。きっと何とかなるよ。マスターハンドだっているんだから」
先輩たちが優しく背中をさすってくれる。
壊れた蛇口から溢れる水みたいに、涙が溢れて止まらない。
「……ずっと一人で抱え込んで悩んでたんだよね。
でももう大丈夫……何があっても……世界を敵に回しても……僕は君の味方だから」
「……俺もだ。お前を傷つける奴なんざ、俺が許さん」
「……ありがとう……ございます……」
……あぁ、この人たちが俺の師匠で、友人で……本当に良かった。
心の底から、そう思えた。
ーーーENDーーー