おつかれさま


そして4月20日、マルスの誕生日当日。


「何とか間に合ったねぇ」

「……ああ……」

食べかすを口元に付けたまま楽しそうなカービィの横で、ぐったり疲れた様子のアイク。

この日まで沢山アップルパイを焼いて、失敗ばかりしてきたが、何とか納得いくものが出来上がった。

失敗作は全てカービィの腹の中。

後はピーチに花を選んでもらえば準備は万端だ。


「アイク先輩!」

そこへ、ロイがピーチを連れて戻ってきた。


「今日の夜はリュカとマルス先輩、二人の誕生日パーティーをするそうです」

「そうか」


知らないところで誕生日パーティーの計画が進められていたらしい。

今日はたらふく肉が食えそうだ……と思いつつ、アイクはロイの言葉に一つ疑問を感じた。


「ん? 待て、今リュカも……って言ったか?」

「あ……はい。さっきその話を聞いて、リュカも今日が誕生日なのを思い出して……」

「そうだったのか……
…………なぁ、ロイ」

「はい?」

「お前、確か子供達とも仲良かったよな?」

「……えぇ、まぁ」

「なのにリュカの誕生日を忘れていたのか?」

「……忘れてました……」

「………………
……お前、一度リュカの最後の切り札食らった方がいいぞ」

「……すみません……」


カービィは「ダメだねー」と呆れ、ピーチにも「忘れっぽいのね」と笑われる。

きっとこのままじゃ子供達からも非難轟々だろう。


リュカへのプレゼントは夜までにどうにかすることになった。


「とりあえず、パーティーまではマルス先輩をゆっくり過ごさせてあげるようにみんなには言ってあります」


これで何とか、マルスに最大のプレゼントである「休息」をあげることもできそうだ。



「アップルパイ、上手に出来たわね」

「めっちゃ頑張りました……」

「めっちゃ美味しかったー!」

本当にお前は食ってばっかりだったな、という目線もものともせず幸せそうなカービィ。


「ふふっ……それじゃ、次はお花ね……一緒に花壇に見に行きましょう」

「はい!」



屋敷の庭にはとても大きな花壇がある。
様々な国、地域の花がこれでもかと植えられていて、植物園と呼べるほどの代物。

これまたルイージに借りた花言葉の本を見ながら、ロイは何だか楽しい気分になってくるのを感じた。

自分の誕生日ではないけれど、自分の事のように嬉しくなる。


マルス先輩も、こんな風に喜んでくれたらいいな……と願いながら、ロイはピーチの後をついていった。








夜になり、誕生日パーティーが始まった。



「マルス! リュカ!誕生日おめでとーーっ!」


カラフルに飾られた大広間で、あちこちからクラッカーの音が鳴り響く。


「な なんだか恥ずかしいな……」

「えへへ……みんなありがと!」


誕生日パーティーは今までに何度かやっているが、毎回豪華になり続けている気がする。

マルスもリュカも、皆に囲まれてとても幸せそうだ。


「リュカ、これお前にプレゼントな」

「……あ! これ、ずっと欲しかったマグカップだ!」


昼間まで忘れていたリュカの誕生日。

カービィのリサーチで、何とかリュカがとあるマグカップをずっと欲しがっていたことを突き止め、それを用意することができた。

もちろん、他の皆に「誕生日を忘れてた」ということも知られずに済み、ロイは嬉しそうなリュカの顔を見ながら安堵の息をつく。


一方、ピーチはいち早くマルスにプレゼントを渡していた。


「素敵な香水だね……
僕、香水とかつけたことないけど……大切に使わせてもらうよ」

「ふふっ……良かった」


「せんぱーい!」

「あら、あなたの愛弟子と親友のお出ましね」


邪魔物は退散するわ、とピーチはその場を後にする。

その際、すれ違いざまにロイ達に優しく微笑みかけた。


「マルス、俺達はアップルパイを手作りしてみたんだ」

「えっ……手作り?」

「はい! 一生懸命頑張りました!」


お菓子なんて全く作ったことのない二人。

少し不安になったが、漂う匂いは美味しそうなアップルパイそのものだ。


「それから先輩、これも……」


ロイが渡したのは、丁寧に包まれた白いバラの小さな花束。


「これは……?」

「白いバラの花言葉は『尊敬』なんだそうです。
俺達はマルス先輩のことすごく尊敬してるから、ピッタリだなぁって。
ね、アイク先輩」

「え? 俺も……?」

「あれ、アイク先輩は尊敬してないんですか?」

「い、いや……そういうことではなく……
俺はどちらかというと、尊敬よりも大事な友という認識の方が……
……って、何を言わせるんだお前は……」


アイクは恥ずかしそうに顔を赤くする。

自分を尊敬してくれるロイと、大事な友達だと思ってくれているアイク……

そんな二人の気持ちが嬉しくて、マルスは嬉しそうに笑った。


「ありがとう、二人とも……」


「(良かった、喜んでくれて……)」


マルスの笑顔に、ロイもアイクもほっと一安心。


「……ねぇ、これ食べてみていい?」

「もちろん!」


パイ生地のサクサク具合を上手く出すのに苦労したが、それも最後には何とか上手に焼けた。


「……うん、すっごく美味しい!
本当に、今まで食べた中で一番美味しいよ」

「よかった!」


一番聞きたかった感想を聞くことが出来て、ロイもアイクも笑顔になる。

美味しそうにアップルパイを食べるマルスの姿は、一週間分の苦労を一瞬にして全て吹き飛ばした。








どんちゃん騒ぎの続く誕生パーティー。

全然関係のない大人が酒を飲んでハイになっていたり、子供達がケーキばっかり食べて他の皆に怒られていたりと、数時間経ってもなかなか終わる気配はない。


マルスは少し疲れたため、静かなところで休もうと外に出ていた。

遠くから皆の様子を見つめているだけでも楽しくて、思わずクスリと笑ってしまう。

そこへ、同じようにパーティーを抜け出したピーチがやってきた。


「マルス、楽しんでる?」

「うん、こんなにお祝いしてもらえると思わなかったから……凄く嬉しいし、楽しいよ。
ただ、ちょっと疲れちゃったかな……」

「そうね……私も盛り上がりすぎちゃったわ」

ふと、風に乗って香水の香りが辺りに漂った。


「……あら、香水つけてくれたのね?」

「うん、いい香りで僕も気に入ったよ」


それを聞いて、ピーチは少し迷った。

本当はアイクが選んだものだと正直に言った方がいいのかもしれない、と。

本人には言わなくていい、と言われたけれど……


「………………」


そして悩んだ挙げ句、ピーチは言うことにした。


「あのねマルス……ホントはね……」


ピーチから真実を聞いたマルスはちょっぴり驚いた顔をした。


「えっ……アイクが?」

「言わなくていい、ってアイクには言われてたんだけど、嘘をつくのは嫌だったから……
私が決められずにいた時に、これがマルスに似合いそうだって言ってくれたの」

「そうだったんだ……」

「だから、これは私とアイクの共同のプレゼントね」


あのアイクが選んでくれただなんて、想像しただけでちょっとおかしくなる。


「ふふっ……じゃあ、アイクの為にも毎日つけなきゃ」

「そうね、それがいいわ」


何だかアイクの恥ずかしがる顔が目に見えるようだ。


「……さて、そろそろ戻ろうかな」

「あら、大丈夫なの?」

「うん。みんな僕とリュカの為に祝ってくれてるんだもん。
主役がいなきゃ、意味ないからね」

「……優しいわね、マルス」


それなら私も最後まで……と、ピーチも戻ることにした。

それから更に数時間、お祭り騒ぎが続くとは知らずに……





 


深夜、みんなが疲れて眠る頃。

ロイはマルスの姿を探していた。


「マルス先輩、もう寝ちゃったかな……」


大好きな先輩とお喋りして眠りたかったのだが、あれだけ騒いだ後。

もう疲れて寝てしまっている可能性も高い。

半ば諦めながら、リビングに向かっていると……


「あれ、何してるんですか?」

「……あぁロイ……アイクにちょっとマッサージを、ね」

「なかなか凝りが酷くてな。よほど体を酷使していたんだろう」

アイクはうつ伏せになったマルスに丁寧にマッサージをしていた。
……だいぶ、いやかなり、力が入っている気がする。

「アイク先輩がマッサージできるの知らなかった……」

「俺の力強さが、凝りの強い奴らに人気らしい……
頼られるのは嫌いじゃないから、練習していたら割と極めてしまった感じだ」

もしかして整体師になれるのではないだろうか。


「先輩、マッサージ代わりましょうか」

「お前にできるのか?」

「たぶん」

「じゃあやってみろ」


マルスの疲れが取れるよう、敬愛の気持ちを込めてロイは一生懸命マッサージをする。

が……


「……うーん、もっと強くしてほしいかな……」

「えっ!?だいぶ力入れてますけど!?」

「全然足りない……」

「言っただろう、こいつの凝りは並大抵のものじゃないんだ」

「マジすか……」

「よし、また俺が代わろう」

「……あ〜〜……そうそう、これがいい……」


アイクがマッサージをすると、俄然気持ちよさそうなマルス。

この差は何なんだ……と、ロイもアイクがちょっぴり恨めしくなる。


「……そういえば、今日は一日何もするなって言われて……少し落ち着かなかったんだけど。
それも、君たちが僕に休みをくれたからなんだってね」

「あぁ、お前は頑張りすぎだからな。こうでもしないと休まないだろう」

「……そうだね。忙しいのが当たり前になってたから……自分が疲れてることにすら気づかなかった」

疲れが溜まった結果、こんなにも体が固まってるんだぞ……とアイクはマッサージを続けながら呟く。


「お前が雑務を率先したり、人の頼みを断らない性分なのは十分わかってる。
だから……もっと人を頼ることを覚えろ。俺たちだって、お前の負担を軽くするよう手伝うくらい、いくらでもやる」

「そうですよ、これからは先輩がいいって言っても手伝いますからねー」

「……ごめんね、2人とも…… 本当に、ありがとう」



それから僅か数分後。


「……マルス先輩?」


気付けば、マルスは健やかな寝息を立てていた。


「……寝ちゃってる……
よっぽど気持ちよかったんだ」

「むう……俺にはマッサージの才能があるのかもしれん」

「じゃあ先輩、俺にもやってくださいよ」

「気楽な生活してるお前に体の凝りなんてないだろう」

「凝りますよ!?竜の時とか、特に肩凝りが!」

「できるか!」


マルスを起こさないように小声でそんな会話をしながら。

改めて、マルスは毎日大変な日々を送っているのだと思い知らされた。


そんな時……


「……うう……ん……アイク……ロイ……」

「?」

「………ありがとう…………」


寝言だろうか。

そう呟くマルスの表情は、どこか嬉しそうにも見えた。


「先輩……」

「……ただの寝言だというのに……
……何故か嬉しいものだな」

「そうですね……心が温かくなる気がします」


そう言って、ロイはマルスの背中にブランケットをかけた。

明日からはまた多忙な毎日が繰り返されるだろう。
無理をしないように自分たちが気にかけねば。


「ふあぁ……俺も眠いや……」

「そうだな……さすがに疲れた。
部屋に戻るのも面倒だ、俺もここで寝る……」

「……じゃあ、俺も……」


これからはマルスの負担を少しでも軽くしてあげたい。

ロイとアイクはそう思いながら、やがてマルスを挟んで眠りについたのだった。



(……マルス……)

(マルス先輩……)




(おつかれさま………)



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