おつかれさま


雑貨売り場をうろついていたところで、二人はある人物を見つける。


「……ピーチ姫?」

「あら、アイクにロイ君……どうしたの?」


それはロイ達の買い出しとは関係なく、完全なプライベートで買い物に来ていたピーチだった。

その証拠に、肩から大人気アパレルショップの袋を下げている。


「マルス先輩のお手伝いで、いろいろ買い出しに行ってきたんです。
でも、もうすぐマルス先輩の誕生日だから……プレゼントに何かいいものが見つからないかなって」

「あら、私もちょうどマルスへのプレゼントを買おうと思ってたのよ。
日頃からお世話になってるしね」


マルスは王子、ピーチは王女という似たような立場から、二人はかなり前から仲の良い友人関係である。


「ここは……香水売り場だな」

「マルス、香水とか似合いそうじゃない?」

「そうですね……
……あっほら、これなんかいい香りですよ」

「……ああ……
……だがロイ、それは女性用だぞ……」

「…………あ」


ロイは思わず顔を赤くした。

よく見れば香水の入れ物もパッケージも、名前に至るまで、非常に女の子らしい可愛いものだったからだ。

そんなロイをよそに、アイクはちゃんと男性用の香水の見本の中から、自分がいいと思った香りを選ぶ。


「……これなんかどうだ?」

「あら、アイクはこれが好みなの?」

「い、いや……マルスだったらこれが一番似合いそうだと思っただけだ」

「じゃあ、これにしようかしら」

ピーチはそう言って、迷うことなくその香水を手にとった。


「いいのか?俺の好みなんかで」

「ホントは男の子の香りの好みがよくわからなくて決めかねてたの。だからアイクの意見に乗るわ」

「そうか。役に立てたなら良かった。
……俺が選んだってことは言わなくていいからな」

「わかったわ、ありがとう」


プレゼント用に包装を施してもらい、ピーチはどこか安心したような、嬉しそうな顔を見せた。

……早く自分達もプレゼントを決めて安心したい。

ロイとアイクはちょっぴり焦っていた。


「……ピーチ姫の方が先にプレゼント決めちゃいましたね……」

「ああ……」

「ごめんなさいね……」

「いや、構わんが……」

「あぁーもうっ!何も思いつかないっ!」

「むぅ…… 友に渡すプレゼントを考えるのが、こんなに難しいとは思わなかった」

「なかなか決まらない、っていうのは相手の事をそれだけ大切に思ってるってことじゃない」

それだけ悩んでもらえて、マルスは幸せ者ね……とピーチは微笑んだ。


「………………」

このままでは、マルスの誕生日に間に合わないかもしれない。

ロイはずっと考えていた、あることを口にした。


「……先輩……俺……
やっぱり、アップルパイ作ってみようかと思うんです」


それはロイが、最初に思いついてからずっと捨てきれずにいたアイデア。


「何回失敗しても……先輩が美味しく食べられるようなアップルパイに仕上がるまで、諦めずに頑張ってみようかなって……」

「……そうか」


やはりあれこれ悩むより、最初に思いついたものをあげる方がいいのかもしれない。


「わかった、それなら俺も手伝う」

「ありがとうございます!」

「私もいいと思うわ。手作りのお菓子なら、気持ちがこもっててきっと喜ばれるもの」

「やっぱり、そうですか?」

「ええ!」


手作りこそ、一番心がこもる最高のプレゼントになる。

ピーチもそう言って勧めてくれた。


「それと……お花でも添えてあげたらもっといいんじゃないかしら」

「花……ですか?」

「適当な花を渡すんじゃなくて、花言葉とかも考えてあげるといいかも。
そうね……当日、プレゼントを渡す前に私のところにいらっしゃい。そしたら、ピッタリの花を選んであげるわ。
庭にある花壇なら、きっといいお花が見つかるでしょう」

「ありがとうございます!」


これでプレゼントするものは決まった。

ピーチがピッタリの花も選んでくれると言うし、これならマルスに渡すのに申し分ないだろう。


「二人なら菓子作りも何とかなるだろう。
……だが、レシピも何もわからんな」

「俺、ルイージさんにお菓子作りの本借りてきますよ」


部屋の中が図書館状態のルイージなら、料理の本も揃えてあるだろう。


荷物を運んで屋敷に帰ってきた後、ロイは早速ルイージの部屋を訪ねることにした。





「……そっか、マルスに手作りのお菓子をあげるんだね」

「はい、それでレシピ本をお借りしようかと」


ロイの話を聞いたルイージは、読んでいた分厚い本を閉じ、料理関係の本がある棚に向かった。


ロイは正座して待ちながら、部屋中を物珍しそうに見回す。

ルイージの部屋に来るのは初めてではないが、何だかまだ少し緊張する。


「……あれ」


ロイは部屋の本棚のあちこちに好き間が空いていることに気づいた。

几帳面なルイージが隙間をそのままにしておくなんて、考えられないが……


「……本棚……結構、隙間がありますよね」

「ん?
ああ……他のみんなも、最近よく本を借りに来るから……」


ルイージが様々な本を持っていると聞いて、本が好きな人や絵本を読みたい子供達が部屋を訪ねてくるという。

ルイージも昔とは違い、仲間と関わることが増えたためか、誰かが本を借りに来ても迷惑だとは思わず、むしろ嬉しいのだとか。

「何だか……図書館の司書になったみたいで、楽しいんだよね」


ルイージはそう話しながら、精一杯背伸びをして、本棚の上部にあるお菓子の本を取った。


「アップルパイの作り方なら……この本が一番わかりやすいんじゃないかな。
『子供でもできる 初めてのお菓子』」

「……『子供でも』って……」

「しょうがないでしょ、君達一度もお菓子なんか作ったことないんだし……
このくらい初歩の本じゃなきゃ、大爆発起こしかねないもの」

「だっ……大爆発は起こしませんよ!誰がそんなありえないヘマを……」

「……いたんだよ。 見栄張って、上級者向けの本見てお菓子を焼こうとして、大爆発起こしたバカが……」

「……あ……ま、まさか……」

「そう。僕のバカ兄……」

なるほどな……と思わず納得してしまう。

あの人ならやりかねないだろう、と。


「前にケンカした時……マリオがお菓子焼こうとして、キッチンで大爆発起こしたんだ。
『仲直りしたいだけだったのに、失敗しちゃった』……って、マリオがあんまり子供みたいに大泣きするから……
もうおかしくなっちゃって、それで許してあげたんだ」

「へぇー……いい話……なのかなー?」

「……まぁ、今となっては、そうかも」

ルイージは恥ずかしそうに笑う。


「それじゃあこれ、お借りしますね」

「うん。あんまり汚さないように気をつけてね」


ロイが頭を下げて、部屋を出ていこうとした時。

「お話は聞いたよー!」

ガチャッ、と勢いよくドアが開いたかと思うと、ピンクのボールのようなものがぴょんと飛び跳ねながら入ってきた。


「カービィ!?」

「ボクもお手伝いする!」

「え゛!?」

「……まぁ、カービィも料理は得意だから……役には立つかもよ?」

いつも夕飯の支度を手伝ってくれてるし、腕は確かなはず……とルイージは言う。


「う~~ん……」

「あ、信用してないなー!?」

心配なのは料理の腕だけじゃないのだが。


「まぁ、健闘を祈る……頑張ってね」


ルイージに見送られ、勝手についてくるカービィを振り切る事も出来ないまま、ロイはとりあえず本を片手にアイクの元へ向かうことに。


「アイクせんぱーい」

「ん……」

ロイの横にいるカービィを見た瞬間、アイクは顔をしかめる。


「本を借りにルイージさんの部屋に行ったら、何故か話を聞きつけたカービィも来ちゃいました……」

「だって、ロイとアイクだけでお菓子作りなんて不安でしょうがないんだもん!」

「大丈夫だよ!ルイージさんに『子供でもできる』お菓子の本借りたんだから!」

「……俺は完成した菓子をお前に食われないか不安だ」

「だいじょーぶ!いくらボクでもプレゼントにするお菓子食べたりはしないよ!
……まぁ、練習の分は食べるけど」

「…………」

そうだろうな、とロイもアイクも白けた顔をする。


「そんな顔しないで前向きに考えてみてよぉ! もし失敗しても、それをボクが食べるから捨てずに済むってことなんだよ!?
それに、ボクもお料理得意なんだから!」

「……そうなのか?」

「ルイージさんのお墨付きです、一応」

「……そうか。なら……よろしく頼む」

「うん!当日まではしっかりアドバイスするよ!
でも当日はボクのアドバイスも無しで、完全に二人で作ってもらうからね」

「ああ」


こうして、当日までカービィと共にアップルパイを作る練習をすることになった。


「それじゃあ、まずはボクの最後の切り札を発動して……っと」

「待て待て!最初っからオカシイだろ!」

「(……本当に大丈夫なのか……?)」


やっぱりちょっと心配になるアイクなのだった。
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