Super Smash Bros. Brawl


どこからともなく聞こえてくる、お屋敷の中をバタバタと走り回る音。


「……無い……」

隙間という隙間を確かめ、棚という棚を確かめ、壺までひっくり返して、ロイはある物を探していた。


「無い……どこにも無い……」








「竜玉が無い~~~~~!!!!」




ロイのその叫びはお屋敷全体に轟いた。


と、同時に近くの個室のドアがバタン!と開く。


「うるっせえぇ!朝っぱらから騒いでんじゃねぇ!」

「す…すみませんウルフさん!」

「俺はな、気持ちよく寝てるところを妨害されるのが一番嫌なんだよ!」

「ごめんなさい!ホントすみません!」



そんな二人のやりとりはリビングにまで聞こえていた。


「久しぶりにウルフの怒鳴り声聞いたな」

「つーかもう昼なんだけどな」

「ま、ウルフ兄ちゃんには朝も昼も同じだからねぇ」


と、のんびりお茶を飲むフォックスやマリオ、コリンの所に、ドタバタと向かってくる足音。


「あ、来た」

「おはようございます!
いきなりですけど俺の竜玉知りません!?」

「知らん」

「知るか」

「知るわけねーし」

全くの無関心。 全くの無感情。


「み……みんなもうちょっと興味持ってくれてもいいんじゃ……」

「自業自得だろ」

「ったく……大事なものならきちんと管理しておけってんだ」

「うう……」

そう言われては何も反論できないのだが。


がっくりうなだれるロイを見て、マルスが近づき優しく声をかけた。

「最後にどこに置いたか覚えてないの?」

「えっと……今日はピカチュウと乱闘の約束があったから珍しく早起きして……
乱闘部屋に入るまではちゃんと持ってました。
乱闘の前に着替えて、竜玉も棚に置いたはずなんですけど……」


いつもは早くても午前9時までは寝ているロイ。

だが前の晩、ピカチュウに「明日は朝から乱闘しようぜ」と誘われ、その日は早めに寝た。

今朝は7時に起き、冷水で顔を洗いしっかり目を覚まして、竜玉を首にかけて乱闘部屋に向かったのも覚えている。

乱闘部屋でルール設定をして、竜玉を着替えと一緒に自分の棚に置いたのも、ハッキリ覚えている。

だが乱闘を終わって見たら、竜玉だけが無くなっていたのだ。


それからロイはずっと竜玉を探し回っているのだという。

ピカチュウは心配する素振りも見せず、さっさと帰って今はピチューのおままごとに付き合う始末。


「またマスターに作ってもらえば?」

そう言うコリンに、ロイは猛反撃。

「ムリだよ!俺の力は全部あの竜玉に封じてあんの!
だから竜玉のない俺はただの人間なの!
つまりまた竜玉作ってもらうことなんか出来ないの!作ったところでただの石なんだよ!
それに俺のは特別製だから簡単には作れないの!
またマスターぶっ倒れることになっちまうだろ!」

「わ……わかったわかった……だからとりあえず落ち着け、な?」

フォックスになだめられて、ロイは「はぁ……」とため息をついた。


「このままじゃ俺もう一生竜になれねーじゃん!
せっかく人と竜の架け橋になるって最近決めたのに!」

「最近……?」

「竜玉のない竜はただの人間……てか」

楽しそうに笑うマリオはロイが困っているのを見て楽しんでいるようだ。


「まぁ普通のマムクートならともかく、ロイは人間としてもちゃんと戦える訳だから……」

「そうだ、剣の道一本でやってきゃいいだろ」

「やだよー!母さんに申し訳ねぇよーー!
母さーーーーーーん!!!」

「あーもう落ち着かんかい!」

「嘆く暇があるんなら探せバカ!」

「うう……」


再びしょんぼりうなだれるロイ。

そしてそのままどこかへ行ってしまった。



「う~ん……」

ロイが去った後、近くで見ていたマルスがティーカップを片手にマリオたちの元に来た。

「……でも変だよね。いきなり無くなるなんて……」

「……確かにな。 誰かが盗ったとか……?」

フォックスがそう呟いた瞬間。

すぐ隣のダイニングの方で、何かが落ちる音がした。

「何だぁ?」

音のした方を覗くと、慌ててコップを拾うトキの姿があった。
プラスチック製なので、幸い割れてはいない。

「……トキ?何やってんだ?」

「い、いやぁ……ちょっと手が滑って……ハハ」

「……ふーん」

冷や汗タラタラでどこか落ち着きのないトキ。


まるで、何かを隠しているかのように……


「(オレ、トキ兄ちゃんと同一人物だからわかるけど……アレは絶対、何か隠してるよ)」

コリンが小声でマリオ達に言う。

「(やっぱり……)」

「(……怪しいね)」

「(あぁ……)」







その日の夜……


「はぁ~~あぁ~~あ………」

夕食の後、ロイはテーブルに伏せたまま、だらだらと全く動く気配を見せなかった。


「ロイどうしたんだ?」

「竜玉がまだ見つからないんだとよ」

「あ~……」


あれからずっと探し回ったものの、竜玉はまだ見つからない。


このまま本当に一生竜になれないまま、剣士として生きていくしかないのだろうか。

「母のように気高く立派な竜になる」という夢も、最近決めた「人と竜の架け橋になる」という夢も、諦めなければならないのだろうか。


「はあぁ……」


何百回目かもわからないため息をついた、そんな時……



「あの~……ロイさん……」

「ん? 誰か呼んでる……?」

辺りを見回しても、声の主はどこにも見あたらない。

「ここです、ここ」

ここです、と言われた方を見つめると……


「あっ……ウォッチさん!?」

「です。さっきから声をかけてたんですが……」

「すみません……気づきませんでした……」

「いえ、いいんです……慣れてますから」

平面な彼は存在を人に気付かれにくい。

横から見ればそこにいる……とわかるのだが、縦から見たらまるでペラペラの紙のよう。

動きもカクカクしているし、謎の多い人物だ。


「さっき、ファルコさんとワリオさんのケンカから逃れるために、家具の隙間に入り込んだんです。そしたら、そこにコレが……」

ウォッチが差し出したもの、それは……


「あっ!竜玉!」

「奥の方に落ちてました。私じゃなきゃ気付かなかったでしょうね」

「ありがとうございます!」

ロイは何度も何度も頭を下げた。

ウォッチは「いいんですよ」と言うが、安心と優しさでロイの瞳には涙が滲んでいた。


「ファルコさん達がケンカしてなければ、私があそこに入り込むこともありませんでしたし……結果オーライですが、見つかって良かったです」

「ある意味ファルコさん達にも感謝ですね……はは」

ロイは竜玉を大事そうにぎゅっと抱きしめ、首にかけた。


「あれ、でも何でこんなとこに……」


その時。

「……………!」

一瞬目が合ったトキが物凄い勢いでわざとらしく顔を逸らしたのを、ロイは見逃さなかった。


「……トキ?何で顔反らしてんだ?」

「え? い いや……何でもないヨ?」


……実に怪しい。


「もしかして、トキさんが隠したんですか?」

「ちっ 違げーよ! 俺はただちょっとからかうつもりで……
…………あ」

そこまで言って、トキは慌てて顔を逸らした。

ウォッチの問いに慌てふためき、ついボロが出てしまったのだ。


「からかうつもりで……何をしたんだ?」

「あ いや……その……」

ロイは封印の剣に手をかける。

「5秒以内に答えろ……さもなくば燃やすぞ……」

「え!? あ あのその……」

「いーち…… にー……」

「あ、退避した方が良さそうですね」

危機感を感じ、ウォッチはそそくさと逃げ出す。

「さーん……」

「わ わかったよ言うよ!」


燃やされるのだけは勘弁だ、とトキはようやく口を割った。


「えっと……お前をからかうつもりで……お前が乱闘してる隙に、竜玉をちょこっと拝借したんだ……」

ロイはクレイジーの教えを守り、乱闘の時は竜玉を外している。

トキはそれを知っており、こっそり竜玉を持ち去ったのだという。


「暫くしたら返すつもりだったんだ……
でもその時、手が滑ってそこの隙間に入り込んじゃって……
慌てて取ろうとしたらお前の声が聞こえたから……」

「……知らんぷりして通そうとそのままにした、と?」

「……はい……」

「……トキ」

ロイは俯いたまま、身体を震わせている。

「……俺めちゃくちゃ探したんだぞ……
探して探して……もう見つからないって諦めかけて……
お前のせいで、俺すげー落ち込んだんだぞ……
もう笑って許せるようなことじゃねぇんだからな……」

「ご ごめん……」

「……覚悟しろ……」

そう言って、ロイは鞘から封印の剣を引き抜いた。

「……え!? ちょ ちょっと待て!
何で剣構えてんの!?ちゃんと5秒以内に話したじゃん!」

「問答無用!」

全力を込めて、赤く燃える刀身を振り下ろす。


「『エクスプロージョン』!」

「ぎゃーーー!?」

途端、爆音がお屋敷中に響き渡った。



「な なんだぁ!?」

「イタズラ好きの勇者が炎の裁きを受けてんだよ」

驚くファルコとは裏腹に、ピカチュウはのんきに茶をすする。



「うう……結局こうなるのかよ……」


後には真っ黒焦げのトキの姿があったそうな……








「これからは無くさないように夜も首に下げて寝るよ」


今日の一件で、もう二度と竜玉を無くさない、奪われない……と誓ったロイは、寝るときも竜玉を首にかけたまま眠った。



が……次の日……

その事が悲劇を呼んでしまった。


「……ロイ」

「はい……」

「僕の言いたいことはわかるね……?」


イライラ気味のピットの前には、正座して冷や汗をたらすロイの姿があった。


「無くさないように竜玉首に下げるのはいいけどさ!
寝ぼけて竜化してブレス吐きまくるなんて聞いてないよ!」

「……ごめんなさい……」


元々ロイは週に3日はベッドから落ちて目覚めるほど寝相が悪いのだが、昨晩は寝ぼけて竜化し、挙げ句暴れ回って氷のブレスを吐きまくったのだ。

自室はもちろん冷凍庫のように凍り、近隣の部屋にも真冬のような冷気が流れ込んだ。

向かいのピットの部屋が一番被害を受け、そのせいでロイに説教しているのだ。


「僕の部屋にまで凄まじい冷気が来てさ……見ての通り翼に霜が降りたんだよ」

いつもふわふわで暖かい羽根は一枚一枚硬くなり、自由に動かすこともままならず、ピットはものすごく不機嫌な顔をしている。


「天使の生命力は高いから大丈夫だったけど……下手したら翼が壊死するとこだったよ」

「すいません……」


その様子を、面白がるファイターが何人か笑いながらこっそりと見ていた。


「今度はロイが怒られてる……」

「確かに寒かったけどね……
……っくしゅん」

「ルイージ風邪か!? よし俺が温めてやろう……
……げふぁっ!」

マリオがルイージに本で殴られている横では、スッキリと清々しい顔のポポとナナが。

「ボクにはいい目覚めだったよ」

「私も!」

「アイスクライマーはそうだろうけど」



「大体ロイはいっつも……」

「……うう……」


この後、今回の件とは全く関係ない話も含め、ピットのお説教は一時間も続いた。

精神に大ダメージを受けたロイは3日ほど落ち込み、改めて自分の寝相の悪さが恨めしくなった。

また、今回の教訓として、竜玉を使わない時は鍵付きのボックスにしまうようにしたようだ。



そして黒焦げになったトキも少しは懲りたようで、暫くはイタズラをすることもなかったそうな……



ーーーENDーーー
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