重い剣
大好きなロイ兄ちゃんに、早く剣を届けたい。
気持ちは逸るけれど、疲労で思うように足が進まない。
剣を抱える腕にも、あまり力が入らなくなってくる。
けれど、絶対に落とすわけにはいかない。
ロイ兄ちゃんの、大切なものだから。
「……よいしょ!」
ピチューは剣を抱え直し、ロイがいないか辺りを見回しながら歩く。
次第にコリンにも、その健気に頑張る姿が愛おしく見えてきて、何だか応援したくなるような、そんな気持ちになった。
だがピチューが見つけたのは、ロイではなくトランプに興じる子供達。
「あ、ピチューとコリンだ」
「おーい! ババ抜きやろーよ!」
「やらない!」
ネスの誘いを無視してそっぽを向くピチューの代わりに、コリンが申し訳なさそうに弁解する。
「今ピチュー極秘任務中だから」
「極秘任務?」
「ロイ兄ちゃんに、ピカピカに磨かれた封印の剣を届けるっていう」
「なるほど」
「ね、ちょっと触らせてよ」
「だめ!」
「いいじゃん、ちょっとだけ」
あっという間にピチューは子供達に囲まれ、封印の剣もネスの手に渡ってしまった。
当然、ピチューは物凄く不機嫌。
「どう?ネス」
「ん~……
マルス兄ちゃんのファルシオンの方が軽いかな」
続けて、剣はポポにパスされる。
「どれどれ……?
うん、アイク兄ちゃんのラグネルよりは軽くてマルス兄ちゃんのファルシオンよりは重くてマスターソードと同じくらい」
「何かわかりづらい」
そして最後はトゥーンに……
「うん、おいらなら問題なく振り回せる」
「振り回すな、人の剣を」
子供達がロイの剣を触りながら楽しそうに話している、その後ろで……
「む~~~………」
「ピ ピチュー、落ち着いてって……」
ピチューはずっと膨れっ面でその様子を見ていた。
「みんな鞘の上から触ってるだけだし」とコリンがなだめようとしても、「そもそもベタベタ触られるのが嫌」らしい。
それに、ピチューとしては早くロイに届けたいのだ。
「こんな重いの振り回して戦うなんて、剣士は大変だね~」
「いやぁ、それほどでも~」
「お前に言ってない」
やがてピチューは待ちきれなくなり、頬に火花を散らして地団駄を踏み始めた。
「もうかえして!
ロイにーちゃんにとどけるの!」
「わ……わかった、わかったよ……」
まだまだ電気を溜めるのが下手なピチュー。
興奮してやたらに放電されたら厄介だ……と、トゥーンはすぐに剣を返した。
すると、ピチューはすぐに機嫌を直し、大事そうにそれを抱える。
「ピチューにとってわざわざ自分から受けた大事な任務なんだって。
だから邪魔されたくないんだよ」
まぁ、オレも触らせてもらったけどね……と、コリンはそうフォローした。
「一生懸命なんだね、ピチュー」
「何か可愛いってゆーか微笑ましいってゆーか」
ピチューはさっさと先に歩き始めてしまっている。
……相変わらずフラフラだが。
「……と、オレもついてかないと」
「そっか」
「任務終わったら遊ぼうね」
「うん!」
アイスクライマーの二人と約束を交わし、コリンは急いでピチューの後を追った。
「もうっ……みんなのバカ!
ボクははやくロイにーちゃんをさがして、わたさなきゃいけないのに!」
「あはは……」
子供達に足止めを喰らってしまい、思わぬタイムロスをしてしまった。
今頃ロイは剣が必要になって、必死で探しているかもしれない……
そう思うと、焦らずにはいられなかった。
「はやくロイにーちゃんさがさないと……」
ピチューが小さなため息をついた、その時……
「その必要はねーぞ」
ピチューの耳に聞こえてきた、大好きな人の声。
大きな耳が、その声に反応してぴくりと動く。
「俺ならここだ」
子供達のいた部屋から少し離れた和室。
そこから、ロイが顔を覗かせている。
「ロイにーちゃん!」
途端、ピチューの瞳が嬉しさでキラキラ輝いた。
そして剣を抱えたままロイに駆け寄り、足元にぎゅっと抱きついた。
コリンも少し、ホッとしたような顔で二人に近づく。
「アイク先輩んとこに剣取りに行ったら、『ピチューが届けに行った』って言われてさ……
行き違いになったと思って探してたんだよ」
「そっか……オレ達がロイ兄ちゃんの部屋についた時には、ちょうどロイ兄ちゃんもリビングに向かってたんだ」
「も~~~っ……
コリンのせいだよ!」
「ほんの2、3分じゃん!」
多分、そのやり取りがなかったとしても間に合ってはいなかったかと思われるが。
「………………」
ピチューはロイの足元から離れ、封印の剣を少し見つめた後、小さな手でそれを差し出した。
「ごめんね、ロイにーちゃん……
おそくなっちゃって……」
「ほんと、時間かかったなぁ」
その言葉に、ピチューは悲しそうに俯く。
だがロイはピチューの前にしゃがみこんで、優しく微笑んだ後、ピチューが一生懸命運んできた封印の剣を受け取った。
「へぇ……、傷一つつけずにちゃんと運んできてくれたんだな」
「マルスにーちゃんにいわれたとおり、おとしたりひきずったりしないように、きをつけたんだよ」
「……そっか。
重いのに、よく頑張ったな……
……ありがとう」
「えへへ……」
大好きなロイに頭を撫でられ、ピチューは幸せそうに笑った。
ここまで頑張ってきて良かった……
そう思えた。
だが、ピチューの幸せはこれだけではなかった。
「そうだ……お礼に、俺がとっといてたロールケーキやるよ」
「ロールケーキ!?
やったぁーーーー♪♪」
まさかご褒美にスイーツまで貰えるなんて。
ピチューは嬉しさのあまり、ぴょんぴょん飛び跳ねた。
しかもロイが持ってきたのは、この辺りでは有名な洋菓子店の大人気ロールケーキ。
「良かったね、ピチュー」
コリンはそんなピチューを微笑ましく、どこか羨ましそうに見ていたが……
「コリンも食うか?」
「え?」
思わぬ声がけに、一瞬思考が停止した。
「いや、でもオレ何もしてないし」
「食べたそうな顔で言うなよ」
「あう……」
ロイにはバレバレだった。
我慢してはいたけれど、本当は自分も食べたくて仕方なかったのだ。
「で でもただついてきただけなんだけど」
「いいから、他の奴らに見つかる前に食え」
そう言って、ロイはコリンにロールケーキを渡してくれた。
「う うん!
ありがとう、ロイ兄ちゃん!」
「よかったね、コリン!」
ピチューは頬に生クリームをつけながら、満面の笑みを浮かべた。
同時に、コリンも今日一番の笑顔を見せたのだった。
「おいしーい!」
「ね、すっごくおいしいね!」
重い剣を届けるという重大任務を果たしたピチューと、ほぼ勝手にお供としてついて来たコリン。
そのご褒美はこの上なく嬉しく、そして……
(だいすきなロイにーちゃんと、コリンといっしょに、おいしいロールケーキがたべられて、ボクすっごくしあわせ!)
(ついてってよかった……)
小さな少年達の心の中にいつまでも残る、思い出深いものとなった……
ーーーENDーーー